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まもなく移転、名古屋競馬場

  • 2021年12月07日(火) 18時00分

名残惜しい大島屋さんの『とんかつ』


 名古屋競馬場が、弥富市にある名古屋競馬のトレーニングセンターに移転するという計画を聞いたのは、3年前だったか、4年前だったか。そのときは、2022年はだいぶ先だなあと思ったのだが、時が経つのはあっという間。来年3月11日の開催が、現在の名古屋競馬場での最後の開催となる。

 11月30日、ゴールドウィング賞の取材で名古屋競馬場を訪れた。果たして、今の名古屋競馬場には、あと何回来られるか。コロナをきっかけに以前ほど競馬場の取材には行かない仕事の体制になってしまったので、もしかして最後になるかもしれないという思いもあった。

 そして名古屋競馬場といえば、いままでダントツで多く食べたのが、入場門を入って左右に並ぶ食堂街の、いちばんパドック寄りにある大島屋さんのとんかつ。

 メニューには“定食”という表記ではなく、『とんかつ・御飯(貝汁又は豚汁) 990円』。さらにカッコ書きで、(ソース味・みそ味をお選びください。)とある。名古屋だから迷わず“みそ”で、みそかつ。そして豚汁だ。ちなみに写真は、御飯(小)でお願いしたので、20円引き。

名古屋競馬場では迷わず大島屋のとんかつ



 ここのとんかつがまずいいのは、注文ごとに揚げてくれること。そして衣はきわめて薄く、サクサクではなく、カリカリなのだ。肉はいい塩梅で柔らかい。キャベツだけでなくマカロニサラダ、それにパセリと、見た目のバランスもいい。これが990円は相当にお得だ、といつも思う。たとえば街中でこれを食べたら、1500円と言われても納得する。

 果たして、名古屋競馬場が弥富に移転したときに、このとんかつがまた食べられるのかどうか。それが気がかりだった。おばちゃんに聞いてみた。

「お客さんがあんまり来んだろうし、もうトシだからねえ」

 残念ながら、弥富の新競馬場で大島屋さんの再開はないそうだ。

 全国の地方競馬では、ここ10年ほどで、むかしからある食堂や売店が少しずつ閉店している。馬券の売上げがネット全盛の時代になって、競馬場にお客さんが来なくなったこともあるが、それ以上に大きい要因は、食堂や売店の高齢化と後継者不足だ。いや、足りないのではなく、いない。

 地方競馬は1970年代、経済の高度成長期に多くのファンが押し寄せ賑わった。地方競馬の食堂や売店は、その頃から続けて来たというお店が少なくない。いや、少なくなかった。代替わりをしたお店もあるだろうが、たとえば当時、30歳代で競馬場でお店を始めた方々が今も続けているとすれば、70代後半からもしかして80代という方もいるかもしれない。

 コロナで無観客開催が続き、今後もお客さんが戻ってくることはあまり期待できない。そうなれば、何かをきっかけに引退、すなわち閉店となるのも致し方ない。

 弥富の新競馬場は交通の便がいいとはいえず、送迎バスを運行する計画はあるようだが、多くのファンが訪れるようなことは想定していない。ネット投票で大盛況の高知や門別を見れば、まあそういうことだろう。

 名古屋競馬場では最終日前日3月10日(木)には交流の名古屋大賞典が行われ、翌11日(金)には、最後を惜しむファンがたくさん来場するのだろう。おそらくその喧騒の中ではゆっくりとんかつを食べることは難しいと思われ、果たしてその前にもう一度、衣カリカリのとんかつを食べることができるだろうか。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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