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全日本パラ馬術大会に参戦しました!

  • 2022年12月01日(木) 12時00分
11月、全日本パラ馬術大会に出場した常石さん! 今回は大会に出場するまでの苦悩や、これからやるべきこと、やりたいことについて綴ります。

 ジャパンカップ(GI・芝2400m)、最高峰の競馬の祭典にワクワクしました。今年は、外国馬4頭が参戦。東京競馬場内に国際厩舎ができたことで、外国馬が直接東京へ入厩できるようになりました。日本の競馬もどんどん進化していますね。

 レースは手に汗握る、一瞬の勝負に目が離せませんでした。

 来た…なべちゃんやー! ヴェラアズール号が大接戦ど真ん中を突き抜けてきた。興奮のあまり身震いした。

日々是好日

▲ヴェラアズールとムーア騎手(撮影:下野雄規)


 すごい! 渡辺薫彦厩舎のヴェラアズール号が1着、シャフリヤール号が2着、3着はヴェルトライゼンデ号。

 1〜3着は日本馬でしたが、鞍上はすべて外国人騎手という面白いレースになりました。

 開業7年目で達成した偉業は、馬を大事に育て、まじめ一途のなべちゃんだからこそやり遂げた結果でしょう。

 アッ! 失礼いたしました。なべちゃんと呼ばせてもらっていた時が懐かしい、尊敬です。

 GI初制覇、渡辺薫彦調教師、厩舎スタッフの皆様、関係者の皆様おめでとうございます。

 現在はワールドカップも開催中。ウクライナの人々を思うとなんだかつらい気持ちになっていますが、やっぱりスポーツは多くのキセキと感動をくれますね。僕も障がい者乗馬をつづけていてよかったなーと思っています。

 2022年11月2日、3日に御殿場市・馬術スポーツセンターで第6回全日本パラ馬術大会が行われました。

 最高の秋晴れ、乗馬日和でコンディションは絶好調。今年初めての国内大会なので気合を入れて臨みました。

 “経路違反は絶対にしない”

 大会に出場する以前に守ることですが、高次脳機能障害の僕にとってはなかなか難しいこと。

 でも、障害があるからパラリンピックに挑戦できる。それを無駄にしないためにも、もう間違いは許されません。

 2日に行われたチームテストの経路を、絶対に間違えないように毎日書いてイメージトレーニングしました。だから自信をもって騎乗でき、60.617ポイントでした。間違えずにできたことで次への希望が繋がりました。

日々是好日

▲経路を毎日書いてトレーニング


日々是好日

▲経路図


 1度に2種類の経路を覚えられないので、チームテストが終わったらインディビジュアルに切り替えです。4湾曲の図形を正確に描くと最終の演技でBXに入りC地点。審判に向かって真っすぐに進む。ここで7点の評価をとることが、僕の大きな目標。コーンを並べ経路を歩く。

 イメージトレーニングを繰り返し、脳ではなく体で覚えることを何度も繰り返す。

 いつも最後の最後で失敗をしていたので、今日こそはと脳のど真ん中に入れて挑む。ノーミスで終了。60.706ポイント。もう少しいいポイントが付くと思っていましたが「躍動感が足りない。もっと活発に動かすといいね」とアドバイスをいただきました。

 今回は5位に入賞することができ、表彰されました。入賞は最高。緊張することもなく、自信を持ってできてよかった。この感覚は久々だったのでとっても嬉しかったが、ここからが勝負。一つ一つ目標を決めて上を目指す、次へ繋げていく。体幹を鍛えて騎座を安定させること。脚を固定させふらつきを無くすこと。課題も山積み、でも頑張る。

日々是好日

▲今回は、5位入賞!



***

 落馬から本格的に障がい者乗馬を初めて7年くらいになりますが、馬には乗れるが経路が覚えられませんでした。明石乗馬協会の所長からは「大会に出場する絶対条件だよ。覚えられなかったら大会に出る資格はない。ホームラン打っても走らなかったら点数が入らないのと同じだよ」と言われていました。まずは覚える。図形を正確に描き、馬を躍動的に、リズミカルに動かせる。美しく演技することを求められるのが馬場馬術競技です。

 東京パラリンピック出場を目標にしてきたので、落胆というより自分の不甲斐なさに困惑していました。ドイツ馬と日本馬をリースし、ドイツやオランダなどへ何度も遠征したが夢は叶わず、悔しかった。莫大な費用も使ってきたので、これ以上続けるのは無理か? どうするか? コロナ禍、さらにロシアとウクライナの悲惨な戦争もあって、ドイツへの渡航も難しくなり…我慢我慢で過ごし、じっくりと考えました。

 きっちり区切りをつけるように母からも周りの人からも忠告を受け、騎手引退時と同じような究極の選択を迫られていました。

 何も言えず、行動もできず…息苦しい日が続く。こんな時は、お祖父ちゃんに会いに行こう。きっと答えが出る。

 落馬で意識不明の時もお祖父ちゃんが「勝義何をしてるんやー、馬が待ってるよー」と何度も呼んでくれた。

 祖父が眠るのは京都市五条大谷本廟。心が落ち着く、会いに来てよかった。

 やっぱり俺には馬しかない。乗ることしかできない。馬から生きるエネルギーをもらったことを、忘れていたな。

 そんな時、亜須歌トレーナーから「11月に日本で大会があるけど、かっちゃんどうする?」と連絡が入りました。

 オカンに相談すると「成績も変わらないし何の努力もしないので無理です。そんな費用もまったくありません。仕事もしていないし、スポンサーもいない」ときっぱり断られてしまいました。

常石 仕事もしたいけど、どんな仕事ができるか分からない

 家の中にもいっぱいあるよ。

常石 日曜日に掃除機をかける。それから米も洗う。

 自分が食べたいと思うなら洗ってください。

 いっぱいこぼし、流しがお米だらけになる。量り間違え炊飯器から米汁が噴き出す…散々でしたが、最近は上手くなってきました。

「家でもいっぱいやることあるんやな」と家事の大変さもほんの少しわかりました。

常石 経路も朝晩書いてイメージトレーニングを始める。テイクフィジカルコンディショニングジムで教えてもらったことを家でもする、だから大会に行かせてほしい。無駄にならないようにする。どうしても馬と一緒にいたい。お願い!

 亜須歌トレーナーに相談するわ。でも勝義に合う馬なかったら諦めるしかないね。

常石 諦めることは出来ないから亜須歌先生にお願いする。明石乗馬協会の薫先生にもお願いする。

 …そして願い叶って、第6回全日本パラ馬術大会に出場登録。僕のために御殿場乗馬クラブの「ランドヴァリアント号」をリース契約していただき、レッスンに行きました。

 調教してくださった加藤トレーナーは、僕の麻痺を考慮しきっちり馬が動くように調教をしてくれました。とっても乗り易く動きもいいので「この馬とならやれる」と確信できました。

 大会までに2回しかレッスンできませんでしたが、体で覚えた経路が浮かんでノーミスで大会を終えることができました。

 ヴァリアントの素晴らしい躍動のある動きをもっともっと見せたかったな。

 加藤トレーナーと亜須歌トレーナーからも「今日はよかったよ。だから体幹をしっかり鍛えてヴァリアントと一緒にがんばれー!」と嬉しい言葉をもらった。最高や。

日々是好日

▲ランドヴァリアント号と



 ヴァリアントのお世話をしてくれたスタッフの皆さんに感謝です。

***

 先日、グリーンチャンネルで東京パラリンピック2020が放送されていました。金メダルを獲得したイギリスのリー・ピアソンさんは、数年前に全国障がい者馬術大会で三木ホースランドパークに来てくださり、模範演技を見せてくれました。右手と左脚でコントロールされています。

 その時僕に「バランスを取るんだよ。君のように左手と左脚の麻痺だとバランスが難しい。きっちり骨盤を鍛えバランスをとるようにしたらいいよ」とアドバイスをしてくれましたが、すっかり忘れていました。躍動感を出すためには、早く動かそうとせずに馬の背にドカンと座り安定させると馬は安心して、スムーズに動いてくれる。

 元騎手だったなんて、自分自身が恥ずかしくなってきます。「騎座」大事だな。

 新たな目標に向かって諦めずに挑んでいきます。

オカン すべて解約し、0からのスタートを考える。今何をするべきか? 何がしたいのか? じっくり考えてください。

 でも答えは同じ「馬に乗りたい」じゃあ乗馬を楽しんだら?

 それでも「パラの大会に出たい」諦められないと言い切る息子に根負けし、亜須歌トレーナーにお願いする。約1年ぶりの大会出場。外馬場で堂々と乗る息子に、ちょっといいなって感じた。

 なんでパラ馬術をしたいの?

「どんな障害があっても馬といると、触れ合うだけで心と体がほっこりしていい気持ちになる。馬の目を見るだけで優しさが伝わるからいろんなものに優しくなれる。だから人馬一体の良さを伝えたい。大きな馬だけど包み込んでくれるような優しさを感じる。悩みなんて吹っ飛ぶ。元騎手だったからこそ馬の魅力を伝えたい。」

 そんな仕事ができたらいいね。

 今やりたい事が明確になり覚悟がほんの少し見えてきたように思う。

 彼の得意なことが仕事になればいいと思い、いろいろな牧場や乗馬クラブなどに訪問し体験させてもらっています。

 落馬後に乗馬ライセンス2級も取りました。どこへでも一人で行けることが特技です。どこか働ける所があれば是非紹介してください。婚活もかな(笑)。

 まだまだ甘い息子に毎日叱咤激励ではなく叱咤してしまう。ガマンガマンの日々です。

 つねかつこと常石勝義&オカン

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1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っている。

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