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藤懸貴志騎手の強さ

  • 2021年06月24日(木) 12時00分
 先週のマーメイドステークスで、藤懸貴志騎手が手綱をとった10番人気のシャムロックヒルが優勝。人馬ともに嬉しい重賞初制覇を遂げた。藤懸騎手はデビュー11年目の28歳。GI初騎乗となった今年のオークスで16番人気のハギノピリナを3着に持ってきたことは記憶に新しい。

 藤懸騎手の名は、今年4月24日、阪神第6レースの返し馬で、岩田康誠騎手から粗暴な行為(幅寄せと暴言)を受けたことにより、ネットメディアなどに頻出するようになった。まだあれから2カ月しか経っていないが、これからさらに活躍することで、そうした喜ばしくない情報に、自身のレースぶりや騎乗馬の姿などが上書きされ、「ああ、そんなこともあったな」くらいになっていくだろう。そういう「屈しない強さ」を見せてくれる人がいると、勇気づけられる。

 彼は覚えていないかもしれないが、私が藤懸騎手と初めて話したのは、5年前、2016年2月29日のことだった。都内のホテルでショウナンパンドラのジャパンカップ祝勝パーティーがひらかれ、彼が、参列者に自身の名刺を配っていたのだった。

 どんな名刺だったか見てみようと、以前の名刺ホルダーを引っ張り出した。すると、「自由民主党 2020年オリンピック・パラリンピック東京大会実施本部長」という肩書だった参議院議員の橋本聖子さんと、日刊競馬の飯田正美さんの名刺の間に、藤懸騎手の名刺があった。私も名刺を渡したのだが、携帯の番号もメールアドレスも、その後、変えてしまった。藤懸騎手の名刺にはLINEのIDもプリントされている。取材申請するときにでも友達追加してみようと思う。

 藤懸騎手についてのデータを調べていて、出てきたのは「初勝利にキャリアを要した騎手」のランキングだった。

 初勝利がデビューから何戦目だったか、デビューの年月日、初勝利を挙げた年月日とレース、馬名を、キャリアを要した順に紹介すると、次のようになる(JRAが設立された1954年9月16日以降の記録)。

208戦目 菅原隆一 2010年3月6日 - 2011年8月28日 札幌2R メジロマリシテン

187戦目 小林凌大 2019年3月2日 - 2019年12月15日 中山1R スピーニディローザ

144戦目 服部寿希 2018年3月3日 - 2018年9月8日 阪神7R アロマティカス

142戦目 藤懸貴志 2011年3月5日 - 2011年8月20日 小倉6R ハナカゲ

 藤懸騎手は、初勝利まで4番目にキャリアを要していた。デビューから半年近く経って初勝利を挙げ、それからコツコツと努力を重ねてきたのだ。投げ出さない強さ、諦めない強さが感じられる。

 マーメイドステークスが、JRA通算99勝目、地方を入れると100勝目だった。この勝利は間違いなく、次なるビッグレースの騎乗依頼の呼び水となるだろう。

 そのマーメイドステークスが行われた日、私は福島県南相馬市にいた。南相馬市馬事公苑で行われた馬術競技会「東北ホースショー2021」を取材するためである。

 南相馬を訪ねたのは、一昨年の相馬野馬追取材以来、ほぼ2年ぶりのことだった。コロナで遠方への取材を極力自粛していたため、こんなに間隔があいてしまった。

 世界最大級の馬の祭として知られ、千年以上の歴史を誇る相馬野馬追を、私は、東日本大震災が発生した2011年から、昨年を除いて毎年取材している。自然と知り合いが多くなり、今回の東北ホースショーでもたくさんの知り合いに会うことができた。

 かつてノーリーズンやキネティクス、コティリオンなどを繋養し、野馬追にも多くの繋養馬を出陣させている松浦ライディングセンターの松浦秀昭さんとも2年ぶりの再会となった。松浦ライディングセンターから、今回は5人の選手が出場しており、うち2人は6月19日、土曜日の「セカンドドリームカップ」に出場した。これは、元競走馬だけが出場できる障害馬術競技で、優勝した人馬には10万円、2位には5万円……と5位まで飼育奨励金が支払われる。その奨励金を用意した大野裕オーナーとのやり取りや、大野オーナーと引き合わせてくれたベルステーブルの鈴木嘉憲さんについては、きちんと文字数を取って書かなければ伝わらないと思うので、次回、フォトレポートの形で紹介したい。

 私がひどい雨男だというのは何回か書いたとおりで、東北ホースショー取材初日の6月19日、東北地方が梅雨入りした。

 南相馬や相馬では、東京に比べ、ワクチン接種が進んでいて驚いた。

 地域によっては、私と同世代の知人たちのところにも、ぼちぼちワクチンの案内が届きはじめている。次に南相馬に行く7月下旬までに、せめて1回目だけでも打って行けるだろうか。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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