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【矢作調教師、激白】「吉田豊騎手へ18年越しの恩返し」ドバイ・パンサラッサ起用の舞台裏

  • 2022年03月23日(水) 18時02分
海外競馬通信

▲吉田豊騎手と矢作調教師との深い絆… (C)netkeiba.com


前走の中山記念も大逃げで勝利。“令和のツインターボ”ことパンサラッサが、今週末のドバイターフ(G1・芝1800m)に出走します。

この大事な手綱を託されたのが、デビュー28年目のベテラン・吉田豊騎手。パンサラッサの大逃げスタイルを確立したのが吉田豊騎手ですが、管理する矢作芳人調教師との間には知られざる深い縁が…。

「今回のドバイは、18年越しの豊への恩返し」、そう明かした矢作調教師。二人の絆を、双方の証言を基に紐解いていきます。

(取材・構成=不破由妃子)

矢作調教師「豊の思い切りのいいところが好きでね」


 吉田豊とは、実は彼がデビュー当時からの付き合いなんです。当時、俺は菅谷厩舎の助手で、担当馬に乗ってもらったこともあったけど、付き合いはもっぱらプライベートが中心。仲間内で可愛がっていました。

 14回目の調教師試験に合格した2004年、豊がリージェントブラフでドバイワールドカップに参戦することに。技術調教師だった俺が「一緒に行きたい!」と言ったら、「わかりました」と快諾。なんと、騎手用のパッケージであるビジネスクラスの便やホテルを俺に全部提供してくれたんです。

 豊のお兄さんもドバイに来ていて、みんなでご飯を食べたり、遊びに行ったり。どちらかというと、仕事よりプライベートで過ごしたそういう時間が印象に残っています。

 2005年に開業してからは、毎年うちの厩舎の馬に乗ってもらっています。2008年には、タイセイアトムでガーネットSを逃げ切ってくれました。個人的な関係性もあるけれど、豊の思い切りのいいところが好きでね。直感で騎手を選ぶとき、とくに前に行くような馬の騎手を選ぶときには、自然と豊が選択肢に入ってきます。

 もうひとつ、豊のいいところは、キャリアを重ねても変わらないこと。レース前の装鞍所での作業でいうと、ちょっとベテランになったら、装鞍所にはこないジョッキーのほうが圧倒的に多いけど、豊は連続騎乗じゃない限り、今でも必ずきます。そういうところが変わらないのは、本当に素晴らしいこと。

 俺と豊には、ギャンブル好きという共通点もあるしね(笑)。顔を合わせれば、ケイリンの話でいつも盛り上がってます。

 パンサラッサに乗ってもらったのも、豊の思い切りのよさを買ってのことです。それと、厩舎にとって600勝となったリライアブルエースでの勝ち方(2019年7月21日・福島テレビオープン)が非常に印象に残っていて、そのときの担当が(パンサラッサと同じ)池田厩務員だったんです。

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▲印象深いというリライアブルエースでの一戦 (撮影:小金井邦祥)


 初めてパンサラッサに乗ってもらったオクトーバーS(1着)のときも、池田厩務員が担当していた時期。「ふたりは相性がいいんじゃないの?」なんて言っていたら、中山記念も見事に逃げ切ってみせた。調教師と騎手の相性もあるけれど、厩務員と騎手の相性も俺は大事だと思ってます。

 だから、ドバイでも迷わず豊を指名しました。18年前にドバイに連れて行ってくれたこと、昔から個人的に仲がいいという背景はありますが、強調しておきたいのは、個人的な関係性から豊を選んだわけではないということ。今のパンサラッサの持ち味を一番引き出せるジョッキーは豊、そう思ったからです。オーナーサイドも、「吉田豊で」と言ってくれました。本当にありがたい。

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▲中山記念での大逃げ「今の持ち味を一番引き出せるジョッキー」 (撮影:小金井邦祥)


 騎乗依頼をする際、あまり直接電話を掛けたりはしないんですが、今回はさすがに直接、豊に電話しました。「えっ!? 乗せてもらえるんですか?」と驚いた様子でしたね。

 海外のレースで勝つためには、関係者が同じ方向を向いているというのも大事なピース。たとえば、調教師や厩務員が「吉田豊を乗せたい」と思っているのに、外国人ジョッキーへの乗り替わりを余儀なくされたとしたら、その時点で狂いが生じると俺は思うんです。

 今回はそういった狂いは一切なく、オーナーサイド、厩舎サイド全員の気持ちが「吉田豊で頑張ろう」とひとつになっている。海外遠征において、非常に大事なことだと思っています。

 今回、豊に望むのは、たとえラビットが出てきたとしても、ラビットより前に行くくらい思い切って乗ってほしいということ。彼はそういう割り切った騎乗ができる男ですし、それでダメなら仕方がない。

 俺にとって今回のドバイは、18年越しの豊への恩返しでもあります。持ち味である思い切りのよさを、存分に発揮してほしいですね。

吉田豊騎手「まさかドバイで乗せてもらえるなんて…」


 矢作先生とは、デビューした年(1994年)の夏に北海道で出会いました。減量騎手だったこともあり、当時調教助手だった矢作先生のお仲間の方々からも騎乗依頼をいただき、本当にお世話になりました。

 北海道に滞在したのは1年目だけでしたが、それ以降も通いで北海道に行った際には先生の担当馬に乗せてもらい、2000年にテンカフブで勝たせてもらったのはいい思い出です。

 2004年にリージェントブラフでドバイワールドカップに参戦した当時は、自分以外にもうひとり連れて行ける枠があったんです。結婚している人であれば、奥さんを連れて行ったりするのですが、自分は独り者。すると、調教師試験に合格したばかりの矢作先生が、「連れて行くヤツがいないのであれば、俺を連れて行ってくれない?」と。

 迷わず「いいですよ」と答えたのですが、その後、兄貴が「俺も行きたい!」と言い出して…。結局、その枠は兄貴が使い、先生には飛行機の便などの手配だけ僕がさせてもらいました。

 あれから18年。先生から直接電話でドバイでの騎乗依頼をいただいたときは、正直、ビックリしましたね。パンサラッサに初めて乗ったオクトーバーSのときも前走の中山記念も、たまたま関東圏の競馬だったので声を掛けていただけたと理解していました。だから、まさかドバイで乗せてもらえるなんて、正直、考えてもみなかったです。

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▲中山記念に続きドバイでも騎乗 「まさか…」と吉田豊騎手 (撮影:小金井邦祥)


 矢作先生と出会ってから28年。ドバイに行った翌年には厩舎を開業され、騎手としてずっとお世話になっている一方で、今ではすっかりケイリン仲間でもありますが(笑)、先生には本当に感謝しかありません。

 調教助手時代もそうでしたが、ある程度の指示はあるものの、「あとは任せるから」というのが矢作流。パンサラッサについても、「この馬の競馬に徹してほしい。結果は気にしないでいいから」と言ってくださるおかげで、思い切って乗ることができます。

 パンサラッサについては、オクトーバーSも福島記念(鞍上は菱田騎手)も前走の中山記念も、多少強引にでも行ってペースが速くなったとしても、押し切ってくれることがわかっていますからね。それがパンサラッサの競馬であり、おそらく今度の先生の指示も「この馬の競馬をしてくれ」の一言だと思います。

 僕ももう年なので(笑)、こういうチャンスをいただける機会も限られています。だから、今度のドバイターフも思い切って乗るだけ、頑張るだけです。

 それで結果が出なかったとしても、納得してくれる先生なので、騎手として腹を括れるのは本当にありがたい。あとは、海外のゲートは日本と仕様が違うので、そこだけはしっかりと把握して、いいスタートを切ってあげたいと思っています。

(文中敬称略)

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