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タイキシャトルと過ごした日々(2)「大丈夫かい? 何でも相談しな」実は牝馬に紳士的!?

  • 2022年09月13日(火) 18時00分
第二のストーリー

牝馬には紳士的、そして寂しがり屋だったというタイキシャトル(提供:ノーザンレイク)


歳を重ねても素軽い動きに“これがGI馬か”


 タイキシャトルとメイショウドトウの2頭が認定NPO法人引退馬協会からの預託馬として、ノーザンレイクに移動してきたおよそ半月後の7月1日に、新しい預託馬が到着した。牝馬のタッチデュールだ。地方競馬で通算171戦17勝、地方の重賞4勝をはじめ中央と地方の交流重賞にも何度も出走していて、笠松の鉄の女という異名もあったほどだ。そのタッチデュールを現在のオーナーが引き取り、しばらくは乗馬としての調教がされていたが、乗馬にはあまり向かないということで、母タッチノネガイのいる当牧場へと預託されたのだった。

 ノーザンレイクの牝馬グループはキリシマノホシが牛耳っており、タッチデュールも初日は女ボスに厳しくされていた。それを察したのだろうか。隣の馬房に戻ってきたタッチデュールに向かって、シャトルが「大丈夫かい? 何でも相談しな」とでも言うかのように首を伸ばして顔を近づけていたのを今でも鮮明に覚えている。シャトルとドトウは去勢されていたが、牝馬に興味あるのはドトウの方で、牝馬の匂いを嗅ぐとブヒブヒと反応する。一方シャトルは、うるさくて悪戯好きではあるが、牝馬に対しては至って紳士的なのが意外だった。

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タッチデュール(手前)を隣の馬房から覗く、タイキシャトル(提供:ノーザンレイク)


 シャトルは寂しがり屋でもあった。ノーザンレイクは海がわりと近いのでよく霧が発生するのだが、道を挟んで向かいの放牧地の牝馬たちが霧の中に消えて見えなくなると、柵沿いを行ったり来たりして鳴きながら探していた。ただそれも最初の1か月くらいの話で、慣れてきたのか姿が見えなくなっても騒がなくなった。

 シャトルがやってきて変わった点といえば、取材依頼が多くなったことだった。2021年の夏から秋にかけて新聞や競馬週刊誌、映像関係など何件か相次いだが、カメラの前でもシャトルは動じることはなかった。現役時代からトレセン、競馬場でカメラを向けられ取材されるのには多分慣れていたのだろう。競走馬を引退して年月を経てもなお注目されるシャトルは、本当にすごい馬だったのだと改めて実感した。

 前回も記したが、昨年の夏は猛暑だったこともあり、午前3時台からの短時間での放牧で全頭何とかしのいでいた。そんな中シャトルは、8月初旬に後ろ脚を捻挫してしまった。飛節の部分がかなり腫れて痛がっていたので、レントゲンを撮る。骨折していたらどうしようとドキドキしながら見守ったが、骨には異常はなく「年の割にはきれいな骨ですね」と獣医師からお褒めの言葉を頂戴した。どうやら寝起きの時に脚を捻ったようだ。抗生剤の注射を打ち、湿布薬を塗って放牧に出さずに様子を見たが、徐々に腫れと痛みは治まり、5日後には再び放牧に出られるようになった。高齢馬の世話をしていると、何が起きるかわからないということを改めて認識させられた出来事だった。

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捻挫したタイキシャトルを牧場猫のメトが見守る(提供:ノーザンレイク)


 捻挫というアクシデントはあったが、8月10日の嵐の日を境に気温がグッと下がり、天敵のアブも激減した。そのおかげで午前3時台という恐ろしい時間帯の放牧開始からは解放され、放牧する時間も長くなった。

 移動してきた当初から食欲は旺盛だったが、涼しくなってさらに磨きがかかったようによく食べ、体つきもだいぶふっくらとしてきた。それに伴って元気も増してきてさらに噛みつく、足を踏もうとするなどのイタズラも激しくなった。放牧中も様子を見に行くたびに場所を移動して草を食んでおり、ある程度草を食べ終わったらボーっとしているドトウとは対照的に映った。これもその馬の持つ気性の違いなのかもしれない。

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体つきがふっくらしてきた初秋(提供:ノーザンレイク)


 10月に入ると冬毛の伸びがだいぶ目立ってきた。このあたりは年齢的なものもあるのかもしれない。気温も下がってはきたが、まだ冬馬着は早いため、薄手の馬着を引退馬協会に購入してもらった。ドトウとお揃いで、2頭ともよく似合っていた。

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薄手の馬着を着るタイキシャトル(提供:ノーザンレイク)


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メイショウドトウもお揃い(提供:ノーザンレイク)


 引退馬協会のカレンダー用の撮影もあった。動きのある写真を撮るために、人参を持って放牧地に入ったのだが、人参を求めて私のすぐ近くをトリッキーな動きでついて回るので、シャトルの脚が当たったり、体がぶつかりやしないかと恐怖を覚え、冷や汗をかいた。その動きは素軽く、これがGI馬の動きなのかと思いながら、必死で逃げた。今にして思えば、シャトルは人参も欲しかったのだろうが、頭の良い馬なので半分私をからかっていたという気がする。

 12月に入って嬉しい出来事があった。藤沢和雄調教師(当時)からシャトル宛に乾草のプレゼントが届いたのだ。3週に分けて運んでもらうほどたくさんの量で、コロナ禍の影響で飼料が値上がりしている最中だったので、とても助かったし、その心遣いには感謝しかない。夜飼い後に、人参やリンゴ、黒砂糖のおやつタイムを設けており、シャトルは何よりその時間を楽しみにしていた。だが藤沢師から乾草が届いてからは、それに夢中でおやつタイムの時間にも顔を出さないことがしばしばあった。偶然なのかもしれないが、もしかすると贈り主が誰だかわかっていたのではないかと不思議な気持ちになった。

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藤沢和雄元調教師からタイキシャトル宛に届いたたくさんのプレゼント!(提供:ノーザンレイク)


(つづく)



▽ 引退馬協会 HP
https://rha.or.jp/index.html

▽ ノーザンレイク twitter
https://twitter.com/NLstaff

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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