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ヨーロッパを代表する当歳馬市場“タタソールズ・ディセンバー・フォールセール”

  • 2021年12月01日(水) 12時00分

今年は主要な指標がすべて前年より改善される好況


 ヨーロッパを代表する当歳馬市場である「タタソールズ・ディセンバー・フォールセール」が、11月24日から27日まで、イギリスの馬の街ニューマーケットで開催された。

 1072頭が上場されたうち734頭が購買され、総売り上げは前年比19.2%アップの3130万1500ギニー。平均価格は前年比2.0%アップの4万2645ギニー。さらに中間価格は前年比25%アップで、このセールとして歴代最高タイとなる2万5千ギニーをマーク。前年20.6%だった主取り率が今年は19.0%に下降と、主要な指標がすべて前年より改善される好況となった。

 市場関係者は、今年秋の1歳馬マーケットが好調だったことが、その背景にあると分析している。すなわち、馬主さんは来年秋の1歳馬セールを待つことなく、当歳セールで早めに仕入れるのが得策と判断。さらに、来年秋の1歳馬セールでの転売をもくろむピンフッカーたちもまた、旺盛な購買意欲を見せたことで、好調な当歳馬マーケットが形成されたと見ている。

 セールのハイライトとなったのが、3日目の(26日・金曜日)の終盤に登場した、上場番号965番の牡馬を巡る争奪戦だった。

 同馬の父ドバウィは、11月第1週にデルマーで行われたブリーダーズCで、G1BCジュヴェナイルターフ(芝8F)を制したモダンゲームズ(牡2)、G1BCマイル(d8F)を制したスペースブルース(牡5)、G1BCターフ(芝12F)を制したユビアー(セン3)と、3つの異なるカテゴリーでチャンピオンを輩出した、ヨーロッパを代表するトップサイアーだ。

 さらに同馬は半姉に、G2ブーメランS(芝8F)を制し、G1クイーンエリザベス2世S(芝8F)で2着となったアイキャンフライ、叔父にG1仏2000ギニー(芝1600m)やG1キーンランドターフマイルS(芝8F)を制したランドシーア、近親に日本で走りGI宝塚記念(芝2200m)を制したミッキーロケットがいるという、超一流の牝系を背景に持つ。

 同馬を生産したのは、元騎手ウォルター・スウィンバーン(故人)の弟であるマイケル・スウィンバーンが、ファミリーとともに営むジェネシス・グリーン・スタッドである。

 血統が抜群な上に、馬の出来も出色だった同馬がセールスリングに登場すると、価格はみるみる上昇。終盤は、クールモア vs ゴドルフィンという、2大帝国同士の一騎打ちとなり、最終的にはシェイク・モハメドのゴドルフィンが180万ギニー、日本円にしておよそ2億9665万円で購買に成功した。

 ヨーロッパにおける当歳セールでは、1997年の当セールにて、英ダービー馬ジェネラスの全弟にあたる牡馬(父カーリアン)が、250万ギニーで購買されたのが歴代の最高価格だ。今回の180万ギニーは、2002年の当セールにて同じく180万ギニーで購買された、母アーバンシーの牝馬(父ジャイアンツコーズウェイ)と並ぶ、歴代第2位タイの価格となっている。

 ゴドルフィンの代理人を務めたアンソニー・ストラウド氏は購買後、報道陣に囲まれ、「ボス(シェイク・モハメド)からは、“Go for it(=行け!)”との言葉を託された」と、コメントしている。

 高額馬トップ10のリストには、ドバウィに加え、フランケル、シーザスターズと、お馴染みのトップサイアーの産駒が並ぶことになったが、そんな中で注目を集めたのが、30万ギニーという8番目の高額馬がブルーポイント産駒で、27万ギニーという9番目の高額馬がトゥーダーンホット産駒と、今年の当歳が初年度産駒となる新種牡馬2頭が、トップ10入りしたことだった。

 5戦5勝の成績を残した2019年に、カルティエ賞欧州最優秀スプリンターの座に就いたのが、ブルーポイント(父シャマーダル)だ。

 この年の同馬は、シーズンの序盤にドバイでG2メイダンスプリント(芝1000m)、G3ナドアルシバターフスプリント(芝1200m)、G1アルクオーツスプリント(芝1200m)を3連勝。欧州初戦となったのがロイヤルアスコット初日のG1キングズスタンドS(芝5F)で、ここも勝ったブルーポイントはなんと、中3日でロイヤルアスコット最終日のG1ダイヤモンドジュビリーS(芝6F)に登場。ここも鮮やかに制するという、凄まじい活躍を見せている。

 同馬は、2020年春にアイルランドのキルダンカンスタッドで種牡馬入り。初年度の種付け料は4万5千ユーロだった。一方、2018年にカルティエ賞欧州最優秀2歳牡馬のタイトルを獲得しているのが、トゥーダーンホット(父ドバウィ)だ。この年の同馬は4戦し、G1デューハーストS(芝7F)を含む4連勝を飾っている。翌2019年に、G1ジャンプラ賞(芝1400m)、G1サセックスS(芝8F)と、さらに2つのG1を制した後、トゥーダーンホットは2020年春にイギリスのダルハムホールスタッドで種牡馬入り。初年度の種付け料は5万ポンドだった。ブルーポイント、トゥーダーンホットとも、初年度産駒の出来の良さが馬産地で話題となっていたが、マーケットにおける評価もそれを裏付けることになった。欧州生産界が、今後に大きな期待を寄せるのが、ブルーポイントであり、トゥーダーンホットであると言えそうだ。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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