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生産頭数の増加傾向は続くが、深刻な問題を抱える生産牧場

  • 2021年12月16日(木) 18時00分

実は少なくない『実質的ワンオペ牧場』


 サラブレッドの登録などを統括するジャパン・スタッドブック・インターナショナルの発表によると、2020年度の我が国の軽種馬生産頭数(ほぼサラブレッドだが、ごくわずかにアラ系もいる)は、7636頭(速報値)となっている。内訳は、北海道が7487頭、青森県以南の都府県が149頭である。

 北海道では、日高が6096頭、胆振が1365頭、十勝が26頭という内訳だ。都府県では青森の75頭が最多で、次が鹿児島27頭、栃木14頭。熊本11頭などとなっている。

 本州でも、かつてサラブレッド生産地は、東北や九州などを中心に広く分布していて、生産頭数も多かったが、今では完全に北海道に集中してしまっている。中でも日高が全国の8割に達する。

 2015年の全国の生産頭数は6858頭だったことから、この5年間で少なくとも778頭は増えた計算だ。(前述の7636頭は速報値とあるので、最終的にはもう少し増える可能性が高い)
近年のサラブレッド市場の好況にも後押しされて、生産頭数はじわじわと増加し続けており、この傾向は今後もう少し続きそうな気配である。少なくとも、市況が極端に悪化しない限りは、そう簡単に生産頭数が減少に転じることはなさそうだ。

 ただ、その一方で、繁殖牝馬繋養牧場(すなわち生産牧場)戸数は、確実に減少の一途をたどっている。2001年には、全国で1579軒(うち北海道=1303軒、青森以南の都府県=276軒)の牧場数が存在していたものが、2020年には788軒(うち北海道=719軒、青森以南の都府県=69軒)と、20年間で半分以下にまで減少しているのである。

 ここ日高に限ってみてみると、2001年には1178軒あった生産牧場が、2020年には、669軒にまで減じている。ほぼ半減といって差し支えないが、社台グループのある胆振は、2001年に92軒あった牧場軒数が2020年には36軒となり、4割以下にまで減少した。さらに青森以南の都府県に至っては、276軒から69軒と、4分の1まで激減してしまっている。

 種付けや販売(市場への上場)など、サラブレッド生産に関して青森以南の都府県では、現実問題としてハンデキャップが大きいため、より牧場軒数の減少幅が大きくなったということであろう。だが、胆振、日高とて、数字上ではそれほど大きな違いはない。確実に生産牧場はどんどん減少の一途をたどっている。

 日高で現在もなお生産を続けている669軒が、今後、どうなって行くのか。淘汰が進んで、残るべくして残った“選ばれた生産牧場”ばかりとはとても思えず、この中にも、実は少なくない「実質的ワンオペ牧場」が相当数混じっている。未婚の40代、50代の息子と高齢の親という家族構成の牧場の場合、日常の厩舎作業はほぼ息子1人で切り盛りするケースが多く、そういう牧場は不可避的にワンオペにならざるを得ないのだ。

 また、統計には表れない部分だが、離婚して独身に戻った息子と高齢の親という牧場も少なくない。むしろ、現在では、30歳前後の年齢差で両親、息子夫婦の二組が揃っている牧場の方が圧倒的少数であろう。以前ならば当たり前だったこういう家族構成が、今では子供がいても家業を継がない(継がせない)ケースが多く、若い後継者のいる生産牧場はどこの町でも数えるほどしかないのが実情だ。

 経営者の年齢層は概して高く、60代以上がかなりの割合に上る。小規模経営で家族労働主体の生産牧場ならば、60代の経営者は、体力的にも限界が近づいており、数年後にはリタイアせざるを得まい。とすると、今後10年も経過すれば、日高の生産牧場軒数は、確実に500軒を割り込むことになるだろう。

 不足する労働力を補おうにも、若い日本人の新規就労はかなり見込み薄である。育成牧場で騎乗技術者が不足しているのと同様に、生産牧場でも、人手不足が深刻になっている。

 好況に推移しているサラブレッド生産業界だが、水面下ではこうした問題が深刻化しつつある。一朝一夕に解決できるような簡単な話ではなく、何らかの手を打たねばいずれ大変なことになるような気がしてならない。少なくとも、家族労働という形態の小規模牧場は、ますます厳しい環境になって行くことは間違いなさそうだ。

生産地便り

▲サマーセール会場の様子

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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