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【ミックスセール2022】現地の声をレポート 億超えは生まれずとも来年以降の盛況を予感させた

  • 2022年10月26日(水) 18時01分
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▲今年初めて行われた「ノーザンファーム・ミックスセール2022」(撮影:田中哲実)


今年から当歳馬の上場を行い名称新たに行われた「ノーザンファーム・ミックスセール2022」、上場馬には今年のダービー馬の半弟や近親にGI馬がいる良血馬がラインナップされ、当歳・繁殖牝馬合わせて106頭が上場、総額28億4900万円(税別)の売り上げを記録しました。

今回はそんなミックスセールが行われた会場の雰囲気や評判など現地の声をお届けします。

(取材・文=須田鷹雄)

今回のセールは初めてゆえに売る方も買う方も手探り


 10月25日、北海道・苫小牧市のノーザンホースパークにおいて「ノーザンファーム・ミックスセール2022」が開催された。

 昨年まで実施されてきた繁殖牝馬セールに加えて、今年は38頭の当歳馬が上場されるセッションが追加された。海外ではこのようなセールの形態があるが、日本でははじめて。しかもノーザンファームの良血馬が上場されるということもあって注目を集めた。

 読者の中には、セレクトセールとの違いが分からないという方もいらっしゃるかもしれない。会場は同じだが、セレクトセールは一般社団法人日本競走馬協会が主催するセールで、今回のセールは主催が株式会社ノーザンホースパーク。今回はノーザンファームの独自性が強いセールということになる。当歳上場馬も3頭以外はノーザンファーム・ノーザンレーシング・吉田俊介氏が販売者・所有者だ。

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▲当歳馬の展示風景(撮影:田中哲実)


 当歳部門を開設する構想は以前からあったという。ノーザンファーム副代表の吉田俊介氏は、「3〜4年前から計画は持っていました。セレクトセールに上場できる頭数は限界まできていますし、一方、セレクトで買えなかった購買者の方からは別の機会を求められることもありました。そこで新たなセリを設けることになったわけです」と説明する。

 上場馬の選定については、「セレクトセールの当歳部門だと3月半ば生まれくらいまでしか上場できませんが、このタイミングだともう少し後の生まれでも上場可能です。それに加えて、種牡馬のバリエーションも意識しました」とのことだった。来年は頭数を増やして50頭前後になる予定とのお話も伺った。

 読者の関心は繁殖部門よりも当歳部門だと思うので、その結果を振り返ろう。当歳全体の最高価格となったのは8600万円(税別、以下同様)のリアルスティール×ダストアンドダイヤモンズ(牡馬)。言わずと知れたダービー馬ドウデュースの半弟である。リザーブ価格8000万円は今回最も高く設定されていたが、意外にも競り合いにはならずこの価格で落札された。

 牝馬の最高価格はエピファネイア×ステファニーズキトゥンで6800万円。母はブリーダーズカップフィリー&メアターフなどを制した名牝だ。

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▲当歳全体の最高価格8600万円(税別)で落札されたダストアンドダイヤモンズの2022(撮影:田中哲実)


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▲当歳牝馬の最高価格6800万円(税別)で落札されたステファニーズキトゥンの2022(撮影:田中哲実)



 ふだんセレクトセールの価格を見ている競馬ファンからすると、今回の価格は全体に安く感じられるかもしれない。実際のところ、多くの馬が4〜5000万円レベルまで競られた一方で大きく弾けた高値になる馬は出なかった。

 今回、セレクトセールで2億円以上をビッドするような大物購買者の対応は分かれており、来場した購買者も多い一方で購買者登録をしなかったケースや代理人のみを派遣したケースもあった。大物どうしのぶつかり合いが生じなかったぶん、億超えが生まれなかったという感じだろう。

 ただ、今回の結果に対して吉田副代表は「結果には満足していますし、購買者の皆さんに感謝しています」と振り返る。「初めてのセールですし、このセール出身の活躍馬が出てくると人気も定着してくるのではないでしょうか。セレクトセールは開催時期が浸透していて馬主さんたちも年に一度の楽しみとしてスケジュールを確保してくれていますが、ゆくゆくはこちらのセールもそのような存在になればと思います」ともコメントしてくれた。

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▲セール終了後に取材を受けるノーザンファーム副代表・吉田俊介氏(撮影:田中哲実)


 実際、今回のセールは初めてゆえに売る方も買う方も手探りという面があったと思う。また、セレクトセールの異常な高騰ぶりに我々野次馬まで慣れてしまって、今回の結果を安く感じているという面はある。

 買う側が今回難しかったのは、当歳10月というタイミングの馬を見ることに慣れていないことも大きい。離乳からしばらく経って体型が崩れている馬も多いし、時期的に冬毛の出ている馬がほとんどだ。

 何人か日高の牧場関係者ともその点を話したのだが、「我々もこの時期の当歳馬を評価するのは難しいですよ」とのことだった。ノーザンファームの従業員に聞いても同様の答えが返ってくるので、買い手側としてももっと高いところをビッドする踏ん切りがつかなかったという面はあるかもしれない。

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▲この時期の当歳馬を評価するのは難しい(撮影:田中哲実)


 購買登録者数は繁殖部門のみだった昨年が約300人だったのに対して今年は400人前後とのこと。単純に考えれば約100人が当歳部門のために登録したということになる。

 この数は、来年増えることはあっても減ることはないだろう。セレクトセールに参加して今回参加しなかった購買者は結果を見て「意外と安い」と感じるはず。そうなると来年は手を挙げるかもしれない。仮に落札できなかったとしても、いい線まで競ることができればある程度満足感は得られる。最近のセレクトセールでは昔からの購買者が高騰ぶりに付いていけず疲弊していた面もあったので、このセールがそのストレスを軽減する存在になってくれればちょうどよいと思う。

 最後に繁殖牝馬部門についても少し触れておこう。吉田副代表は「主取りも出ましたが、こちらも結果には満足しています。活気あるファミリーの上がり馬(競走馬を引退して繁殖牝馬としては未供用の馬)に強い関心を持っていただいていると感じました」と振り返った。自分で繁殖牝馬も持つ個人馬主による購買もある一方、日高の牧場による購買も旺盛だった。いまはセレクションセールでもかなり高値がつくし、今回上場された繁殖牝馬に対する投資も十分回収、あるいはそれ以上の結果をもたらす可能性はある。

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▲受胎馬の展示風景(撮影:田中哲実)


 話題ということではなんといっても、馬主でありオーストラリアで牧場・種馬所を経営しているYusheng Zhang氏による「爆買い」だろう。繁殖牝馬部門最高価格・4900万円のアルモハバナ(キングカメハメハ×ドナウブルー)を筆頭に13頭を購買。代理人の方によるとZhang氏は日本のサラブレッドに対する関心が強く、特にロードカナロアが大好き(産駒のタガロアを自身の種馬所に導入している)とのこと。今回は為替も良いタイミングだったので大量購買に至ったようだ。

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▲繁殖牝馬部門最高価格4900万円(税別)で落札されたアルモハバナ(撮影:田中哲実)


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▲繁殖牝馬部門2位タイの4700万円(税別)で落札されたルナソル(撮影:田中哲実)

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