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大手志向が強まる研修生の進路

  • 2021年12月01日(水) 18時00分

ミスマッチの是正が求められる馬産地の就職事情


 このほどBTCの軽種馬育成調教技術者養成研修第39期生たちの訓練風景を見学してきた。11月最後のこの日、北海道は季節外れの暖かさに恵まれ、中には半袖で騎乗する研修生の姿も見られた。気温は11度〜12度。微風。翌日から12月に入るというのに、驚くほどの陽気であった。

生産地便り

半袖で騎乗する研修生も


 今春、入講した第39期生は、現在20名が残り、日々、訓練を受けている。すでに騎乗に関しては、基礎編から応用編へと進んでおり、近いうちにJRA日高育成牧場に出向いて、1歳馬の坂路調教にもチャレンジすることになっている。

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▲▼騎乗訓練を受ける研修生


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 就職活動などで欠席している2名を除く18名が、ちょうど角馬場で2班に分かれ、輪乗りで教官に細かな点を指摘されながら、訓練を受けている最中であった。以前、個別にお話を伺った松尾恵理香さん(34歳)、西潟行博さん(39歳)も、他の研修生に交じり、一生懸命馬を御している。

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松尾恵理香さん


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西潟行博さん


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▲▼騎乗訓練後手入れを行う研修生


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 小守智志教育係長にお話を伺った。「研修生たちはちょうど明日から就職活動に入ります。2週間かけて、2交代で各牧場に面接に行くことになります」

 すでに、20名全員が、目指す就職先を決めているという。ただ、牧場側との面談で、必ずしも希望が通るわけではないとのことだが、とりわけ民間の育成牧場は相変わらず騎乗者不足が深刻なので、ここで1年間訓練を受けた研修生たちは例年、“即戦力”として人気が高い。

「今年に限らないのですが、やはり全体的には、大手志向がより強くなっている傾向がありますね」と小守係長。「個別に誰がどこに就職を希望しているのか、ということに関してはまだ明らかにできませんが、人気があるのは、ノーザンファーム、社台ファーム、追分ファーム、ダーレー・ジャパン、下河辺牧場など、名前の通った大手の牧場です」。

 すると、浦河のBTC周辺に数多く点在する育成牧場には、何人くらい就職しそうですか? と質問すると「今のところ、3〜4名だと思います」とのこと。民間の育成現場で即戦力として働く人材を育てるために設立された研修所だが、どうやら研修生たちの希望はかなり大きな偏りが生じているようだ。

「たぶん、浦河に限らず、日高の民間育成牧場はどこも人材確保に頭を痛めているはずですし、若い騎乗者を欲しがっているのは十分理解しているつもりです。しかし、彼らが目を向けているのは、やはり大手なのです」(小守係長)。

 何人かの研修生に話を聞いてみた。「僕は、出身が関東地方なので、なるべくなら、空港に近いところの方が良いなぁと思っています。何かあったらすぐに飛んで行ける便利さがありますから」という希望を口にする男子がいた。

 また「牧場を決める条件ですか? 待遇とか、施設面なんかも考えますね。例えば、独身寮がどういうところなのか、とか。就業時間や休日などもしっかりと決められている牧場に目が向いてしまいます」という声も聞いた。さらに「僕は、○○さんの人柄というか考え方に共鳴して、この人ならきっと一緒に仕事をしていけるだろうと思って、□□ファームに決めました」と話す研修生もいた。

 中には「浦河周辺ですか? うーん。1年間ここで過ごしてみて、就職するなら他の土地に行ってみたいと思うようになりました。何せ、ここは不便なんで…」と本音を吐露する男子もいた。

 最も人材を欲している中小規模の育成牧場が敬遠され、研修生の多くが大手に目を向けているというこの現実は、なかなか厳しいものがある。そんな中小育成牧場は、インド人などの外国人騎乗者に頼らざるを得ず、すでに数多くの人々がBTC周辺の育成牧場で働いているのは周知の通りだ。

 こうしたミスマッチはいつまで続くのか。抜本的な対策を講じようにも、地理的条件などは今更変えられず、今後も日本人騎乗者を確保するのは難しい状況が続きそうだ。

 ただ、このBTC育成調教技術者養成研修に関しては、ここに来て志願者増が著しいという。来期第40期生の募集はすでに締め切られているが、定員25名に対し、55名もの応募が寄せられたとのこと。倍率が2倍以上になるのは近年なかったことで、この変化に小守係長も驚きを隠せない。「ウマ娘効果なのかどうかは分かりませんが、これだけの応募がありながら、結果的には定員まで絞らざるを得ないのが辛い部分です。この業界を目指す人々がそれだけいるということですから、何とか別の形で、ぜひ馬業界に参入して、定着して欲しいとは感じています」(小守氏)

 あるいは、水面下で静かに“競馬ブーム”が再燃している、ということなのか。どのような形であれ、競馬が若い世代の関心事になっているのは、大変喜ばしい傾向ではある。

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廊下に整列する第39期生たち

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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