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【安田記念】持ち味を爆発させた川田将雅騎手の鮮やか手綱さばき

  • 2021年06月07日(月) 18時00分

我慢を重ねた陣営の仕上げも見事だった


 皐月賞3着(アタマ、ハナ差)、日本ダービー2着(クビ差)、大阪杯3着(クビ、クビ差)など、GIで惜敗を続けたあと、ここ1年間のスランプですっかり評価を落としていた5歳牡馬ダノンキングリー(父ディープインパクト)の逆襲パンチが決まった。

 2020年の天皇賞(秋)の惨敗から、万全の出走態勢が整うまで半年以上の時間をかけて立て直した陣営の我慢を重ねた仕上げも見事なら、テン乗りなのにまるで旧知のコンビのように持ち味を爆発させた川田将雅騎手も鮮やかだった(先週の今週なのでとくに)。

重賞レース回顧

悲願のGI初制覇を果たしたダノンキングリー(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 マスターフェンサー、メイショウベルーガ(同テンゲン母子)、ミッキーチャーム、バスラットレオン…などの生産牧場として知られる浦河の三嶋牧場の生産馬は、JRA重賞は18勝目だが、延べ60頭の出走で、JRAのGI制覇は初めてのこと。惜敗の多かった馬だけに、こういう勝利を悲願達成というのだろう。

 大接戦の差し比べで封じた相手が、グランアレグリア以下、シュネルマイスター、インディチャンプ…など、マイルのチャンピオン級だから価値も高い。

 スランプを脱し切れない気配が続いたが、この1-2週で急激に良くなっていた。1600mの勝利は久々だが、初の古馬相手だった3歳秋(2019年)の毎日王冠1800mをJRAレコードと0秒5差の1分44秒4(上がり33秒4)で楽々と差し切った馬であり、4戦目の皐月賞2000mは1分58秒1、日本ダービー2着は2分22秒6だった。これで完全復活となれば、再び天皇賞(秋)2000mが視野に入るだろう。まだキャリア12戦【6-1-2-3】。半兄の11歳ダノンレジェンド(父Macho Uno マッチョ ウノ)は6歳11月にJBCスプリントで初JpnIを制するほどタフだった(重賞9勝)。

 ダノンレジェンド産駒は、公営のダート中心なので昨年の新種牡馬ランキングは9位だが、種付け頭数は「94→119→126→143」頭。年ごとに交配数が増えている。ダノンキングリーの復活快走は、兄ダノンレジェンドの評価をさらに上げることにもなる。

 レース全体の前後半バランスは「46秒4-(1000m通過57秒8)-45秒3」=1分31秒7。馬場も関係し、全体時計は直近5年ではもっとも遅く、また、前半46秒4も速くない。後半800mの方が1秒1も速い特殊なペースになった。これを外に出して差し切ったダノンキングリーの上がりは33秒1だった。

 断然人気のグランアレグリア(父ディープインパクト)は、ヴィクトリアマイルが再現できるなら勝算はきわめて高いと思われた。だが、この相手だけに小さな死角が響いた。パドックの気配は少しも悪くないが、いつもと同じ小刻みな動きが少しせわしかった。スタートはVマイルよりむしろ良かったが、前回より遅い前半ペース追走に余裕がなく、3コーナー手前から鞍上ルメール騎手は、悟られないように気合を入れていた。前回はなだめながらの追走で、直線400m標まで馬なりだった。これが、巷間でささやかれた初の中2週の体調の整え方の難しさか。まして東京1600mを高速上がりで楽勝したことによる、目に見えない(だれにもわからない)反動だろうか。今回のグランアレグリアは、4コーナー手前で既に再三気合が入っている。流れはVマイルとほとんど同じなのに。

 5月の東京にヴィクトリアマイルが創設されてこれで16回、日本ダービーを3馬身差で圧勝したタフな女傑ウオッカは2008、2009年にVマイル→安田記念を「2→1着」「1→1着」した記録を残したが、この日程に挑戦したウオッカ以外の24頭の安田記念は、アーモンドアイ、グランアレグリア…など【0-4-1-19】となった。高速決着のレベルの高い東京1600mは、軽い芝にみえて馬体(腱など)にかかる負担は逆に大きいのである。

 昨年、生涯にただ一度だけ中2週に挑戦したアーモンドアイは、この日程がこたえたとされた。そのとき完勝したグランアレグリアも、今年は同じように前半からリズムが狂っていた。この組み合わせだから、直線で自分の探したスペースを譲るような騎手はいない。必死のルメール騎手はかなり強引な進路の取り方(内側に斜行して過怠金)になってしまった。中身は異なるが、猛然と伸びて2着死守までアーモンドアイと同じだった。しかし、ビッグレースに体調の変化がなければ中2週で出走するなど当然のこと。あの行きっぷりで最後まであきらめずに必死で伸びたグランアレグリアはすごい。自身の心身リズムの乱れがあって負けてしまったが、評価は少しも変わらない。

 3歳シュネルマイスター(父Kingmanキングマン、毋セリエンホルデ)は当然のように候補と思えると同時に、まだまだゆるい印象が残る体つきで、強敵相手の経験も少ない。人気のわりには危険な人気馬と思えたが、この快走にはびっくりした。54キロの利は大きかった。確かに、厳しい流れではなかったこと、揉まれない外枠も良かった。だが、いきなりグランアレグリア、ダノンキングリー、インディチャンプなどと大接戦だから、秋にはエース級のランクになるだろう。

 4歳サリオス(父ハーツクライ)は、シュネルマイスターと同じドイツの誇る名牝系出身。総合力の問われるマイルは歓迎のはずだが、少し順調さを欠いた面があるので、当日の体調には半信半疑の部分があった。でも、決して悪いデキではなかった。GIらしい落ち着きもあったが、好調時のサリオスらしい力強さと迫力に欠ける物足りなさはあった。このペースなら楽に好位追走になって不思議ないが、4コーナー手前から手ごたえ良くなく、ライバルの直線のスパートに対応できなかった。立て直しが求められる。

 追い切りの映像が良かったインディチャンプ(父ステイゴールド)は、ようやく絞れてきた馬体が、この時期だけに当日はもっとシャープに映るかと思えた。ところがプラス6キロの484キロ。これは自己最高タイの馬体重であり、父ステイゴールドの良さを受け継いだ特徴があるとしたら、ふっくら見え過ぎだったかも知れない。速い脚が長続きしないタイプとはいえ、残り200mあたりで一旦先頭。これなら勝ち負け必至とみえたが、そこから伸びなかった。ベテランになって東京への輸送など平気になり、輸送減りなどまったくない馬になっていた。連対時の最高馬体重が476キロ。

 気迫満点の状態の良さが光っていたのはケイデンスコール(父ロードカナロア)。道中の手ごたえは直後にいたグランアレグリアより良く見せるほどだったが、直線は完全に迫力負けの印象。騎乗した岩田康誠騎手が「これがGIのカベかな」ともらしたように、前回の時計は文句なしだったが、あれは異常な高速馬場の春の阪神での記録(桜花賞より遅い)。今回の有力馬とはだいぶランクの異なる相手だったかも知れない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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