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【師匠・曾和先生登場!】第4回「“太はわが子と一緒や”――40年にわたる師弟関係の今」

  • 2022年02月01日(火) 18時01分
太論

▲弟子に対する現在の思いとは…(C)netkeiba.com


2022年の『太論』は、スペシャル対談からスタート! ゲストにお迎えしたのは、園田時代の師匠、曾和直榮元調教師です。今回は、満を持して実現した師弟対談とあって、おふたりの出会いから二人三脚での戦った日々、中央への挑戦と移籍、そして現在に至るまでの戦いをじっくりと語り合う時間となりました。

最終回で注目したのは、40年にわたる師弟関係の“今”。「太はわが子と一緒や」と語る曾和師が、懐かしいエピソードを挟みつつ、弟子に対する現在の思いを明かしてくれました。

(取材・構成=不破由妃子)

おとなしい太が、一度だけ本気で怒ったことがあったな


──曾和先生にぜひお聞きしてみたかったのですが、人を育てる過程において、一番大事にしたこと、こだわったことなど、先生ならではのポリシーのようなものはありましたか?

曾和 太は初めての弟子やからね。何度も言うけど、ほとんどが僕の師匠から習ったことの受け売りや。それがなければ、どないしていいかわからなかった。ただ、今まで“師匠”と言われる人は、悪い例も含め、たくさん見てきたからね。師匠といっても十人十色で、人の邪魔をしてでも勝ってこいという師匠もいれば、人に迷惑を掛けんように競馬をしてこいという師匠もいる。そのなかで、自分が正しいと思ったことを引き継いできただけや。

──おふたりが出会って、もうすぐ40年。関係性が変わってきたところはありますか?

小牧 いや、僕にとってはずっと師匠のままです。この先もそれは絶対に変わらない。

──小牧さん、対談が始まってから1時間以上経っていますが、まだ緊張していますものね。今日は本当に口数が少ない…(苦笑)。

小牧 やっぱり……ね(苦笑)。だから、以前に言うたんです、「今日は緊張して喋られへんよ」って。でもね、いっぽうでは、そろそろこういう機会を設けたいなという気持ちもあって。師匠に対しては、みんなこんな感じじゃないんですかね。小さい頃から、一から教えてもらった人やから。

太論

▲「今日は緊張して喋られへんよ」(C)netkeiba.com


曾和 僕からすれば、太は自分の子供と一緒や。長男と次男、それから太と毅。息子が4人いたようなもんや。うちの子と同じように、女房が食事の世話やらなんやら全部やっとったからね。女房は大変やっただろうけど、ようやってくれよった。

──そういえば、(小牧騎手の弟の)毅さんも所属されていたんですものね。

小牧 うん。毅もずーっと所属してたよ。

曾和 あいつも騎手向きの体やし、よう乗れたからな。でもね、たぶん毅は、僕と話すときに緊張なんてせえへんで(笑)。兄弟であっても、まったく気性が違うねん。太はとにかく真面目やから。そういえば、このおとなしい太が、一度だけ本気で怒ったことがあったな。

太論

▲「一度だけ本気で怒ったことがあったな」(C)netkeiba.com


──誰に対してですか? そのエピソード、ぜひ聞きたいです!

曾和 怒った相手は毅や。毅が下乗り(修業中の騎手)の頃でね、朝起きるのが辛いと。そうしたら、このおとなしい太が考えられんことをした。

小牧 ああ、バケツの水を……。

曾和 そうそう。冬場の朝、起きてこない毅に対して、バケツいっぱいに水を汲んできて、寝ている毅の上からぶちまけた。その場面を直接見たわけではないんやけど、あとからその話を聞いたときは、太がそんなことしよったんかと本当にびっくりしてね。よっぽど腹が立ったんやろうね。

小牧 そんなこともありました(笑)。

太論

▲「そんなこともありました(笑)」(C)netkeiba.com


曾和 毅には何度も「もう騎手を辞めて、田舎に帰れ」って言うたんやけど、そのたびに太が「許してください。気をつけますから」って僕のところに謝りにきてなぁ。ホンマに気性が違うし、太は弟想いやねん。

小牧 悪いことばっかりしてましたよねぇ、毅は(笑)。それでもやっぱり兄弟やから、簡単に辞めてほしくなかったんです。

──さて、ここ数年は騎乗数、勝ち星ともに減少気味ではありますが、そんな今だからこそ、最後に曾和先生から見た“ジョッキー・小牧太”の強みをお聞きしたい。

曾和 これまでの話からもわかるように、太は素直や。人の話をちゃんと聞く。技術云々の前に、人間、素直というのが一番やと僕は思う。僕はね、これまでと変わらず、ずっと応援し続けるだけです。

太論

▲「これまでと変わらず、ずっと応援し続けるだけです」(C)netkeiba.com


小牧 ありがとうございます。

曾和 どんな騎手でも、いずれ(馬から)下りるときがくるわけやけど、今は一日1頭でもいいから乗れる馬がいるなら続けていきたいんやろ? わが子と同じやからね、太は。好きなだけ続けたらええんちゃうかなと思ってるよ。

小牧 なかなか結果を出せないのが恥ずかしいんですけどね。

曾和 恥ずかしいなんて思わんでええ。恥ずかしいことなんてなんもないわ。頑張っとるよ。結局、太は馬に乗ることが好き、騎手という仕事が好き、競馬が好き。それがすべてや。いつも言うてるけどな、なにか困ったときにはいつでも相談しに帰ってこい。

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▲「なにか困ったときにはいつでも相談しに帰ってこい」(C)netkeiba.com


小牧 帰るところがあるというだけで心強いですし、心配を掛けないようにといつも思ってます。これからも、1頭でも2頭でも毎週乗せてもらえる馬がいる限り、頑張って続けていきたいです。今日は本当にありがとうございました。

(文中敬称略、了)
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1967年9月7日、鹿児島県生まれ。1985年に公営・園田競馬でデビュー。名伯楽・曾和直榮調教師の元で腕を磨き、10度の兵庫リーディングと2度の全国リーディングを獲得。2004年にJRAに移籍。2008年には桜花賞をレジネッタで制し悲願のGI制覇を遂げた。その後もローズキングダムとのコンビで朝日杯FSを制するなど、今や大舞台には欠かせないジョッキーとして活躍中。

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