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高知競馬から1億円馬誕生か

  • 2021年10月07日(木) 18時00分

背景には売り上げ回復による賞金体系の見直し


 先ごろ、若い友人から高知競馬所属のスペルマロンについていろいろと教えられた。スペルマロンは父ロージズインメイ、母チャンピオンダイヤ、母の父ダンスインザダークという血統のせん馬7歳である。生産は浦河の日優牧場。高知競馬を代表する実力馬として注目を集めるようになった。というのも、高知競馬所属馬として、高知競馬だけで獲得賞金が初の1億円に手が届くところまで到達しているからである。

 前走は9月20日の珊瑚冠賞(ダート1900m、1着賞金800万円)。2分3秒2のタイムで2着のクラウンシャインに1馬身半差をつけ1着でゴールインした。この勝利により、高知競馬におけるスペルマロンの獲得賞金は9634万5000円となり、残すところ365万5000円と、1億円に王手がかかった。

生産地便り

▲横綱相撲の競馬で珊瑚冠賞を制し、連覇を達成したスペルマロン(c)netkeiba.com、提供:高知県競馬組合


 スペルマロンは、もともと中央競馬所属である。2016年8月7日、新潟の芝1800m新馬戦でデビュー。この時は18頭中12着に敗退している。その後、ダート路線に転向し、翌月の9月3日、同じ新潟のダート1800m戦に出走。武士沢友治騎手を背に勝ち馬にクビ差まで迫る2着と健闘し、ダート適性の高さを示した。以後、2着、3着、2着、3着、5着、3着と掲示板を確保しながらも勝ちきれないレースが続き、待望の1勝目を挙げたのは2017年3月19日中山のダート1800m未勝利戦である。9戦目の初勝利であった。

 その後、スペルマロンは、岩田康誠騎手騎乗で、7月と8月に新潟のダート1800m戦を連勝し、計3勝を挙げるも、以後はなかなか勝ちに恵まれず、中央での戦績は27戦3勝2着5回3着3回、獲得賞金は5252万8000円であった。

 高知競馬に移籍したのは2019年10月のこと。5歳秋である。しかし、この移籍が結果的には大成功をおさめ、2019年には5戦4勝2着1回、2020年には14戦7勝2着3回3着1回、そして今年2021年になってからは9戦7勝2着1回と、大活躍が続いている。高知転入後の成績はこれまで28戦18勝2着5回3着1回である。

 すでに主要なレースは交流重賞の黒船賞以外、全て制しており、次走は仄聞するところによると今週土曜日、10月9日のアドミラブル賞(準重賞、1着賞金400万円)を予定しているとか。これを勝てばその時点で、高知競馬初の1億円馬誕生となる。

生産地便り

▲今年の黒船賞では強力な中央・南関勢に迫る7着と善戦(c)netkeiba.com、撮影:武田明彦


 すでに多くの方が触れているように、このスペルマロンの1億円近い獲得賞金は、ひとえに高知競馬の馬券売り上げV字回復によって大幅な賞金アップをしたため実現したと言える。10年前には高知競馬の重賞レースは、惨憺たる賞金体系であった。

 例えば、3歳路線。高知優駿(黒潮ダービー)、黒潮皐月賞、黒潮菊花賞はいずれも10年前の2011年にはわずか1着賞金が27万円でしかなかった。暮れの大一番・高知県知事賞(中央の有馬記念に相当する)ですら、1着賞金が135万円であった。それが、5年後の2016年には3歳3冠路線がようやく1着100万円に、高知県知事賞も260万円にそれぞれ増額されたが、それでもまだ他の地方競馬と比較すると著しく見劣りする額であった。

 しかし、この直近5年間の高知競馬の躍進ぶりはすさまじく、2020年4月〜2021年3月の1年間の売り上げは実に854億円。10年前には年間71億円でしかなかった馬券売り上げが、10倍以上にも膨れ上がったのである。

 その結果、今年の高知競馬の3歳3冠路線の1着賞金は、高知優駿が1000万円、黒潮皐月賞、黒潮菊花賞も600万円にそれぞれ増額された。他の古馬重賞も軒並み大幅アップとなり、その波にタイミング良く乗ることができたスペルマロンは、今年だけですでに5210万円の賞金を獲得している。

 本来ならば、ここで生産牧場の日優牧場を訪れ取材させて頂く順番だが、実はもうそれは叶わない。というのは、日優牧場は当主が死去しているためすでに生産を廃業しているからだ。生産地には、「牧場を廃業すると生産馬が走る」というジンクスがあり、過去、いくつも実例がある。まさしくスペルマロンもそんなジンクスの好例のひとつと言えるだろう。

 ともあれ、スペルマロンはまだ7歳。今後どこまで快進撃が続くか注目して行きたいと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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