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【ユニコーンS】能力互角の馬が多く例のない接戦となった初の3歳ダート重賞

  • 2022年06月20日(月) 18時00分

母方からも豊かな成長力を受けているペイシャエス


重賞レース回顧

接戦を切り抜けたペイシャエスが優勝(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 ダート重賞では明確な着差がつくことが多い。時には決定的な差が生じることも珍しくないが、上位の着差が「クビ、クビ、クビ」だっただけでなく、10着馬までが勝ったペイシャエス(父エスポワールシチー)と0秒5差だった。

 この世代は「桜花賞」が10着まで0秒3差の大接戦だったが、初の3歳ダート重賞も過去に例のない接戦。能力互角の馬が多くいる世代といえる。

 3歳のダート重賞は他に「レパードS」があるだけ。そこで過去10年間のユニコーンSの勝ち馬のうち7頭、出走馬の中からも3頭が、のちのダートG1馬(地方、海外を含む)に育ったが、歴代の多くのダートG1馬に続くのはどの馬だろう。

 接戦を切り抜けたペイシャエスは、前走の青竜Sで直線早めに先頭に立って5着に差されたレースを教訓に、今回は前半好位に控えて進んだ。直線でのスパートを遅らせた菅原明良騎手の好騎乗がクビ差の勝利に結びついた。自身の中身は「58秒8-36秒4」=1分35秒2。突っ込んできた2-4着馬の上がり3ハロンはみんな35秒台なので、絶妙の抜け出しのタイミングだったことになる。

 通算40戦【17-10-3-10】。GIに相当するダート重賞を9競走も制した父エスポワールシチーは、3歳春のデビューでこの時期はまだ未勝利馬。初重賞のマーチSを制したのは4歳の3月だった。しかし、8歳の11月に「JBCスプリント」を勝ったほどのタフガイだった。

 代表産駒のヴァケーションは2019年の「全日本2歳優駿」を勝ち、JRA重賞初制覇の今回のペイシャエスは3歳馬。少しも遅咲きではないが、父と同じような成長カーブを描くなら、本物になるのはこれからだろう。母の父ワイルドラッシュ産駒には、ジャパンカップダート2勝、フェブラリーSなどダート10勝のトランセンドがいる。母方からも豊かな成長力を受けている可能性がある。

 2着セキフウ(父ヘニーヒューズ)は、非常に惜しい敗戦。出足もう一歩で前半置かれすぎた不利はあったが、コースロスを防ぎ、終始内を通って直線も最内へ。

 上がりは2位タイの35秒5。並んだところで勝ち馬がもう一回伸びたので、まともなら勝機だったとはいえないが、海外遠征、各地への転戦を経験し、精神的にタフになっていた。園田のダート1400mを1分29秒7で抜け出し、今回は東京のダート1600mを1分35秒2。サウジのダートもこなしている。距離延長はなんともいえないが、どんなダートもこなす本物のダート巧者に育つだろう。

 3着バトルクライ(父イスラボニータ)が一番惜しかった。直線に向いて馬群の後方に入ったため、行くところ、行くところが再三カベになり、ゴールの瞬間はまだもっとも脚が残っていた印象がある。この大混戦なので、スムーズだったら…、などとはいえないが、例年の傾向通り「前回同じ東京1600mの青竜Sで上位を占めた馬有利」を、勝ち馬、4着ヴァルツァーシャルとともに改めて示した。

 その4着ヴァルツァーシャルの上がり35秒4が最速。パドックからチャカついていたので前半置かれることになったが、一瞬は差し切るかの勢いだった。最後に脚が止まったあたり脚の使いどころ、距離延長に課題はあるが、上位3頭と能力はまったく互角と思える。

 ゴール寸前で失速して5着のタイセイディバイン(父ルーラーシップ)は、自身「58秒6-36秒8」=1分35秒4がその中身だから、初ダートを考えれば同馬も負けたとはいえ、文句なしの好内容。1800m級の平均ペースの方が合う印象もある。

 1番人気のリメイク(父ラニ)は、先頭に並びかけた残り1ハロンからの伸び脚一歩。レースの1400m通過が高速の「1分22秒6」なので、今回の内容だけでは判断は難しいが、スタミナもう一歩と同時に1600mの経験なしが響いてしまった。

 2番人気のハセドン(父モーリス)は、他の青竜S組が快走したのに、この馬だけが不発。レース前の気配は悪くなかったが、前回の1600mは自身「61秒2-34秒3」=1分35秒5。今回は「60秒1-35秒5」=1分35秒6。同じ最後方追走でも前半1000m通過は1秒以上きつかった。楽に追走できた方がいい追い込み馬であると同時に、前回の上がり34秒3が、あまりに激走しすぎだったとも考えられる。

 3番人気ジュタロウ(父Arrogateアロゲート)、4番人気コンバスチョン(父ディスクリートキャット)は、案外の10着、9着止まりだが、レース内容そのものは悪くなく、ともに0秒5差の1分35秒7だった。キャリア不足、海外遠征帰りの一戦など、完調にはもう一歩の死角があったかもしれない。

 期待した5番人気のインダストリア(父リオンディーズ)は、ゲートでカリカリして大出遅れ。直線伸びかけて失速してしまった。道中の動きから決してダート不向きとはいえず、この日、ほかのレースでも聞かれたが、「熱中症になってしまった気がする(レーン騎手)」が敗因のひとつだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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