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【函館スプリントS】スピードをコントロール 藤岡佑介騎手の「100点満点以上」な組み立て

  • 2021年06月15日(火) 18時00分
哲三の眼

ビアンフェとともに函館スプリントSを制した藤岡佑介騎手 (C)netkeiba.com


今年の函館スプリントSは、5番人気だったビアンフェが逃げ切り勝利。レースを振り返り「乗ったスピードを落とさないことが重要」と哲三氏は語ります。今回はこのスピードの部分を中心に分析しつつ、藤岡佑介騎手の組み立てや乗り方の変化にも注目します。

(構成=赤見千尋)

決して逃げ切りやすい枠ではなかった


 札幌競馬場で行われた函館スプリントステークスは、5番人気だったビアンフェが逃げ切り勝ち。鞍上の(藤岡)佑介にとっては夏の北海道シリーズの最初の週の重賞で勝利して、関係者の方々にもファンの皆さんにも、いいアピールが出来たのではないでしょうか。

 7枠14番で決して逃げ切りやすい枠ではなかったし、札幌の1200mの芝って逃げ切るのが難しいイメージがありますが、まさに完封勝利、いいレースでした。

 ゲートの出は五分くらいで、ずば抜けて速いスタートではなかったけれど、ハナを取り切ってとてもいい逃げっぷりでした。先行する馬はラップタイムと照らし合わせたその馬の走りと、ジョッキーのコンタクト、僕はいつも設定やセッティングと言っているのですが、その設定がどんぴしゃで合っていましたね。

 11秒台後半から入って、先手を取って10秒台、10秒台とラップを刻んで行って、徐々に落ち着かせるわけですが、決して溜め逃げではなく、最後の余力が残っていたらいいなというイメージ。一番のファインプレーは3コーナーの入りでの駆け引きで、外の人気馬に手綱を抑えてペースダウンさせるような組み立てに持って行ったところだと思います。

哲三の眼

「とてもいい逃げっぷりでした」と哲三氏 (C)netkeiba.com


 あの場面、もしも佑介ではない騎手だったら、もっとペースを落とそうとしたかもしれません。ここはとても大きな違いだと思っていて。

 僕自身、スピードのある馬に対して、溜め逃げは失礼だと考えていました。溜めて逃げた方がいい馬もいますが、スピードが持ち味の馬に対してはそのスピードを存分に発揮できる組み立てをしてあげたい、スピードを落とすところも落とし過ぎないように気をつけていました。特に好スタートを切って、せっかくスピードに乗ろうとしている馬のスピードを落とすのはナンセンスだと。以前にも話しましたが、一度スピードを落としてしまうと、約500キロある馬体をまたスピードに乗せるというのは大変で、そこにロスが生まれると思うからです。

 昔は先行したらどれだけ脚を残せるか、ということでスピードを落とす選択が主流でした。でもそれは昔の馬で、今の馬たちは持ったまま坂路で50秒を切ってくるようなスピード馬たちの戦いです。特に1200mということであれば、乗ったスピードを落とさないことが重要ではないかと。

 もちろん昔からあるセオリーを大事にすることも大事で、おろそかに出来ないことは多いのですが、時代が変わって馬も進化したら、変わる部分もあるわけです。だからといってスピードに任せてただブワーッと行けばいいわけではなくて、そのスピードをロスなくどうコントロールしてあげるかというところがポイントです。

 そういう意味でも今回の佑介の組み立ては100点満点以上。手綱を引っ張ってスピードを落とすのではなく、アブミ、腰、肩甲骨までで自分の軸をしっかり作って、肩甲骨から前で調整してあげている。自分の体をしっかり支え、後ろに引き過ぎていないので、スピードの乗りが落ちないままスピードをコントロールしているんです。

「僕は今の乗り方が好きですね」


 今回の佑介は手出ししづらい逃げ方で、後ろはペース的にも判断が難しく、迷ってしまうのではと感じます。おそらく速いと感じて後ろはいったんペースを落としたのでしょうが、実は佑介の馬の脚が残っているという。直線は大接戦で見ごたえがありましたが、その仕込みは3コーナー入り口で出来ていました。僕の好きなレーススタイルですね。札幌の1周目のキレイな芝で、スピードを存分に発揮するレースで見ていて気持ちよかったです。

 今年に入っての佑介は、実はスピードを止める乗り方の方が多かった印象です。僕が現役の頃から乗り方についていろいろな話をしてきましたし、ずっと見てきた佑介なので、佑介なりの考えがあるんだろうな、試行錯誤しているなと感じていました。最近の佑介の乗り方は、僕から見ると全然違っていて、フォームが変わったということではなくて、軸の作り方が変わりました。僕は今の乗り方が好きですね。

哲三の眼

3コーナー入り口で出来ていた直線の仕込み (C)netkeiba.com


 もともと佑介は今回のようなレースは得意だと思いますが、それだけではなくて、NHKマイルカップで相当悔しい思いもして、いろいろなことを考えたと思います。そうしてこういう結果が出せたというのは、とても大きな経験ではないでしょうか。夏競馬に向けてもいいスタートが切れましたし、秋にも繋がっていくいいレースだったと思います。

 ビアンフェはまだ4歳ですし、この時計でしっかり刻めるというのは大きな武器。キズナとルシュクルの仔ということで、注目している馬ですし、今後も短いところで楽しみが広がりました。

 自分の馬券的には12番人気4着だったジョーアラビカを本命にしていました。結果として馬券には絡まなかったけれど、(横山)和生君はとてもいい騎乗でしたね。休み明けの分外から届かなかったけれど、しっかり上位争いに絡んでくれて、面白いレースを見せてくれました。3着だったらもっと良かったけれど(笑)、馬券が外れても楽しめるレースでした。今年好調な和生君、弟の武史君に負けずに頑張れと勝手に応援したくなる存在です。僕は現役時代から小倉好きなのですが、北海道シリーズも熱く展開されているので、注目して馬券的にも当てていきたいです。

 (※文中敬称略)

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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