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【現場最前線!現役騎手とJRAで考える“馬場”】第1回「一緒によりよい馬場を作っていくという意識」

  • 2021年11月03日(水) 18時02分
with 佑

▲今回はJRA阪神競馬場の馬場造園課長・青山裕介氏をゲストに迎えお届けします! (C)netkeiba.com


競馬の予想をする上で、重要なファクターとなる“馬場”。日本は、世界も驚くスピード競馬。公正かつ質の高いレースを提供すると同時に、人馬の安全も確保しなければなりません。

今回は読者からのリクエストもいただき、JRA阪神競馬場の馬場造園課長を務める青山裕介氏をゲストにお迎え。知られざる、馬場作りの最前線に迫ります。

(取材・構成=不破由妃子)

※この対談はZoomで行いました


レース当日に、騎手たちからヒアリング


佑介 今回の「with 佑」のゲストは、阪神競馬場の馬場造園課長を務める青山裕介さんです! 今日は、競馬場の馬場がどのように管理されているのか、どのような苦心をされているのかなど、ジョッキーとの関わりも含め、読者のみなさんにその舞台裏をお伝えできればと思っています。青山さん、よろしくお願いします。

青山 こちらこそ、よろしくお願いします。

佑介 まずは、青山さんのお仕事内容について。馬場の管理だけではなく、競馬場という広い空間のなかで多岐にわたっていますよね。

青山 そうですね。馬場のほかにも、セントウルガーデン(庭園地区)や遊具、構内の樹木、駐車場や構内道路の舗装や塀などの各種施設は当課で管理しています。自場(阪神)開催日は、馬場取締員という職務で、馬場施設の統括責任者としてさまざまな業務についています。

佑介 阪神競馬場以外の開催日は、どうされているんですか?

青山 中京や小倉の馬場造園業務の応援に行くこともあります。あと、ウインズや競馬場内でお客様への対応や、勝馬投票券の発売業務を担当することもありますね。

──阪神開催の際は、馬場状態を決めるのも青山さんの大事なお仕事。

青山 はい。朝6時に出勤して馬場状態を決定し、馬場状態についてのグリーンチャンネルの取材に対応したり、天候の変化による馬場状態の変更を決定したり。

 レース中の事故対応(馬場柵等施設の補修)も大事な業務です。おもに馬場監視所で業務をしているのですが、そこから開催用の馬運車や救急車へ無線で指示を出すのも私どもの仕事です。

with 佑

▲馬場の管理以外にも様々な業務に携わっているという青山氏 (提供:JRA)


佑介 それらに常に気を配りながら、馬場について僕らジョッキーの意見も聞かなくちゃいけない(苦笑)。

──大変だ…(笑)。実際、ジョッキーのみなさんとは、どういうタイミングでやり取りされているんですか?

青山 当日の朝に馬場を歩いている方とお話することもありますし、レースが終わったあとに検量室に行くと、裁決VTR室でみなさんレース映像を観ていらっしゃるので、そのなかで馬場の話が出てこないかどうかを確認したりしていますね。

 個人的な話ですが、レースのあとに直接声を掛けるのはちょっと気が引けて…。ジョッキーのみなさんは、当然勝ち負けやレース内容が気になるでしょうからね。そこは遠慮しているのですが。

佑介 けっこう熱くなっているときもありますからね(苦笑)。

青山 最終レースが終わったあとに、いろんなジョッキーの方に声をお掛けするようにしています。その日の馬場の状態は、できるだけ把握しておきたいですからね。

佑介 一昔前は、意見交換会などの特別な場がない限り、ジョッキーからJRAの方に要望を伝える機会はなかったんですけど、ここ数年はとくに、馬場造園課の方がこまかめに「今日の馬場はどうですか?」と声を掛けてくださるので、その都度感じたことや気になったことを伝えさせてもらっています。

 昔は一方的にジョッキー側が意見を言って、できることは改善してもらうという感じだったんですけど、僕の今の意識としては、一緒によりよい馬場を作っていくというか、その一端を担っているというイメージでお話させてもらっています。

青山 それは非常にありがたいです。

佑介 僕たちが直接、何かができるわけではないですけどね。そのぶん、乗った感想や感じたことなどをすぐにフィードバックする。そのときはいつも、一緒に馬場を作っていくという意識を持ってお伝えするようにしています。

青山 ありがとうございます。私どもは馬に乗れる訳でなく、乗った感触はジョッキーに聞かなければわからないので、ジョッキーのみなさんとコミュニケーションを取ることは非常に大切なことでして、さらに佑介さんのような意識を持っていただけているのだとしたら、本当にありがたいです。

with 佑

▲佑介騎手「一緒に馬場を作っていくという意識を持って…」(C)netkeiba.com


佑介 でも、同じ日に同じ場所で乗ったジョッキー10人に意見を聞くとすると、たぶん10人がそれぞれ違うことを言うと思うんですよね(笑)。

 乗った感触の受け止め方も人それぞれですし、ジョッキーによって馬場の好みもあるので、それらをどう反映させて馬場作りに生かすのか。そのあたり、ご苦労されているんじゃないかと思いまして。

青山 おっしゃる通りではありますが、人によって感じ方は違いますし、勝った負けたが絡んでくる話ですからね。そのなかで、ひとりひとりのお考えが違うのは当然だと受け止めています。

佑介 あとは、ジョッキーからの評判は良くても、たとえば時計が速かったりすると、関係者から「時計が速すぎる!」と言われたり、逆に時計面に問題はなくても、今度は「芝が柔らかすぎて飛んでくる!」なんて意見もあったり。そういう面で、どこで意見のバランスを取るか。すごく難しい判断ではないですか?

青山 そこまで考えていただいて、ありがたい限りです。我々は主催者として競馬を開催しておりますので、当然ですが、公正な競馬を施行することが一番の仕事です。

 もちろん安全を確保するための意見であれば、前向きに進めていきますが、馬場のちょっとした好みですとか、ひとりひとりのそういった意見は…。申し訳ないですけど、全部聞き入れることはまずしません。我々はあくまで、全馬が同じような状態で競走できるようにと思って管理していますからね。

佑介 意見があるのは、ジョッキーだけではないですしね。

青山 おっしゃる通りです。馬主さんや調教師さんも、当然馬場への意見をお持ちです。そのすべての方の意見を取り入れていたら、ちょっと収集がつかなくなるところは正直ありますね。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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