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ウインクリューガーは人をにおいで判断する!? 南相馬市で暮らす元競走馬(1)

  • 2021年06月08日(火) 18時00分
第二のストーリー

種牡馬時代のウインクリューガー(提供:Y.Hさん)


自分の意志をしっかり持っている賢い馬


 福島県南相馬市を訪れた知人から、2003年のNHKマイルC(GI)の覇者ウインクリューガー(セン21)の画像がLINEで送られてきた。LINEには日頃お世話をしている人の後をずっとついて歩いていたと書かれおり、どのような毎日を過ごしているのかを知りたくなって、繋養先の福島県南相馬市の一般社団法人西町ホースパークに電話取材をさせてもらった。

 ウインクリューガーは、2000年2月13日に北海道静内町(現・新ひだか町)の橋本牧場で生まれた。父タイキシャトル、母インヴァイト、その父Be My Guestで、母の半妹にディープインパクトやブラックタイド、レディブロンドの母ウインドインハーヘアがいるという血統だ。

 栗東の松元茂樹厩舎の管理馬として、2002年10月5日に京都競馬場の新馬戦(芝1600m)で見事デビュー勝ちを収めた。年明けの2月に500万下(京都・ダ1400m)で2勝目をあげると、続くアーリントンC(GIII・阪神芝1600m)で重賞初制覇。毎日杯(GIII・阪神芝2000m)では8着に敗れたものの、NHKマイルC(GI・東京芝1600m)で9番人気で優勝して、GIホースの仲間入りを果たした。その後は阪急杯(GIII・阪神芝1200m)、スワンS(GII・京都芝1400m)で3着と好走したこともあったものの、勝ち星を挙げられないまま7歳を迎えたウインクリューガーは障害戦に活路を求め、2007年7月に阪神競馬場での障害未勝利戦に出走。障害転向初戦を白星で飾った。NHKマイルC以来、実に4年2か月振りの勝利だった。だが障害2戦目の阪神ジャンプS(JGIII)で4着に入線して障害馬としての今後が期待されたが、屈腱炎を発症して競走馬登録を抹消されている。

 引退後はディープインパクトなどを出した牝系だったこともあり、浦河町の日高スタリオンステーションで種牡馬入りし、2008年から2015年まで種付けを行い、初年度産駒から新潟の千直で500万下、1000万下、1600万下と3連勝を飾ったエバーローズを送り出した。2015年にスタリオンの閉鎖にともない、種牡馬を引退。福島県南相馬市の一般社団法人西町ホースパークに移動したのは、2015年12月20日のことだった。

第二のストーリー

西町ホースパークにて食事中…(提供:一般社団法人西町ホースパーク)


 移動当初のウインクリューガーは、まだ去勢前だったので「うるさい、危ない」いかにも種牡馬そのものという馬だった。競馬を引退したばかりの馬よりも、種牡馬上がりの馬の方が危険な雰囲気が漂っていると、西町ホースパークの代表者は話す。移動して1週間もたたないうちに去勢手術を施されたウインクリューガーは、馬っけなど種牡馬らしい面はなくなったものの、性格は特に変わらず、うるさい面は今でも持ち合わせているという。ちなみに西町ホースパークでは、以前中央時代29戦5勝、地方時代には8連勝を含む48戦28勝の成績を残した元種牡馬のタケデンマンゲツも繋養していたが、こちらもやはり元種牡馬らしいうるささを見せていたようだ。

 ただ日々接して観察するうちに、人間側の行動によってウインクリューガーがどんな反応を示すのかが段々わかるようになってくる。そして馬が嫌がるようなことを人間側がしなければ、ウインクリューガーも黙って大人しくしているという。

 面白いのはまるで犬のように人の匂いを必ず嗅ぐことだ。ウインクリューガーのそばに行くと、誰でも匂いを嗅がれてしまう。匂いを確認した上で、この人は馬を扱えないとか嫌いだと判断した場合には、その人に寄ってこなくなるらしい。匂いからそれを判断するのか、匂いを嗅いだ時の人間側の様子からそれを判断するのかは不明だが、話を聞く限りかなり賢く、自分の意志をしっかり持っている馬という印象を受けた。 

第二のストーリー

まるで犬のような嗅覚の持ち主!?(提供:Y.Hさん)


 ウインクリューガーが暮らす西町ホースパークのある南相馬市といえば伝統の祭り、相馬野馬追が有名だ。祭りに参加するために個人宅で馬を飼っているケースも少なくない。西町ホースパークの代表者もその例に漏れず、幼い頃から家には馬がいた。自分の馬を初めて持ったのが高校生の時で、それ以来ずっと馬との生活が続いていて、現在は仕事をしながら馬の世話をせっせと行っているといい、現在はヤンチャで賢いウインクリューガーの他に、2頭の馬がいる。そのうちの1頭が、重賞でも好走歴のあるアヴニールマルシェ(セン9)だ。
 
(つづく)



▽ 競走馬のふるさと案内所(ウインクリューガー)
https://uma-furusato.com/search_horse/0000708926.html

※事前連絡なしの急な訪問等はお控えください。

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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