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【日本ダービー】父から最高の長所を受け継いだシャフリヤール

  • 2021年05月31日(月) 18時00分

名騎手も勝ち切るまでに1番人気で負けた経験があった


 ずっと以前、抜け出したハクシヨウと、大外から突っ込んだ32番メジロオーの、同着ではないかと見える1961年の日本ダービーのゴールの瞬間の写真を鍋掛牧場(栃木)で見せていただいたことがある。今回の日本ダービーもきわどかった。判定写真では明らかな差(10cmくらい)が生じたが、首の上げ下げで、シャフリヤール(父ディープインパクト)がエフフォーリア(父エピファネイア)より出ていたのは、ゴールの瞬間だけだったかもしれない。

 ディープインパクト産駒は4連勝で史上最多の7勝目。ノーザンファーム生産馬は通算10勝目。福永祐一騎手は、2018年ワグネリアン、2020年コントレイルに次いでこの4年間で日本ダービー3勝(武豊騎手の5勝に次ぐ史上2位)だからすごい。

重賞レース回顧

1番人気のエフフォーリアをハナ差で勝ち切ったシャフリヤール(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 シャフリヤールの4戦目での勝利は、1996年のフサイチコンコルドの3戦目に次ぐ2位であり(2歳戦が生まれた1946年以降)、小差4着グレートマジシャン(父ディープインパクト)も4戦目。桜花賞をパスしたユーバーレーベンがオークスを制したあと、皐月賞を見送ったシャフリヤールの日本ダービー制覇でもあった。

 レースレコードの2分22秒5の中身は前後半の1200m「1分12秒7-1分09秒8」。レースの上がり「33秒9」。流れは明らかにスローなのにレースレコードになったのは驚きだった。2019年のロジャーバローズのレコード2分22秒6のレース全体は「1分09秒8-1分12秒8」。まったく逆バランスで生まれた快記録である。

 勝ったシャフリヤールはレースの中盤、人気のエフフォーリア、サトノレイナス(父ディープインパクト)を直後でマークする絶好の位置。馬群が固まった4コーナーでエフフォーリアはコースロスを避けてインをキープし、直線に向いてから少し外へ。シャフリヤールは4コーナーで早めに外に回りながら難しい進路を探す形になった。

 残り300m地点で馬群をすり抜け、歓声とともに先頭に立ったエフフォーリアの勝利は決まったように見えた。このとき、馬場の中ほどでロスもあったシャフリヤールは4馬身くらい離れていた。高速の上がりは最後の400m「10秒8-11秒6」。あそこからエフフォーリアを捕らえたシャフリヤールの切れ味はすごい。4コーナーでは同じ位置にいたので2頭の上がり3ハロンの数字は同じ「33秒4」だが、一旦は5馬身近くも離されたシャフリヤールは最後の300mでも約4馬身はあった差を猛然と伸びて並んで差した。

 シャフリヤールは外に回りながら詰まっていた600mからの1ハロンを別にすると、最後の400mは推定「10秒4-10秒9」で伸びた。ディープインパクトとは脚さばきは少々異なるが、最高の長所を受け継いでいる。距離適性は別にして、北米の6F前後のスプリント戦を中心に12勝し2010年の米牝馬チャンピオンスプリンターに輝いた母ドバイマジェスティ譲りの、爆発的なスピードも大きく関係するのだろう。

 人気のエフフォーリア(父エピファネイア)は、残念ながら2着に敗れたものの、大多数の関係者や、多くのファンが、若い横山武史騎手の果敢で、かつ満点に近いレース運びを絶賛することになった。直線に向いて、もっとも怖い1頭だったルメール騎手のサトノレイナスが先頭に立っている。スパートを待つなどという選択肢はない。

「戦後最年少ダービージョッキー」の栄誉を逃したのは残念だが、これで「横山武史はたちまちJ R Aを代表するトップジョッキー」になることを、日本ダービーの舞台で示したのである。シャフリヤールで勝った藤原英昭調教師も「やがて競馬界を背負う立場に立ったとき、ずっと記憶に残るダービーになっているはずだ」と、エフフォーリア陣営へのリスペクトとともに、横山武史騎手の未来を予言した。今回、見事にしのぎ切ってハナ差で勝ったよりはるかに大きな無形の勲章を得たかもしれない。

 日本ダービー5勝の武豊騎手がスペシャルウィークで念願のダービージョッキーとなったのは、10回目の騎乗で29歳だった。今回3勝目を記録した福永祐一騎手が勝ったのは、19回目の挑戦で41歳時。父横山典弘騎手が初めて勝ったのも15回目の騎乗となった41歳のときだった。ついに勝ち切るまでに、みんな1番人気で負けた経験があった。日本ダービーはそういうレースでもある。

 ウオッカ以来の牝馬の勝利が期待された2番人気のサトノレイナスは、珍しく互角のスタートから中団の外。ただ、ペースが落ちた地点でサトノレイナスは行く気になってしまった。前半スローの3コーナー手前で下げることはできない。3-4コーナー中間で先頭に並びかける形になったのは、ルメール騎手も大誤算だった。少し苦しくなった直線は外にヨレてしまった。0秒2差の5着なら力負けではなく、距離も大丈夫だったが、オークスで先行したグループが壊滅したように、マイル中心の経験しかない牝馬が、GIの東京2400mで先に動く形になっては、坂上からがしのぎきれない。

 大接戦になった3着争いで、後方から一番外を回り最後まで伸び切ったステラヴェローチェ(父バゴ)の内容は見事。皐月賞に続いての3着だが、1-2着馬と同じ上がり最速タイの33秒4だった。今年の共同通信杯組(今回1着、2着、3着独占)のレベルの高さを示すことにもなった。不良馬場の東京1600mを1分39秒6で快勝のあと、一転、7秒以上も速い1分32秒4で朝日杯FSを2着したこの馬、距離3000mの菊花賞も平気だろう。

 浅いキャリアで小差4着のグレートマジシャンも、毎日杯快走の能力は本物だった。全兄フォイヤーヴェルクはきわめてタフで、障害入りする前にも長丁場をこなしている。こちらも秋には大きく成長して菊花賞候補になる可能性がある。

 青葉賞勝ちのワンダフルタウン(父ルーラーシップ)は、青葉賞のタイムを1秒9も短縮したが、今回はスピード負けの印象が残った。ただ、順調に使い込めるようになると大きく変わってくるはずだ。

 7着ヨーホーレイク(父ディープインパクト)は、手応え十分に直線に向いたが、進路探しに失敗。多頭数の後半勝負になったため、失速して後退する馬はいない。右に左に進路を変えたが、突っ込める場所がなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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