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セレクトセール2022を振り返って

  • 2022年07月14日(木) 18時00分

今年も驚異的な売り上げを記録し対前年比でも大幅な伸び


生産地便り

当歳展示風景


 去る7月11日、12日の2日間にわたり開催された「セレクトセール」は、新型コロナ禍のみならず、円安、ロシアによるウクライナ侵攻等、世界規模の新たな社会不安が加わる中でのセールとなったが、既報の通り、終わってみれば、史上最高の売り上げを記録した昨年をさらに大きく上回る驚異的な数字をたたき出して、ここだけは文字通り“別世界”の好景気であった。

 1日目の1歳馬は、233頭(牡140頭、牝93頭)が上場され、222頭(牡134頭、牝88頭)が落札されて、総額128億7000万円(税抜き、以下同)を売り上げた。売却率は実に95.3%。昨年と比較すると、売り上げ総額で12億3700万円の増、売却率も1.9%の伸びであった。

 2日目当歳馬も、236頭(牡152頭、牝84頭)が上場され、225頭(牡143頭、牝82頭)が落札、売り上げは128億9250万円と、前年比19億6950万円の増加であった。売却率は、前日の1歳馬と同様95.3%に達し、こちらも2.7%上昇した。

 したがって2日間のトータルでも、257億6250万円となり、史上最高を記録した昨年の225億5600万円から、一気に32億650万円もの大幅な上乗せとなった。

 1億円超えの“ミリオンホース”もまた、数多く誕生した。1歳馬で25頭、当歳馬は28頭、計53頭に達し、こちらもまた史上最多である。

生産地便り

当歳展示風景▲▼


生産地便り


 第1回のセレクトセールが、1歳馬47頭、当歳馬183頭の上場で開催されたのは1998年(平成10年のこと。この年は計230頭中、1歳馬18頭、当歳馬131頭の149頭しか落札されず、売却率も64.8%であった。総売り上げは48億5100万円。

 それから回を重ねて今年で25回目の節目を迎え、売り上げ総額、売却率ともに、望み得る最高のレベルにまで到達したと言えよう。

 セレクトセールは1999年〜2005年の7年間は当歳馬のみの開催で、その後2006年より再び、1歳馬と当歳馬の2世代によるセールになった。この年、初めて総売り上げが100億円に達した。

 その後2011年までは100億円に届かない年が続いたものの、売却率は、主に1歳馬の旺盛な需要に支えられる形で順調に伸び続け、2010年には早くも80%ラインに到達した。それ以降、1歳馬のセールが売り上げ、売却率ともに当歳馬を上回る傾向がずっと続いていたのだったが、ついに今年は、僅かながらそれが逆転する結果となった。

 2019年には、ついに総売り上げが200億円を超え、1歳馬と当歳馬を合わせた売却率も91.4%にまで上昇した。9割が売れるというのは、驚異的という他ないが、2020年も、2021年も売却率はずっと高止まりのままで、昨年は1歳馬が93.4%、当歳馬が92.6%、通算でも93.0%にまで上り詰めた。総売り上げも前述したように昨年は225億5600万円。正直なところ、個人的には、この数字を超えることがほぼ不可能なレベルまで来ているのではないかと昨年のセール終了時に感じた。

 ところが、今年は、さらにその上を行く凄まじい記録が生まれ、まだこのセールが発展途上にあることを見せつけられた思いである。

 2日間の結果を総括して、主催者の日本競走馬協会会長代行である吉田照哉氏は冒頭に「究極に近い数字」という表現を用いた。

 とりわけ当歳馬セールが前日の1歳馬を上回る売り上げになったことに関して「当歳馬を購入するというのは、それだけ楽しむ時間が長いということだと思います。1歳になり、2歳になってデビューするまでの期間が長く、その間何度も牧場に足を運んで、自身が所有する馬の成長過程を見ることができるというのも大きな喜びなのだと思います」と語り、今回の好況に関して「海外での日本馬の好成績もありますね。例えばタイトルホルダーなども秋に凱旋門賞に遠征したら人気になりそうですし、そうなると注目度も上がります。とにかくこの5年、10年の間に、繁殖牝馬の血統レベルや調教レベルが相当上がっていますし、ノーザンファームなどはここでの売り上げを新たな繁殖牝馬へ投資してきていますからね」と続けて「来年はコントレイルの産駒も出てきます。受胎状況も良いようですし、楽しみにしております」とコメントした。

 ある購買関係者は「過去25年間の実績からも、ここに来れば、間違いなく“当たり”が上場されていることに最大の魅力がある」と言う。今年前半のGI馬タイトルホルダー、ポタジェを例に取ると、ディープインパクト産駒のポタジェは1億9000万円の超高額馬だった一方で、タイトルホルダーの当セールにおける落札価格は2000万円。つまりどの価格帯からもGI馬が出現する可能性があると言えよう。さらに付け加えれば、一昨年2020年の牝馬3冠馬となったデアリングタクトに至っては1200万円というリーズナブルな落札価格であった。こうした競馬における実績が、新たな購買層を発掘し、より当セールの注目度が増す結果に直結しているのは間違いない。

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ノットゥルノが武豊騎手騎乗でジャパンダートダービーを制した


 ところで、セールの翌日となる昨夜、大井競馬場では「ジャパンダートダービー」が行われ、ハーツクライ産駒のノットゥルノが武豊騎手騎乗でこのレースを制した。栗東・音無厩舎の管理馬で馬主は金子真人HD。この馬もまた2020年の当セールの取引馬である。価格は税抜き4300万円。芝のGIのみならず、ダート界においてもこうして確実に当セール出身馬が成績を上げていることを改めて思い知らされた。ノットゥルノは下河辺牧場の生産馬である。ノーザンファーム、社台ファーム以外からもこのように活躍馬が出るのもこのセールの大きな魅力の一つであろう。そういえばタイトルホルダーは岡田スタッドの生産馬で、デアリングタクトは日高町の長谷川牧場からの上場馬であった。

「夢に繋がる、魅力あふれる巨大市場」というような言葉が頭に浮かぶ。今年の結果を見てしまうと、来年はいったいどんなことになるものやらと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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