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1頭でも多くの馬にナイスのような穏やかな余生を…ナイスネイチャのバースデードネーション(3)

  • 2021年05月19日(水) 18時00分
第二のストーリー

カメラ目線のナイスネイチャ!(提供:渡辺牧場)



まだまだ元気! 放牧生活を満喫中


 5月17日に「ナイスネイチャ・33歳のバースデードネーション」が終了した。「ウマ娘プリティーダービー」の効果もあり、16,296人の支援者から35,829,730円が集まった。
 
 そのナイスネイチャは、2001年に種牡馬引退ののちに認定NPO法人引退馬協会のフォスターホースとして、生まれ故郷の北海道浦河町にある渡辺牧場で穏やかに暮らしている。

 33歳と高齢ながら、ほぼ毎日、メテオシャワー(以降メテ)とともに朝から夕方まで放牧生活を謳歌している。

「ウマ娘がブームになっているので、ウマ娘関連の記事には目を通しているのですが、どうもナイスはいじられキャラになっているように感じて、イメージにとても合っているなと思いました」

 と話すのは、渡辺牧場の渡辺はるみさんだ。

「種牡馬を引退したばかりでまだ去勢前には1頭で放牧していたのですが、隣の放牧地のセントミサイル(のちの放牧仲間・2018年6月・28歳没)には負けないぞとばかりに牧柵越しに蹴り合っていて、渡辺牧場の王様という感じでした。それが去勢してからは1頭での放牧だと段々寂しがるようになって、セントミサイルとメテと一緒に放すようになりました。するとミサイルに馬服を引っ張られたりして、いじられていました(笑)」

 最近では、馬房や放牧地で寝転んだりした後に、膝をついて上手に起き上がる技も取得したという。

「私の目から見ると、ナイスの脚は微妙に長い気がして立ち上がりづらいのかなと思いましたし、(立ち上がろうとして)ジタバタしていることもありました。あとは太り気味というのもあって、餌を少し調整して体型が良くなりましたし、膝で立つ技も覚えて以前よりも心配することはなくなりましたね」

 実はナイスネイチャの母・ウラカワミユキ(2017年6月・36歳没)も、息子と同じように膝をついて上手に立ち上がっていたという。

「ミユキは30歳くらいの時に1度立ち上がれなくなったことがありました。人が慌ててはいけないと思って落ち着いて励ましていたら、やがて立ち上がれたんです。その後に膝で立つことを覚えたと記憶しています。ミユキが生きていた頃に一緒に放牧していた春風ヒューマ(競走馬名:トウショウヒューマ)も、膝をついて立ち上がるようになったので、ミユキを見ていつしか覚えたのではないかと思っています」

第二のストーリー

放牧地で自由にゆったり過ごしている(提供:渡辺牧場)


 放牧地でのナイスネイチャは、ひたすらメテオシャワーと行動をともにしている。

「今年の冬は雪が多かったので運動量は少なかったのですけど、青草が生えてきてからは、メテについて放牧地の中ほどくらいまで歩いて行って青草を食べています。メテと少し離れた場所にいても、メテが移動するとそれに気づいてついていきますし、ほとんどピッタリくっついていますね」

 時々、放牧地も走る。

「そんなにスピードは速くはないですけどね」

 今月15日の渡辺牧場のTwitterには、メテオシャワーとともに駈けてくるナイスネイチャの動画がアップされている。

「ストレスをなるべくかけないように気は遣っていますけど、食欲もありますし、薄切りにした人参をバリバリ美味しそうに食べていますよ」

 ナイスネイチャ33歳、まだまだ元気でいてくれそうだ。 

ブームで終わらせず、1頭でも多くの命が繋がるように


 もう1頭、昨年の「ナイスネイチャ・32歳のバースデードネーション」の引退繁殖馬支援第1号としてフォスターホースになったエイシンルーデンス(牝25)は、当初は鹿児島のホーストラストへの移動予定であった。だが後肢の靭帯が緩みから球節が落ちており、その状況では傾斜地の放牧は望ましくなく、起伏のあるホーストラストでの放牧生活は難しいという獣医師の診断もあり、高齢馬の管理に定評がある渡辺牧場への預託が決まり、3月12日にそれまでの繋養先から移動した。

第二のストーリー

もう1頭のフォスターホース、エイシンルーデンス(提供:渡辺牧場)


「小柄で顔も小さい方だと思います。3頭組(キララ、ゲッケイジュ、ヴィエントバイラー)の放牧地に放して、順位は最初4位でしたけど、3位に上がりました(笑)。バイラーがルーデンスに負けていますね。キララ(競走馬名:サンキララ)とゲッケイジュは強いので、その2頭には遠慮しています。うるさいところがあると聞いていましたが、思ったほどではないですし、普通に引いて歩けます。バンテージを巻いている時に他の馬が先に放牧地に行ってしまったら、脚を少し回したりはしますけど、そのようなタイミングなら他の馬でもうるさくなりますからね」

 繋が緩いため、球節が下がらないように放牧地ではバンテージを巻くよう獣医師からもアドバイスされており、その状態の脚で放牧地を走ってしまったらどうなるのかと放牧をする順番などかなり気を遣ったようだが、最近は他の3頭に比べれば放牧地の奥まで行くことも少ない方で、仮にある程度走ってもさほど問題がないこともわかってきた。

 また鼻にも問題を抱えており、蓄膿症との診断で治療を受けていたが、左の鼻から時折鼻出血があったことから、4月23日に内視鏡での検査を受けている。幸いにも原因が特定され、近々治療が始まる予定とのことだ。

 あとは治療が無事終了して、スッキリした状態で余生をのんびりと過ごしてほしいものだ。

 ウマ娘によってナイスネイチャに再び光が当てられ、結果的にバースデードネーションでも想像をはるかに超えた寄付が集まった。一時的なブームとも考えられるが、馬には多くの人を引き付ける不思議な力があるからだとも感じる。これをブームで終わらせず、今後さらに1頭でも多くの引退馬の命が繋がるように、私自身も馬の魅力や現状を一層伝える努力をしてかなければと再認識させられた今回のドネーションであった。

(了) ※このインタビューは電話取材で行いました。

【注意】ナイスネイチャが繋養されている渡辺牧場は、新型コロナウイルス感染拡大等により、当面の間見学を中止しています。

※馬の見学に際しては、競走馬のふるさと案内所のHPを必ずご確認ください。 



▽ 渡辺牧場
http://www13.plala.or.jp/intaiba-yotaku/

▽ 認定NPO法人引退馬協会
https://rha.or.jp/index.html

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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