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【セントライト記念】陣営も驚きの快走を見せたアサマノイタズラ

  • 2021年09月21日(火) 18時00分

新勢力の関東馬が上位を独占


重賞レース回顧

9番人気の低評価を覆し優勝したアサマノイタズラ(C)netkeiba.com、撮影:橋本健


 過去10年、セントライト記念を3着以内に好走した30頭のうち、18頭までは日本ダービー出走馬だが、今年、菊花賞の優先出走権を得たアサマノイタズラ(父ヴィクトワールピサ)以下の上位3頭は、みんな春の日本ダービー不出走馬だった。

「菊花賞」は過去20年、日本ダービー出走馬9勝に対し、不出走馬が11勝もしている逆転の一冠なので、新勢力台頭は近年の流れに合った結果だったとはいえる。

 ただ最近10年、これはユールシンギングの勝った2013年以来の珍しい結果であり、さらに今年の3頭はみんな関東馬だった。セントライト記念で3着以内に入り、優先出走権を得て菊花賞に挑戦した馬は過去10年【1-2-2-20】にすぎず、その1勝はキタサンブラック(ダービー出走の関西馬)という結果を重ね合わせると、関東馬に肩入れしがちなファンには、ちょっときびしいセントライト記念だったかもしれない。

 今週のトライアル「神戸新聞杯」の結果にもよるが、関東馬も関西馬も関係ない時代とはいえ、最近20回の「菊花賞」の結果は、関西馬18勝、2着19回。ただ、今年の菊花賞はメンバーが手薄になりそうなので、快走したグループには好走が望めないことはない。この後のさらなる変わり身に期待したい。

 快勝したアサマノイタズラは、重馬場のスプリングSを2着したが、稍重の皐月賞はしんがり16着。馬群をさばけなかった稍重のラジオNIKKEI賞も12着。上がりの速い競馬には死角があり、一気に差し切った内容には、陣営もテン乗りだった田辺騎手も「まさか勝てるとは…」。手塚調教師は「びっくりした!」と振り返る快走だった。連戦つづきだった春シーズンからひと休みして、前走とは違ってビシッと追っての出走。「ポジションを取りに出た馬が多かったので、リズムを守るレースになった(田辺騎手)」のが大正解だった。

 上がりは最速の34秒6(ただ1頭だけ34秒台)。恵まれての重賞勝ちではない。牝系はスピード色が濃かったが、父ヴィクトワールピサは、ドバイWCなどGI3勝馬。母の父キングヘイロー(その父は最強とされる凱旋門賞馬ダンシングブレーヴ)は、凱旋門賞に挑戦するディープボンド、スプリンターズSの有力馬ピクシーナイト、ラジオNIKKEI賞のヴァイスメテオールなどの母の父に登場し、近年、きわめて高い評価を得ている。祖母の父オペラハウスも欧州の12F級のG1・3勝、凱旋門賞も3着。ファミリーには底力が加わりつつある。

 レース全体のバランスは「60秒5-(12秒2)-59秒6」=2分12秒3。数字以上に途中で動いた馬が多かった中、早めに抜け出したソーヴァリアント(父オルフェーヴル)は、そのまま押し切れそうに見えた。寸前に勝ち馬の爆発力に屈したが、夏の札幌での2連勝は本物であり、3月の弥生賞で4着した当時より明らかにスケールアップしている。

 上のソーグリッタリング、マジックキャッスルよりこなせる距離の幅は広く、オルフェーヴル産駒らしいここ一番での勝負強さを秘めている可能性がある。弥生賞4着、春の2冠は不出走。札幌で2連勝、セントライト記念4着だった2001年のマンハッタンカフェは、ダービー上位組を封じて菊花賞を逆転勝ちしている。

 9カ月の休み明けで、まだここが4戦目だったオーソクレース(父エピファネイア)は、2歳戦以来で馬体重減。引き締まったというより、ちょっと頼りなさそうに見えなくもなかったが、初めて道中で揉まれる展開になりながら、馬群を割ってもっとも苦しい位置から伸びて3着確保。ルメール騎手が道中大事に乗った点を考慮しても価値がある。ホープフルS2着時よりはるかに中身があった。

 反動がなく次走は確実に良化するとはいい切れないが、タフだった牝馬マリアライト産駒で、母の弟にあたるリアファルは、キタサンブラックの菊花賞を小差3着している。ビッグレース向きの底力にあふれるキャサリーンパーの一族だけに、これから大きく変わってくれるだろう。

 人気のタイトルホルダー(父ドゥラメンテ)は正攻法の先行策に出て、ペースそのものはきつくなかったが、自身が気負っていたうえ、勝負どころから厳しくマークされてしまった。一旦下げ、巻き返そうとした地点ではまだ脚があったが、挟まれて進路がなくなり、最後はあきらめて止めるしかなかった。スパッと切れるタイプではないのでライバルの目標になる立場はきつい。これで評価は大きく下がるだろうが、出走するならゆったり流れる菊花賞の3000mの方が合っている。スタミナ切れが敗因ではない。

 7着にとどまったルペルカーリア(父モーリス)、9着グラティアス(父ハーツクライ)の2頭もタイトルホルダーと同様に、息の入れにくい流れを、自身が気負い気味の積極策になっては苦しかった。先行タイプ総崩れのきびしいレースだった。阪神の菊花賞は旧コースの1979年以来。例年とは異なる流れになることだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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