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【石神深一騎手】「危ないところや落馬も含めての障害」大記録達成の障害のスペシャリストが語る“障害レースとの向き合い方”

  • 2022年09月11日(日) 18時02分
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▲石神深一騎手が障害レースで大切にしていることとは?(撮影:下野雄規)


8月27日小倉競馬場で行われた小倉サマージャンプをアサクサゲンキで勝利した石神深一騎手。この勝利で障害重賞全場制覇と障害重賞完全制覇という前人未到の大記録を達成しました。しかし当の本人は障害重賞完全制覇とは思わず、史上初であることも知らなかったそうです。

そんな障害のスペシャリスト石神騎手に、障害レースで大切にしていることや「危ないところや落馬も含めての障害」と語る障害レースの楽しみ方を伺いました。さらに今秋復帰予定だというオジュウチョウサンへの想いも話してくれました。

(取材・文=佐々木祥恵)

小倉は難しいというより勝ち方がわからなかった


──まず障害重賞全場制覇、そして障害重賞完全制覇という史上初の偉業を達成したお気持ちをお聞かせください。

石神 小倉の重賞を勝ちたいという気持ちが強かったので、それがまず嬉しかったです。全場制覇がかかっていたのはわかっていたのですが、障害重賞完全制覇は知らなくて、史上初というのもわかっていませんでした。

──それはレース後に知ったのですか?

石神 はい。誰かしらいるのだろうなと思っていましたし、自分自身、史上初というのは1度も経験がなかったので、非常に嬉しく思います。

──レースや馬それぞれに思い出があるでしょうけど、これまでで1番思い出深いレースは何でしょうか?

石神 やはり初GIを勝たせてもらった2016年の中山グランドジャンプです。初めて重賞を勝った時ももちろん嬉しかったのですが、GIレースはなかなか勝てるものではありませんので、思い出深いですね。

──オジュウチョウサンで優勝したレースですね。レース前から手応えは感じていましたか?

石神 5か月前の暮れの中山大障害では6着だったのですが、その時は本気で走っていないと感じました。それで翌年の中山グランドジャンプの前の障害オープン(2着)でメンコを外して臨んで、かなり手応えを感じました。それでオジュウが本気で走ってくれれば、GIの舞台でもチャンスがあるのではないかと思っていました。

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▲石神騎手にとって初のJGI制覇となった2016年の中山グランドジャンプ(撮影:下野雄規)


──話を戻して偉業を達成した小倉サマージャンプを振り返っていただきたいのですが、中団あたりから進んでいましたね?

石神 イメージ的にはもう少し前めのポジションがほしかったのですが、前に行きたい馬(2着のメイショウウチデ)が1番枠で自分は9番枠だったので、イメージよりポジションは後ろになりました。

──4コーナーを回る前から結構手が動いていたというか、押していってましたが、手応えはどうだったのですか?


石神 前走の新潟ジャンプS(5着)の時から、それほど切れるタイプではなく、かといってバテるタイプでもないということがわかりましたので、前の2頭を交わせば後ろから来る馬に関しては大丈夫だと感じたので、馬の気持ちが途切れないように鼓舞していました。なので手応えがなかったというわけではないです。

──直線に入って前にいた2頭よりも内に入りましたが、そのコース取りは狙っていたのですか?

石神 狙っていました。向こう正面の2つめを飛んだ後に、前にいた2頭はそんなに下がってこないということと、後ろの馬は多分来ないだろうと思っていましたので、自分の外よりも、前の馬の内側を意識していました。

──ゴール前は接戦になりましたね?

石神 最終障害にうまく誘導できなくて、少し詰まって若干スピードが落ちるような飛越になってしまったのですけど、最後にもうひと脚使ってくれて馬が頑張ってくれました。

──勝利を確信されたのもゴール板くらいですか?

石神 そうですね。小倉は最終障害を先頭で飛んだ馬をなかなか交わせない傾向にあるので厳しいかなと思いましたが、本当によく交わしてくれました。

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▲内に進路を取り見事ゴール前で交わしての勝利(c)netkeiba.com


──小倉の重賞を勝てたことが嬉しいとおっしゃっていましたが、以前はあまり成績が良くなかったのですよね?

石神 福島、阪神、中山の大障害コースと、襷のあるコースは結構好きなんですよね。ただ今年まで小倉で勝てなかったので、難しいというより勝ち方がわからないというのがありました。

──勝ち方がわからない…どんな風にですか?

石神 前に行ったら目標にされてしまうし、後ろから行ったら届かないし…というイメージがありまして、どの位置につけたらいいのかというイメージもわかなかったのですけど、先輩ジョッキーなどにいろいろアドバイスをしてもらったり、自分でも他の人のレースのリプレイを見て、ようやくイメージができてきました。

──今回でかなり収穫はありましたか?

石神 今年小倉で4勝しているので、急に良いイメージが湧くようになりました。レース中にもこう乗ったら勝てそうだなというような良いイメージができています。

危険もスリルも飛越の美しさも全てひっくるめて楽しんで


── 障害レースはもちろん飛越もあって距離も長いですが、騎手同士の駆け引きもあるのでしょうか?

石神 結構ありますね。普段から一緒に調教をする機会も多いですし、相手の馬の調教を目にしたりしているので、どういった飛越をするのかもある程度わかってますし、騎手も30人弱しかいないので、メンバーが変わることもほとんどありませんからね。

──それぞれの騎手の性格を考えながら、乗っているという感じですね。

石神 そうですね、はい。騎手の性格がレースに出やすいというのはありますからね。

──あと馬や展開によって変わってくるとは思うのですが、仕掛けどころはどのように決断しているのですか?

石神 極力早仕掛けをしないように、なおかつ脚を余さないように考えています。他の馬を見る余裕と、自分の馬の手応えを見る余裕を持つようにしています。

 平地もそうだと思うのですが、障害の方が危険度も高いので、飛越でいっぱいいっぱいになっていると周りが見えないですし、自分の馬が良いリズムで走れているのかどうかを考えています。良いリズムで走れていれば少し早めに動いても持ちそうだなとか、前半少し喧嘩してしまったらリズムが悪かったからギリギリまで我慢しようかなとか、そういうことを考えています。

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▲早仕掛けをしないように、かつ脚を余さないように(c)netkeiba.com


──障害レースで大切にしていることはありますか?

石神 なるべく馬の気持ちを後ろ向きにさせないように、気分良く走れてミスの少ない飛越ができるよう心掛けています。

──障害馬になるよう調教していくうえで、一番大切にしていることは何ですか?

石神 ファーストコンタクトで馬の性格を分析することです。最初はなかなか飛ばないというか、怖がってなかなか障害に近づかなかったりするのですけど、強い扶助を嫌がる馬もいますし、ステッキを使って無理やり飛ばせた方が良いのか、馬が納得するまでじっくり時間をかけて優しい扶助でやった方がいいのかを判断する上で、最初のコンタクトを特に大事にしています。

──なかなか繊細さも必要とされますね。

石神 特に牝馬は1回拗ねだして、乗り手が厳しく当たったりすると2度と飛ばなくなったりしますしね。

──トップジョッキーから見て障害レースの魅力はどこでしょう?

石神 乗っているのが1番面白いんですけど(笑)。危ないところや落馬も含めての障害だと思うので、落馬して誰が怪我してというのをあまり悲観せずに、また元気になって復帰してきてほしいなという気持ちで楽しんでもらえたらなと思います。

──ないに越したことはないのでしょうけど、落馬はどうしてもありますしね。

石神 そうですね。自分が落ちなくても巻き込まれる可能性もありますし、僕らもかなりのリスクを承知で挑んでいますので、ファンの皆さんは見る側で楽しんでいただければと思います。もちろん人馬一体の飛越は美しいので、危険もスリルも美しさも全てひっくるめて楽しんでいただければと思います。

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▲落馬に対しては悲観になりすぎずに、また復帰できるようにという気持ちで(c)netkeiba.com


──中山大障害やグランドジャンプでは、ゴールすると拍手が沸き起こりますよね?

石神 特に最近は障害を飛ぶたびに拍手が聞こえてきますので、本当にありがたいですし、以前より障害を応援してくれている人が増えたのかなと感じますね。

──オジュウチョウサンがまた秋復帰してきますね?

石神 牧場の方からも和田正一郎先生からも、順調に来ていると聞いていますので、非常に楽しみにしています。

──昨年春は中山グランドジャンプで5着と敗れたりもしましたが、また復活してきましたもんね?

石神 負けた時は引退なのかなと思ったりもしましたが、昨年暮れの大障害も勝ちましたし、今年の春もグランドジャンプを勝っていますので、現役で走り続けるうちはオジュウの背中を楽しもうと思っています。

──今回偉業を達成されましたが、今後の目標は何かありますでしょうか?

石神 障害のトップでいたいというのを毎年思っていますので、リーディングを取り続けることと、京都ハイジャンプが今年は中京競馬場だったので、京都競馬場で行われる京都ハイジャンプを勝ちたいと思っています。

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▲現役で走り続けるうちはオジュウの背中を楽しもうと思っています(撮影:下野雄規)


(文中敬称略)

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