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約1年、勝ち星から遠のいた王者が復活の兆し。高知県知事賞は「眠れないほど悔しい2着」

  • 2023年01月04日(水) 18時00分
馬ニアックな世界

▲高知の王者スペルマロン


新年あけましておめでとうございます。本年もコラム「ちょっと馬ニアックな世界」(月1回)をよろしくお願いいたします。

2023年最初のコラムは大晦日に行われた重賞・高知県知事賞の話題から。今回の高知県知事賞は当地移籍後、圧勝続きのララメダイユドールの出走により1強ムードが漂っていました。ところがまさかの10着に敗退し、勝ったのは繰り上がり出走の3歳馬・ガルボマンボ。さらに大接戦の末の2着には帰ってきた王者・スペルマロンと、見どころ満載のレースでした。

なぜララメダイユドールは敗れ、スペルマロンは復活の兆しを見せることができたのでしょうか。「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

「去年は僕たちが重賞で」長いトンネルでも諦めなかったスペルマロン


 2022年、スペルマロンは長いトンネルの中にいました。

 20年、21年と2年連続で高知競馬の年度代表馬に輝き、当地で手にした賞金は1億円超え。重賞全距離制覇も果たし、その強さとオールマイティーぶりにさらに磨きがかかるはずでした。

 しかし、21年の大晦日に行われた高知県知事賞を2着に敗れた後、まったく勝てなくなってしまったのです。

 元々気性面に難しさを抱える馬で、直線で抜け出すとふわふわと遊んで真面目に走らない姿も見せていましたが、その個性を把握し調教もレースも一貫して共に歩んできたのは倉兼育康騎手でした。

 22年春。

 重賞・二十四万石賞で10着に敗れた後、洗い場で泥にまみれたジョッキーブーツを拭く倉兼騎手に、同僚のジョッキーはこんな言葉をかけました。

「去年は僕たちが重賞で1、2着を争っていましたよね……」

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▲2022年二十四万石賞(去年は僕たちが…の会話が交わされたレース)


 同じく前年に比べると精彩を欠いた馬の主戦からの言葉に、倉兼騎手は「ホンマやね」と寂し気に笑いました。

「今日はゲートの中でも大人しくしていて、道中は勝ちを意識するくらい、最近では一番いい雰囲気でした。でも、追ってからの息遣いが良くありませんでした」

 このあとスペルマロンは5カ月間、レースから遠のきました。

 その間、陣営は復活に向けて試行錯誤を繰り返し、休養明け初戦では気合いを注入するかのごとく積極果敢な逃げの手に出ると、続く短距離戦で10カ月ぶりの勝利を収めました。倉兼騎手は弾ける笑顔でこう話しました。

「嬉しくて、久しぶりに愛撫しました。状態ではなく気持ちがポイントだと思っていたので、逃げたら変わるんじゃないかなと思って前走は逃げたんです。今回は直線で先頭に追い付いた時、自らグッとハミを取って交わしに行ってくれたことが何より嬉しかったです」

繰り上がりから優勝のガルボマンボは距離が延びるほどに味が出る


 こうして迎えた22年の大晦日、高知県知事賞。

 福永洋一記念と並び、高知競馬の関係者が勝ちたいレースに挙げる一つで、コースは直線に入ってすぐの地点からスタートして馬場を2周する2400mです。

 圧倒的1番人気は高知移籍後、無敗の6連勝中のララメダイユドール。

 6戦全てで圧勝している馬で、ここも好スタートから逃げるかと思われましたが、最初のコーナーでジョウショーモードが外から競りかけてきました。

 そうなると馬も闘争心が入ってしまい、ハミを取って1周目向正面では12.3秒という長距離とは思えぬ速いラップを刻んでしまいます。ようやく3〜4コーナーでペースは落ち着きますが、前半で力んでしまっては2400mをもたせるのは至難の業。

 そんな中、前を見ながら上手く運んだのがガルボマンボとスペルマロンでした。

 ガルボマンボは出走馬中唯一の3歳馬。

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▲2022年の高知優駿を勝利したガルボマンボ


 高知優駿と黒潮菊花賞を勝った実力馬でしたが、高知三冠のうち4着に敗れた黒潮皐月賞は1400mで、同馬にとっては距離不足でした。ゴールに向けてどんどん加速していくタイプで、スタミナは相当なもの。それゆえ、距離が延びれば延びるほど好材料で、当初は同日に組まれた1つ下の一般戦に出走予定でしたが、高知県知事賞に回避馬が出たことで繰り上がって出走することができたのでした。

 先に動いたのはスペルマロン。

 3コーナー手前で先頭に立つと、ガルボマンボが内からついてきて、2頭は4コーナーから馬体をピッタリ併せた一騎打ちとなりました。直線半ばでガルボマンボが少し前に出ましたが、必死に食らいつくスペルマロン。カメラの角度もあってか、ややスペルマロンも盛り返したように見えましたが、ガルボマンボがアタマ差しのいで勝利を手にしました。

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▲高知県知事賞はガルボマンボ(左)とスペルマロン(右)の激しい叩き合いに(提供:高知県競馬組合)


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▲高知県知事賞の口取りでの一コマ(提供:高知県競馬組合)


 勝った林謙佑騎手は「素直に嬉しかったです。直線は何も考えず、精一杯最後まで追っていました。ガルボマンボは最後までしっかり伸びてきてくれる馬です」と自身初の高知県知事賞制覇を喜びました。

 一方、敗れはしましたが、スペルマロンの走りには「王者が帰ってきた!」と胸が震えました。一度精彩を欠いた競走馬を復活させることは並大抵のものじゃない、ということは競馬ファンのみなさんもよくご存知のことと思います。それをここまで立て直したのですから、陣営のみなさんの思いたるや。

 それでも彼らは勝負師。

 倉兼騎手は「悔しいです……」とひと言に思いを凝縮させ、別府真司調教師は「その夜は眠れないほど悔しかったです」と胸の内を明かしました。

 それだけに、23年は再びスペルマロンが輝く姿を見たいもの。長距離戦でのガルボマンボとの再戦が楽しみですし、今回は厳しい展開となり敗れたララメダイユドールやグッドヒューマーも力負けではないでしょうから、また楽しみな走りが期待できると思います。

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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