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3歳ダート三冠競走創設について

  • 2022年06月23日(木) 12時00分
 今週の月曜日、6月20日にNAR(地方競馬全国協会)、JRAなど5団体による記者会見が都内のホテルで行われ、2024年に「3歳ダート三冠競走」が創設されることなどが発表された。

「3歳ダート三冠競走」は、羽田盃、東京ダービー、ジャパンダートダービー(名称は変更予定)によって構成される。3レースとも舞台は大井。地方と中央両方の馬が出走できるようになり、4月下旬の羽田盃は1着賞金が3500万円から5000万円、6月上旬の東京ダービーは5000万円から1億円、10月上旬に移るジャパンダートダービーは6000万円から7000万円に増額され、三冠馬には8000万円のボーナスが交付される。賞金額が示すように、東京ダービーを中心としたシリーズとなる。

 羽田盃と東京ダービーもジャパンダートダービー同様ダートグレード競走となり、JpnIに格付けされる。いわゆる「交流GI」になるわけだ。

 三冠の距離はそれぞれ1800m、2000m、2000m。

 さらに、5月上旬に園田で行われる兵庫チャンピオンシップ(JpnII)が1870mから1400mに短縮され、1着賞金が3500万円から4000万円に増額される。距離と格は違うが、中央のNHKマイルカップ的な位置づけになる。

 三冠とも大井で行われるのは、従前の、というか、来年まで実施される南関東三冠の羽田盃、東京ダービー、東京王冠賞(2001年まで)とジャパンダートダービーが大井を舞台としているので、自然な流れ、ということなのか。大井の収容人員は6万人以上と、南関東のほかの競馬場――川崎、船橋、浦和の倍ほどある。すべて右回りで、似たような距離になってしまうわけだが、どれかひとつだけ昨秋新設された左回りコースを使用するのも唐突だし、フルゲートでも12頭と少なく、距離も1650mしかない。三冠を南関東のほかの3場と振り分けて実施しようとすると、最低でも1場は開催できない競馬場が出てしまうので、大井だけで実施するほうが、むしろ不公平感はないのかもしれない。

 東京ダービーが変わると聞いて、大井の帝王・的場文男騎手の悲願はどうなるんだ、と思ったのは私だけはないはずだ。2018年に鉄人・佐々木竹見元騎手が保持していた地方競馬通算最多勝記録を更新し、今年6月10日の大井開催終了時で通算7381勝をマークしている的場騎手は、これまで東京ダービーに39回騎乗して2着は10回あるものの、いまだ勝てずにいる。あれだけ大井で勝ちながら、なぜか東京ダービーには手が届かず、「大井の七不思議」のひとつとも言われているのだ。今年インタビューしたときは「もう諦めた」と冗談めかして笑っていたが、65歳という、そう長くはキャリアをつづけられない年齢を考えると、当然勝ちたいだろう。

 中央の強豪が参入してくる再来年以降は勝利がさらに遠のきそうに思われるが、的場騎手が中央の馬に乗れば話は別だ。誰よりも大井での勝ち方を知っている騎手であるし、話題性もあるので、騎乗を依頼する陣営が出てくるかもしれない。

 しかし、的場騎手自身は、「最も印象に残っているレース」として、大井のコンサートボーイで中央勢を負かした1997年の帝王賞を挙げているように、東京ダービーを勝つなら南関東の馬で、それも大井の馬で勝ちたいと思っているはずだ。それが実現すれば素晴らしいドラマになる。

 今回、3歳ダート三冠競走誕生の報せを受けた地方の関係者の多くが、強い中央勢にも門戸がひらかれたことで、ショックを受けたり、頭を抱えたりしていると思われるが、ここはひとつ、奮起に期待したい。

 昨年のJBCクラシックを船橋のミューチャリーが地方馬として初めて制し、今年に入ってからも、かきつばた記念を園田のイグナイター、さきたま杯を大井(小林)のサルサディオーネが勝っているほか、地方の馬が上位に来るケースが目立つ。

 サンデーサイレンスの血が、中央、それも関西に偏っていた時代が終わり、日本中に行き渡って全体のレベルが底上げされたことも影響しているのか、中央と地方の差が以前より縮まったように感じられる。

 大井の帝王が、大井の馬で中央勢を蹴散らし、東京ダービーを制する日が来るか。そちらにも注目したい。

 3歳ダート三冠競走全体に話を戻すと、JRAの3歳ダート重賞のユニコーンステークス(GIII)あたりを組み込む手もあったかもしれないが、東京ダービーと施行時期が近いし、せっかく3歳ダート三冠競走を創設するのだから、3競走とも「JpnI」にし、響きだけでも「ジーワン」に揃えたほうがいいと判断したのも頷ける

 近い将来、東京ダービーが国際GIに昇格し、それを的場騎手が勝ったりしたら、世界的なニュースになるのではないか。

 今回の3歳ダート三冠競走創設に関していろいろな意見があるようだが、ともかく、夢がひろがるのはいいことだと思う。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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