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【田中勝春騎手】「いつも心から笑ってるわけじゃないんだ」“カッチースマイル”に秘められた競馬への向き合い方

  • 2022年07月25日(月) 18時01分
今週のFace

▲先日エヒトで七夕賞を勝利した田中勝春騎手(撮影:下野雄規)


関東を代表するベテランジョッキーのひとり、田中勝春騎手(51)。5月に現役5人目となるJRA通算1800勝を達成すると、今月10日にはGIII七夕賞をエヒトで制し、2019年の函館記念(マイスタイル)以来、約3年ぶりの重賞Vを決めました。今週はローザノワールとのコンビでGIIIクイーンSに参戦。レースへの意気込みとともに、自身の近況についても話を聞きました。

(取材・文=東京スポーツ・藤井真俊)

勝てなかったとしてもその馬の力を引き出せればうれしいんだ


──まずはエヒトで勝った七夕賞。おめでとうございました。

田中 ありがとう。久々に勝てて良かった(笑)。

──16頭立て6番人気という評価でしたが、一発狙っていたのですか?

田中 まぁ稽古はよく動いていたみたいだったし当然、楽しみにはしてたよ。返し馬でも以前に乗った時よりも馬がしっかりしていて、いい感触をつかむことはできた。

──レースでは中団の外で脚を溜めて、勝負どころでは手応えよくスーッと上がっていきました。

田中 福島はテンに速くなることが多いし、イメージ的にはもう少し後ろからになるかもと思ってたんだ。ただいいスタートを切れたし、二の脚もギューンとついて、楽に追走できた。ペースも平均的に流れていたし、内心は「あれ? こんないい位置で運べちゃっていいのかな!?」なんて思ってもいたんだけど(笑)。

──しかし直線では早め先頭からさらに後続を突き放すワンサイド勝ちでしたね。

田中 強かったね。馬が力をつけていたのが1番だろうけど、他にも状態や馬場、コース形態、ハンデ54キロとかすべてが噛み合った結果だと思います。

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▲直線は他馬を寄せ付けなかった(撮影:下野雄規)


──レース後には久々のお立ち台でしたね。

田中 みんな喜んでくれたし、本当に良かった。何より高いところから周りを見下ろせるのがいいね。いつも見上げるばっかりで首が疲れてたから(笑)。ああいうのは何回あってもいいよね。

──今年でデビュー34年目。2月には通算1800勝も達成されました。たくさんの思い出があると思いますが、中でも印象に残る勝ち鞍はありますか?

田中 印象に残る勝ち鞍? う〜ん…不思議なもんで、コレっていうのはないかな。たぶんその質問は“自分の中でいい騎乗ができた勝利”っていう意味だよね?

──そうですね。

田中 これは誤解して欲しくないんだけど、自分は勝つことだけにこだわってないの。すべてのレースで、すべての馬でいい競馬をしたい、その馬の能力を引き出したいと思ってるんだよね。そのうえで勝てればもちろんうれしいし、勝てなかったとしてもその馬の力を引き出せればうれしいんだ。それにはレースの格とかは関係ないわけ。だから自分の中でいい騎乗ができた勝利っていうのはたくさんあるし、その中でコレってひとつ挙げるのは難しいかな…って。その逆だったらあるんだけど。


──逆と言いますと?

田中 下手に乗ったのに勝たせてもらったレースだよね。

──せっかくなのでそのレースを教えてください(笑)。

田中 ヴィクトリーの皐月賞(2007年)だね。あれは折り合いがつけられずに馬に走られちゃったレース。俺が操作したわけじゃなくて、馬が自力で勝っちゃった。あれは忘れられない勝ち鞍だね(苦笑)。

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▲「馬が自力で勝っちゃった」という2007年皐月賞(撮影:下野雄規)


──豊富なキャリアを誇る大ベテランですが、若い頃と変わった部分、あるいは変わらない部分がありましたら聞かせてください。

田中 レースの仕方だったり、馬の乗り方は若い頃とそう変わらないと思うんだ。ただ気持ちの部分は少し違う。若い頃はどうしても周りの目が気になるし、他の人が勝つと焦ったりしてたな。でもある程度の年齢になるとそういうのが気にならなくなって、さっきも言った通り自分の馬の能力をいかに引き出せるか…という思いが強くなったよね。あとは若い頃は自分のイメージばかりが先行してた。その馬に合った乗り方ではなくて、自分が思った乗り方を一方的に馬に押しつけていたというか…。でもそれではいい競馬ができないんだよね。

──肉体的にはいかがですか? やはりジムに通ったりして、日頃から鍛えていらっしゃるんでしょうか?

田中 ああ、そういうのはしない。一時は取り組んだこともあったけどヤメた。自分にはあまり必要ないかなって(笑)。もちろんそういうのを否定するわけじゃないよ。自分からヤル気があって続けるのならいい効果があるんだと思う。ただ俺の場合は、馬乗りに必要な肉体は、馬に乗ることでしか得られないんじゃないかなって思って。

──以前、同じようなことを柴田善臣騎手もおっしゃっていました。

田中 やっぱり!? もちろん体のメンテナンスはきちんとプロにお願いするよ。でも鍛えるという意味では、普段からいいフォームで乗ることが1番だと思う。1日に1頭でも2頭でもいいから、きっちりと意識していいフォームで乗れば、それで十分なんじゃないかと思うけどね。

──あとは勝春さんと言えば“カッチースマイル”と言われる素敵な笑顔が印象的ですね。いつも笑顔でいられる秘訣を教えてください。

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▲田中勝春騎手と言えばカッチースマイル(撮影:下野雄規)


田中 あれはクセなんだよ(笑)。いつも心から笑ってるわけじゃないんだよ。

──えーっ!! 衝撃的な情報なんですけど(笑)。

田中 そりゃそうだよ(笑)。顔で笑ってても内心、怒ってる時だってある。でもいつからか、まずは笑うようになったんだよね。いつからだろ? 子どもの頃からかな? もともと自分は割と短気なんだよ。でもそうやって嫌なことに対して、怒った顔をしても楽しくないじゃない。だからまずは笑うの。そうしたら内心、嫌なことがあっても、そういう出来事から距離を置けるというか、流すことができるじゃない。結果的にそれが自分にとっても、周りにとってもいいことなんじゃないかと思うんだよね。

──確かにそうかもしれませんね…。勉強になります。それでは最後にクイーンSで騎乗するローザノワールについての意気込みを聞かせてください。

田中 3走前のディセンバーSは牡馬相手に逃げ切り勝ち。前走のヴィクトリアマイルは東京マイルを逃げて小差の4着。とにかく持久力がハンパじゃないし、それがあの馬の武器だよね。そして戦法としては“逃げ”がベストなんだろうけど、あまりテンのスピードは速くないんだ。だからレースではそこがポイントになるかな。

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▲スタートからハナに立ちそのまま逃げ切った昨年のディセンバーS(撮影:小金井邦祥)


──となるとメンバーや、枠順の並びがカギになりそうですか?

田中 うん。でも必ずしも逃げ一手ではないような気もしてるんだ。例えば2走前の中山牝馬S。控える競馬で9着だったけど、勝ち馬とは0秒4差。結構頑張ってたんだよね。だから枠や周りの出方次第にはなると思うけど、下げる形からでもどこかで自分のタイミングで仕掛けていけるようなら…とも思ってるんだ。まぁこのあたりはレース当日までにじっくり考えていきたいね。

──札幌の1800メートルというコース形態はどのように捉えていますか?

田中 いいんじゃない? 開幕2週目で馬場もキレイだろうし、もともとダートで走っていたくらいだから洋芝も合うと思う。自分自身、札幌で乗るのは2年ぶり。いい競馬をしたいね。

──再びの表彰台と、心のからのカッチースマイルに期待します。

田中 ありがとう。頑張ります(笑)。

(文中敬称略)

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