落馬直後、「泊まりにおいで」と息子たちを預かってくれた後輩騎手

　1995年10月にデビューし、2011年に妊娠のため引退したものの、長男の「ママが馬に乗っている姿を見たい」という言葉に一念発起して2016年に騎手復帰した宮下瞳騎手。

　一度引退したジョッキーが再び騎手免許試験に合格するには競馬法規などの勉強や馬術など様々な準備をせねばならずとても大変なのに、特筆すべきは「2人の子どもを育てながら」だったということでしょう。


　ママさんジョッキーとして活躍する姿は一般のメディアでもたびたび取り上げられ、ある密着番組が放映された後、後輩の男性騎手は「姉さん(宮下騎手)、今日の晩御飯は何を作るの？」と、照れくさそうに聞きました。密着番組内でハンバーグを作るシーンが映っていたからでしょう。

　それを察した宮下騎手が「ハンバーグだよ」と答えながら足早に帰っていくと「僕、姉さんのこと尊敬しているんですよね」と、後輩騎手はボソッと言いました。

　自分一人の身の回りのことだけでも精一杯なのに、宮下騎手は2人の子どものこともやりながら、ジョッキーとしても結果を残していることに、後輩として尊敬の眼差しを送っていたのです。

　今夜の献立を聞いたのは、ちょっとした照れ隠しだったのかもしれません。また、別の後輩騎手とはこんなエピソードも。

　今年5月、レース中の落馬で脳震とうや頚椎骨折、肋骨骨折など大けがを負った宮下騎手。翌日には退院したものの、しばらくは激しい吐き気とめまいで、家の中でも這いつくばっているような状況だったようです。

　それを見かねた今井貴大騎手が週末、宮下騎手の2人の息子さんに「うちに泊まりにおいで」と誘ったのです。

　以前から宮下家と今井家の子どもたちは食事会などで一緒になることがあって仲良し。子どもたちはお泊り会を喜び、宮下騎手はその間、自宅で静養することができたのでした。

「あれは本当にありがたかったです」と宮下騎手。一方、今井騎手も「何かあった時はお互い様ですから」と話します。

「いま頃みんな、調教している」常に頭の中は馬のことでいっぱい

　こういったエピソードは直接レースとは関係のないものですが、そんな話を聞くたび、宮下騎手が騎手仲間から慕われ、信頼されているのだと感じます。周囲からの信頼は、騎乗数にも表れています。

　昨日(11月15日)は全10レース中8レースに騎乗し、今日(11月16日)は10レース中9レースに騎乗。女性騎手の2kg減を生かした積極的なレース運びや、絶妙なインの使い方などに信頼を寄せる声が聞こえてきます。


　コロナ前、レディスヴィクトリーラウンドばんえいエキシビション帯広の打ち上げが深夜まで盛り上がっていた時、宮下騎手は紅茶を飲みながら、

「気づけばもう深夜1時を過ぎているんですね。いま頃みんな、調教を始めていますね。私だけ、なんだか申し訳ないです」

　とポツリ言いました。この言葉に、宮下騎手の仕事への姿勢を感じたように思います。

　1000勝達成のXデーは早ければ明日17日ではないかと予測します。仮に明日達成できなくても、名古屋競馬は19日まで開催していますし、その後も30日から開催があります。

　応援する側はつい前のめりになってしまいますが、怪我なく、焦らず、1000勝を達成する日を心待ちにしています。