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騎手の話題が賑やか

  • 2023年02月09日(木) 12時00分
 このところ、騎手に関する話題が賑やかだ。

 先週の土曜日、2月4日には武豊騎手が前人未踏のJRA通算4400勝を達成した。通過点とはいえ、とてつもない高みまで行ってしまったものだとつくづく思う。

 節目の勝ち鞍を挙げるたびにメッセージを送ると、返信の締めくくりは「まだまだ頑張ります! 」と、いつも同じ。二十代のころから、数字などの具体的な目標は持たず、目指してきたのは「昨日の自分よりいい騎手になること」だった。比較の対象は、他人ではなく自分自身。だから、トップに立ちつづけても偉そうにしないし、リーディングを失っても卑屈にならない。その姿勢は今も変わっていない。いつの日か5000勝に到達しても、「まだまだ頑張ります! 」と言っていることだろう。

 今週の火曜日、2月7日にはJRA競馬学校騎手課程第39期生の卒業式が行われた。小林美駒さんと河原田菜々さんの2人が騎手免許に合格し、3月からJRAの女性騎手は史上最多の6人となる。

 小倉競馬開幕週の1月15日(日)の最終レースで、藤田菜七子騎手、古川奈穂騎手、永島まなみ騎手、そして今村聖奈騎手の4人の女性騎手が初めて勢ぞろいし、今村騎手が勝って話題になった。翌週の22日(日)も小倉で4人揃い踏みのレースがあり、永島騎手が勝利。3度目の全員競演となった28日(土)の小倉3レースでは、古川騎手、永島騎手、藤田騎手のワンツースリーフィニッシュとなった。2月5日の小倉6レースでも4人が揃ったのだが、女性騎手の最先着は永島騎手の12着と、「女性騎手が全員揃えば女性が勝つ」という方程式が初めて崩れた。

 おそらく、5度目の4人揃い踏みは、もはや珍しくないこととしてニュースにもならず、次に騒がれるのは、新人の2人を加えた6人が勢ぞろいしたときだろう。

 それも何度か繰り返すうちに当たり前のこととなり、将来は6人が8人、10人へと増えていくものと思われる。さすがにひとつのレースで女性騎手が10人も揃ったら、その都度ニュースになるだろうが、いつかは、招待レースではない一般のレースでも、フルゲート18頭全馬の鞍上が女性騎手という日もやって来るのかもしれない。

 日本馬が海外のビッグレースに参戦するときなど、ニュースになって観戦ツアーが組まれるなど、騒がれているうちはダメだ、という声がしばしば聞かれる。しかし、騒がれているうちに勝ってこそ「快挙」なのだし、注目されたなかで大仕事をやってのけてこそ「スター」なのだと思う。

 もうひとつ騎手の話題といえば、昨年11月の落馬負傷により休養していた池添謙一騎手が、今週末、2月11日(土)から復帰する予定であることだ。今月限りで定年を迎える、父・池添兼雄調教師の引退までに復帰が叶って本当によかった。

 スポーツ報知に掲載された、今年の1月2日と3日に行われた第99回箱根駅伝の選手名鑑で、中央大学4年の田井野悠介選手の尊敬するアスリートの欄に「池添謙一」と書かれていた。ほかの選手の多くは、同じ長距離ランナーとして活躍する大迫傑選手や、MLBの大谷翔平選手、自分の大学の先輩などを挙げていた。

 田井野選手はチーム内で最終10区の座を争っていたのだが、結局、ランナーとして出場することなく、準優勝したチームをサポートする役割を担った。そのあたりの経緯は「Number Web」箱根駅伝PRESSの記事に詳しいので、興味のある方は読んでみてはいかがだろう。その記事を担当した編集者によると、中央大学のメンバーは、自分たちのベストレースを振り返る動画を見ながら「イン差し」といった言葉を使うなど、競馬に親しんでいるようだ。

 池添騎手は、自身も何度か怪我から復活しているし、スイープトウショウやメイケイエールなど、メンタル面で難しい馬とじっくり向き合って力を引き出し、結果を出してきた。そうした度量の大きなプロらしさや、粘り強い姿勢が、自身のベストの姿を模索しつづける若いアスリートからリスペクトされるのはよくわかる。

 また、福永祐一騎手の引退式が、3月4日(土)に阪神競馬場で行われることと、それに先立つ2月19日(日)に東京競馬場でJRA最終騎乗後インタビューが実施されることも発表された。

 嬉しい話題も寂しい話題もあるが、ともかく、今週も無事に、全力での手綱さばきを見せてほしい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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