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【涙の京都大賞典】マカヒキの復活劇とキセキ陣営からの「おめでとう」――友道調教師&大江助手が明かす舞台裏

  • 2021年10月14日(木) 18時01分
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▲担当の大江祐輔調教助手「口取り撮影の時は泣いている人もいて…」(C)netkeiba.com


先週10日の京都大賞典で復活を遂げたダービー馬・マカヒキ(8歳)。3歳馬の頂点に立った2016年からいつしか時は流れ、勝ち星からは実に5年もの間、遠ざかっていました。それでも友道康夫調教師も担当の大江祐輔調教助手も「馬が若々しい」と口を揃え、8歳の今日まで歩んできました。

奇しくも僅差の3着は4年間、勝利から遠ざかっているキセキ。ともに勝利を渇望する状況ですが、レース直後にはキセキ(7歳)を担当する清山宏明調教助手から「おめでとう!」と声をかけられたと言います。信じ続けた先にあったダービー馬の復活劇について、友道調教師と担当の大江助手に伺いました。

(取材・構成=大恵陽子)

※このインタビューは電話取材で行いました

友道康夫調教師「ファンの方たちの拍手に感動しました」


――マカヒキの約5年ぶりの勝利、本当におめでとうございます!

友道 ありがとうございます。

――レースはどんな風にご覧になっていましたか?

友道 東京競馬場にいて、同厩舎のヒートオンビートの方が前にいたので実はそちらを見ていました。ヒートオンビートはちょっと無理かな? と思ったところ、マカヒキが後ろから来て、ゴールした瞬間、東京競馬場でもファンの方たちがとても拍手をしてくれて感動しました。

――東京競馬場でも拍手が起こっていたとは! これまで惜しいレースもありましたが、ここまで振り返っていかがですか?

友道 前回の勝利から5年が経っていますけど、そんなに長くは感じませんでした。

――その前回の勝利は2016年、凱旋門賞の前哨戦となったニエル賞でした。

友道 フランスに出国前、トレセンで検疫に入っている期間は他馬のいない朝イチに調教をするのですが、深夜2〜3時頃で、ちょうどテレビではリオオリンピックをやっていました。今年、東京オリンピックを見ながら「ちょうど5年前だなぁ」と思っていました。

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▲京都大賞典で5年ぶりとなる復活Vを遂げた8歳マカヒキ (C)netkeiba.com


――時代の流れを感じます。昨年は大阪杯とジャパンCの2戦のみで、年齢を考慮してのものかな? と推察する一方、レースのたびに「馬は若々しい」というコメントもよく目にしていました。

友道 さすがにレースの後は疲れが残りますが、競馬に向かう前は本当にまだまだ若いです。とはいっても年齢的なものもありますし、あまり詰めて使えないと思って、間隔を空けてゆっくりさせました。何よりも、金子オーナー(名義は金子真人ホールディングス)がここまで大事に使ってくださいました。

――今後について教えてください。

友道 間隔を少し空けてジャパンC一本でいこうかなと思っています。

――最後に、マカヒキに声をかけるとすると、どんな言葉でしょうか?

友道 「ありがとう。がんばったね」という言葉をかけたいですね。

大江祐輔調教助手「その瞬間、熱いモノが込み上げてきました」


――京都大賞典、おめでとうございます! 接戦でしたが、勝ったのは分かりましたか?

大江 ゲートに行っていて、コースの内側を歩いて帰っていました。はじめはターフビジョンで見ていて、直線の坂の途中くらいから肉眼で見ていたんですけど、角度的に判断が難しかったです。ゴールの瞬間、ターフビジョンに目をやった気がするのですが、興奮していて分からなかったです。

 一緒に見ていたキセキの清山助手や、(同厩舎の)ヒートオンビートの石橋直樹助手が「勝ったでしょう。おめでとう!」と言ってくれました。検量室前に向かっている途中でスロー映像が出て、そこで勝ったのだと確信しました。

――その瞬間というのは?

大江 熱いモノが込み上げてきましたし、気が付くと声も出ていました。こういう感覚って、他の馬では味わったことがありませんでした。ダービーを勝つこと自体がすごいことですけど、そこから5年ですから、他にはない感情だったのかなと思います。

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▲ゴール前でアリストテレス、キセキと大接戦を繰り広げた (C)netkeiba.com


――ハナ差で勝ち切るのが、また底力でもあるんでしょうね。

大江 2018年の札幌記念2着の時は、ゴールの前後はマカヒキの方が前に出ているように見えたのに、ゴールの瞬間だけサングレーザーが出ていたんですよね。あの時は本当に悔しくて、今回もハナ差で負けていたらすごく悔しかったんじゃないかと思います。

――レース直後、似た境遇のキセキの清山助手から祝福の言葉をかけられていたことに胸が熱くなります。

大江 みんな馬に対して一生懸命やっているのは一緒で、あれだけの接戦で「おめでとう」と言ってくれるのは嬉しいです。キセキも長く活躍していますけど、マカヒキ同様、勝利から長く離れている馬でもありますから、僕たちと似たような気持ちなのかもしれないです。それでも「おめでとう」と言ってくれるのは、清山さんの人柄なんじゃないでしょうか。

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▲1/2馬身差で3着となったキセキ (C)netkeiba.com


――ダービー馬でこうして再び勝つのは、いろんな思いが込み上げてくるでしょうね。

大江 ダービーを勝つことはホースマンにとって一つの大きな夢ですから、あの時も感動して込み上げてくるものがありましたけど、今回はダービーを勝った時とすごく似たような感じがしました。きっと、重賞じゃなくてリステッド競走でも同じ気持ちだったんじゃないかと思います。マカヒキがもう1回勝ってくれたことへの喜びでしたから。

――勝ち星がなかった5年間はどのような思いで過ごしていましたか?

大江 3歳の頃に見せていたパフォーマンスとは少しずつ変化が出てきていたので、その中でも最大限の力を発揮できるように調整をしていました。そうした状況でもGIで好走するなど長い間いいパフォーマンスを見せてくれて、本当にがんばってくれていると思っていました。勝たせてあげたかったなと思うことも多々ありました。

――マカヒキの一番いいところってどこですか?

大江 賢いところです。これまで、ありがたいことにGIを勝つような馬にたくさん携わらせてもらいましたが、こんなに能力を感じさせる馬には今まで出会ったことがありません。8歳まで一線級で元気に走っていて丈夫であるというのも一つの能力だと思いますし、3歳の頃まではスピードと瞬発力がものすごくて、この年齢になって今回のようなスタミナ勝負にも勝ちました。馬の本質という面では一番すごいのかなと思います。

――年齢に伴う変化がある中、マカヒキの良さをレースでどう引き出すかというのも変わってくるのかなと想像します。京都大賞典で騎乗したのは友道厩舎の調教によく乗っている藤岡康太騎手でしたから、いいコミュニケーションが取れていたのではないですか?

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▲16年の日本ダービーを制したマカヒキ (撮影:下野雄規)


大江 それは間違いなくあると思います。ジョッキーの中では彼と荻野琢真騎手がうちの調教に一番関わっているので、取り組みやここまでのマカヒキの流れは分かってくれていると思います。

 (藤岡)康太はレースでマカヒキに乗らなくても、調教には若い時から乗っていました。背中から変化を感じる部分もあったでしょうし、前走の天皇賞・春ではレースでの感触も得て、それらを生かしながら京都大賞典でも競馬をしたんじゃないかなと思います。

――今日はレース明けの火曜日(取材当時)ですが、昨日・今日とマカヒキの様子はどうですか?

大江 月曜日はレースを一生懸命走ってきたんだなという感じでしたけど、エサもしっかり食べて、今日はもう元気いっぱいでした。

――マカヒキに言葉をかけるとしたらどんな言葉をかけますか?

大江 この馬はいつも頑張っているので、「頑張ったね」というのは毎回なんです。今回は勝ちきったことが大きいので、「よくやってくれたな。ありがとう」ですかね。

――マカヒキのファンのみなさんの思いも感じてらしたことと思います。

大江 パドックで応援してくれている人の多さを感じましたし、ゲート裏もそうでした。口取り撮影の時は泣いている人もいて、たくさんの人を感動させるなんてすごい馬だなと思います。マカヒキも、ウイナーズサークルでは誇らしげでしたよ。今月から口取りが再開されて、僕たちも熱量を感じやすいです。

――これからまたさらなる活躍を期待しています!

大江 まだ物語は終わりじゃなくて、次に向けてもう始まっているので、また頑張ります。

(文中敬称略)

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