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【皐月賞】完璧に近い仕上がりと素晴らしい騎乗で快勝

  • 2022年04月18日(月) 18時00分

第一冠の皐月賞を日本ダービーに向けての視点から振り返る


重賞レース回顧

完ぺきに近い仕上がりで快勝したジオグリフ(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 馬場状態、枠順、有力馬のスケジュールとキャリア…などが大きなポイントになった第一冠の皐月賞が終わった。

 日本ダービーと皐月賞の結びつきはきわめて強力。最近10年、日本ダービーで3着以内に快走した30頭中、20頭までが「皐月賞」出走馬であり、うち16頭は皐月賞5着以内の記録がある。路線重賞の中で重要度を増す東京1800mの「共同通信杯」に出走していた馬も、30頭中の10頭に達している。皐月賞の振り返りは、日本ダービーに向けての視点にしたい。

 快勝したジオグリフ(父ドレフォン)は、完ぺきに近い仕上がり。研ぎ澄まされていた。テン乗りとなった福永祐一騎手の、非の打ちどころがない素晴らしい騎乗も大きかった。ノドに少々の不安があるのは事実だが、皐月賞ではもっとも苦しいはずの最後の1ハロンで先に抜け出したイクイノックス(父キタサンブラック)を差して自身は推定「11秒3-4」。今回は影響がないほど軽微だった。

 距離2400mへの延長は、福永騎手も「プラスをもたらす要素ではない」というトーンになったが、実質は稍重に近い馬場で外を回りながら1分59秒7。マイラー色が濃くては不可能な2000mの内容である。評価の難しい種牡馬ドレフォン(USA産、ダート7F以下で全6勝)の産駒だが、走り出すとシャープに映る体型は重厚な短距離タイプを思わせる父のそれではなく、レース写真が頼りだが、父の父Gio Pontiジオポンティ(芝8-11FのG1 7勝)の快走時のフットワークに酷似している。母の父はキングカメハメハ。祖母の父はサンデーサイレンス。日本向きのこちらの影響力も大きい。

 祖母ナスカの4分の3同血の兄はディープインパクトの日本ダービー2着のインティライミ。さらにその上のやはり4分の3同血の姉フォルクローレはステイヤーズS3連覇のアルバートの母。ファミリーは中-長距離系に近い。

 2着イクイノックスと、小差4着ダノンベルーガ(父ハーツクライ)は、現体系になって過去75年間、皐月賞を勝った記録がないキャリア2戦だけの馬。まして2頭ともに右回りは初めて。凡走の危険もあった。

 だが、5カ月ぶりで2着のイクイノックスは勝てるかと映る場面もあった。芝状態から外枠はむしろ有利だったが、途中から少し行く気になり、ジオグリフ(福永騎手)の格好の目標になっている。しかし、正攻法に近いレース運びで2着は確保。東スポ杯2歳Sを勝った時点でクラシック候補の筆頭とされたスケールは本物だった。皐月賞をステップにできたのは大きなプラスになる。昨年のシャフリヤールが、現体系の日本ダービーになって初の4戦目の勝ち馬だった。

 飛び抜けた最少キャリアは3戦目に制した1996年のフサイチコンコルドだが、あの馬は、祖母が3戦目に英オークスを未勝利馬ながら大差で勝った歴史的名馬サンプリンセス。浅いキャリアで大仕事をしてしまう一族の特質があった。2007年の皐月賞馬ヴィクトリーなど。イクイノックスの体は数字以上にたくましく、大きく見えた。これで大きく変わるだろう。

 イクイノックスが外枠だったのに対し、最内枠のダノンベルーガには大きな死角が生じていた。トモの関係で右回りに不安があるところに18頭立ての最内はあまりにも辛い。まして内ラチ沿いは明らかに馬場が荒れていた。

 少し下げて進み、どこかで外に出すチャンスを探ると思えたが、イクイノックスと同じように果敢に好位追走。正攻法に出て0秒3差は、負けたとはいえ堂々たる素晴らしい内容だった。こちらもここを使えたのは大きい。2戦だけのキャリアで3戦目が日本ダービーでは、大目標へのスケジュールではなくなる。

 枠順による芝コンディションの差は大きく、共同通信杯で下したジオグリフに逆転されたが、右回りがジオグリフに有利だったと考えれば、日本ダービーでの再逆転は少しも難しくない。

 上がり最速の33秒8で3着に突っ込んだ武豊騎手のドウデュース(父ハーツクライ)は、結果論だが、道中ちょっと下がりすぎてしまったか。レース上がりが34秒9。逃げ=先行馬が複数いて、馬場が良発表のわりに悪かったが、レース全体のバランスは厳しくなく「60秒2-59秒5」=1分59秒7。馬場を気にした馬が最後に鈍るようなペースにならなかったのが誤算だった。

 これで評価が下がることはないが、中間あれほど絶好調と見えたのに、この日は496キロのスケールを誇る馬とは思えないほどこじんまり映った。また、ハーツクライ産駒は大半の期待馬に3歳前半に伸び悩みの時期があって、秋から4-5歳になって本物になる傾向が見られる。

 凱旋門賞挑戦を視野に入れるドウデュースの4代母Darling Ladyダーリングレディは、歴史的な凱旋門賞馬ダンシングブレーヴの母Navajo Princess ナヴァホプリンセスの半妹にあたる。ぜひ、日本ダービーで巻き返したい。

 5着に粘ったアスクビクターモア(父ディープインパクト)は父の産駒らしくない、いかつい馬体でこういう馬場は不利ではなかった。中山の皐月賞向きの印象はあるが、日本ダービーがタフな馬場状態になるなら侮れない。スタミナはある。

 4番人気で13着に沈んだキラーアビリティ(父ディープインパクト)は、内枠4番での出負けが痛かった。ロスをカバーするには、コースロスを避けるしかない。内を通っているうちにスタミナが切れてしまった。2400mに距離延長は歓迎ではないだろうが、軽い芝向きのスピード能力では見劣らない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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