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タイキシャトル、メイショウドトウ…個性豊かな6頭が暮らすノーザンレイク

  • 2021年08月24日(火) 18時00分
第二のストーリー

ノーザンレイクをパトロールする牧場猫のメト(提供:ノーザンレイク)


タッチデュールは食欲旺盛!


 昨年7月半ばに北海道新冠町にオープンしたノーザンレイクには現在、キリシマノホシ(牝15)と通称・芦毛ちゃん(牝9・事情があって馬名は伏せている)、預託馬のタッチノネガイ(牝19・ネガイちゃんの会)、タッチデュール(牝12・個人の預託馬)、そして認定NPO法人引退馬協会から預託のメイショウドトウ(セン25)とタイキシャトル(セン27)の6頭が暮らしている。

 まずはタッチノネガイとタッチデュールの母娘だが、母娘だと互いにわかっているのかどうかは微妙なところだ。デュールを牝馬たちの放牧地に初めて入れた時のこと。デュールは真っ直ぐネガイのそばに行くと、お乳のあたりに顔を近づけた。もしかするとわかったのか? と一瞬思ったのも束の間、先住のキリシマや芦毛に取り囲まれてしまった。その後は、キリシマが「私がボスよ」とばかりに、デュールにお尻を向けて蹴りを入れるなど洗礼を浴びせてしまったので、母娘の感動の再会はうやむやになってしまった。

第二のストーリー

ノーザンレイクの牝馬たち(提供:ノーザンレイク)


 こんな表現をするとオーナーさんに申し訳ないが、一言で表現するとデュールはとても食い意地が張っている。初めて放牧地に入って、キリシマにキツく当たられたのにもかかわらず、1頭離れて夢中で放牧地の青草を食んでいた。今もそれは変わらず、他の馬がわずらわしい時はポツンと1頭でひたすら草を食べている。集牧するのに無口を持っていっても、一向に顔を上げようとしない。無理やり無口をかけた後でも、放牧地を出るギリギリまで草を食べているのだ。馬房に帰れば水をよく飲み、飼い葉の準備が始まるとタイキシャトルとともにうるさいほど鳴く。この食欲が、競走馬時代に171戦を消化した原動力にもなっていたのだろう。また現役時はピリピリしていてキツい面を見せていたと聞いた。飼い葉や乾草を食べている時に水桶に水を足そうと馬房に入ると耳を絞ったりするので、やはり元々は気性が勝った馬なのだと思う。それでも競馬を引退後にしばらく乗馬クラブで過ごした間にだいぶ性格も丸くなり、筆者の技量でも放牧地への出し入れをほぼ問題なくできるほどまでになっている。7月1日にやって来てまだ2か月もたっていないが、草食べ放題の放牧生活がよほど気に入ったのか、ウキウキした足取りで放牧地に向かう毎日だ。

 一方母親のタッチノネガイだが、こちらは昨年の9月10日に仲間入り。ネガイちゃんの会というグループでの所有馬だ。繁殖からの引退が決まり、ノーザンレイクに預託していただいた。前牧場ではボスとして君臨していたそうだが、先住のキリシマと芦毛の2頭にはかなわず、あっという間に序列が最下位となった。芦毛にあっち行けと蹴散らされ、最終的にはボスのキリシマがのしのしと出ていって、耳を絞って怖い顔をされて退散するというシーンが放牧地ではしばしば見られる。父フレンチデピュティの血なのか、体つきは種馬か? と思うほど筋肉質で、牝馬の中では1番迫力があるのだが、今のところ見掛け倒しの状況なのだ。娘タッチデュールにはせめて母親としてのプライドを示したいのかわからないが、娘を時々蹴散らしている様子も見受けられる。ただ娘の方はその時は一応は逃げるが、すぐに何ごともなかったように草を食べ始めているところを見ると、娘の方が1枚上手かもしれない。

第二のストーリー

左がタッチノネガイ、右がタッチデュール(提供:ノーザンレイク)


 いずれこの母娘の話は、別の機会に詳しく紹介するつもりなので、その時までさらに観察を続けてエピソードを収集しておく。

おだやかな性格のメイショウドトウ


 メイショウドトウとタイキシャトルは、今年6月16日に日高町のヴェルサイユリゾートファームから移動してきた。2頭とも去勢済みであったが、ドトウの方が牝馬を見ると興奮気味になると伝え聞いていた。2頭の放牧地の向かい側に牝馬の放牧地があるので、興奮して爆走したらどうしようと心配したのだが、いざ放牧してみるとドトウは飄々としており、初日から今に至るまでほぼ問題なく過ごしている。

第二のストーリー

右側が牝馬、左手前がタイキシャトル、その奥がメイショウドトウの放牧地(提供:ノーザンレイク)


 一方、シャトルはドトウがすぐ隣の放牧地にいるにもかかわらず、牝馬たちを頼りにしている素振りがあった。朝、ドトウやシャトルを放牧した後に牝馬たちを放牧しているのだが、シャトルは入口近くで首を長くして牝馬たちの到着を待っている。そして牝馬たちがそれぞれ草を食み始めたのを見て、ようやくシャトルも食べ始めるという日々がしばらく続いた。この地域は霧もよくかかるのだが、牝馬たちが放牧地を移動して霧の中に消えて見えなくなった時も、シャトルは鳴いて、出入口で行ったり来たりして落ち着かなかった。だが半月もすると、シャトルの様子にも変化があった。放牧地に放すとすぐに奥に向かって歩いて行き、牝馬たちを待たずに草を食べ始めるようになったのだ。時々、思い出したように出入口で待っていたりもするが、ほぼマイペースで過ごすようになり、こちらもホッとしている。

 シャトルの癖といえば、隙あらば噛みついてくることだ。と言っても本気ではなく甘噛みなのだが、それでもあの大きさの動物に噛まれるとさすがに痛い。本人はからかったり遊んだりしてるつもりだろうが、痛いのは嫌なので、攻撃を避けるために水桶に水を足すのは飼い葉に夢中になっている時にするとか、人参をあげて食べているその隙に飼い葉桶を外すなど、こちらも工夫しながら日々接している。

第二のストーリー

出入口で牝馬たちを待つタイキシャトル(提供:ノーザンレイク)


 一方ドトウは、放牧地で写真や動画を撮ろうとスマホを向けると、たまにズンズン近寄ってきて、目や鼻などの超ドアップが撮れてしまうことがある。牧場猫のメトにも興味があり、メトがフラフラ放牧地に入るとドトウが近づいていく。馬房にいても、近くをメトがウロウロするとよく目で追っていたりもする。基本的に穏やかな性格なのか、慢性化している両後ろ脚の皮膚病のケアの時に、筆者がドトウを前でおさえている折もおとなしく立っていてくれるので、とても助かる。Twitterやインスタグラム、フェイスブックに写真や動画をあげているのだが、いいねの数や動画の再生回数を見ると、ドトウはかなりの人気者であることがわかる。可愛い表情や醸し出される穏やかな雰囲気など、実際に会うとさらにドトウを好きになる人が続出のような気がしている。

第二のストーリー

ドアップのドトウさん(提供:ノーザンレイク)


 人気者のメイショウドトウやタイキシャトルについても、機を改めてエピソード満載で紹介できたらと考えている。

 現在は新型コロナの感染状況を鑑みて見学を中止にしているが、いつ再開するかは状況を見ながら判断する予定だ。はじめは人数や曜日、時間等に制限を設けることも検討中だ。もし見学が再開になったあかつきには、メイショウドトウやタイキシャトルをはじめ、個性豊かな馬たちに会いにきていただけると幸いに思う。

(見学再開が決まりましたら、競走馬のふるさと案内所やノーザンレイクのSNS、メイショウドトウ、タイキシャトルの見学再開については引退馬協会HP等でもお知らせ致します)

(了)



▽ 認定NPO法人引退馬協会
https://rha.or.jp/index.html

▽ ノーザンレイクTwitter
https://twitter.com/NLstaff

▽ 競走馬のふるさと案内所
https://uma-furusato.com/

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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