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JRA重賞馬最長寿マイネルダビテ(2)突然の別れ…ダビテが生き切った36年8か月と27日

  • 2023年02月21日(火) 18時00分
第二のストーリー

岡田牧雄さんとマイネルダビテ(提供:一般社団法人umanowa)


馬ってこんなに急にいなくなるんだ、と…


 競走馬引退以来、マイネルダビテは岡田スタッドでマイペースに過ごしてきた。撮影に頻繁に通うようになった糸井さんだが、ダビテに意識されていたという実感はないという。

「ダビテには永遠の片思いだと思っています。それくらい意識されなかったです。カメラを向けているとたまに寄ってくることはありましたけど、そこに人いるんだね、という感じでした」

 マイペースで人間に対しても素っ気ないダビテに、糸井さんはますます惹きつけられていた。

「実はダビテがこの世を去る前日にも動画撮影に行っているんです。雪が降っていたので、雪の中のダビテは映えるなと思って放牧地での様子などを撮影しました」

 淡々とマイペースないつも通りのダビテの姿がそこにはあった。だが別れは突然だった。翌日の午前中、糸井さんの携帯電話に着信があった。

「電話に出るとダビちゃんが亡くなりましたと…。馬ってこんなに急にいなくなるんだと、ものすごく驚きました」

 2021年1月30日のことだった。

 この年の冬は雨がよく降った。しかもその後に気温が急降下して地面がツルツルに凍った上に雪が降ることがよくあったと記憶している。ツルツルになった地面を雪が覆うので、滑る箇所がわかりづらく、人も馬も気をつけないと転倒に繋がる。その影響もあったのだろうか。マイネルダビテは1月30日朝、放牧地で転倒して動けなくなり、スタッフが見守る中、長年過ごしてきた放牧地でその馬生の幕を下ろした。36歳8か月27日という年齢だった。放牧中の事故ではあるが、年齢を考えれば天寿を全うしたと言えるだろう。

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天へ旅立つ前日、放牧地に佇むマイネルダビテ(提供:一般社団法人umanowa)


 ダビテが旅立った週のはじめ、糸井さんは地域おこし協力隊や一般社団法人umanowaなど自身の活動について、スポーツ紙から取材を受けていた。

「記事用の写真はダビテと一緒に撮りたいと希望しました」

 記者と糸井さんが牧場に赴くと、岡田牧雄さんもちょうど居合わせた。せっかくだからとダビテと岡田さん、糸井さんのスリーショットの撮影となった。そしてその数日後、某スポーツ紙がダビテ死去を報じた際に、その写真が使われたのだった。

「牧雄さんがダビテと一緒に写っているのは当たり前ですけど、隣の女の人は誰? みたいな感じになりました。でもこのタイミングで一緒に写真が撮れたり、旅立つ前日に撮影に行ったことなど不思議に感じます」

 糸井さんは生きているダビテの最後の動画を時折、見返している。

「そのたびにうるっときますけど、撮っておいて本当に良かったなと思います」

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こちらも旅立つ前日に撮影したマイネルダビテ(提供:一般社団法人umanowa)


 マイネルダビテ、最後の映像。雪がダビテの体に降り積もっていた。20年の付き合いだというスタッフに雪を落としてもらって、馬房に戻っていった。馬房ではスタッフにタオルで体を拭いてもらっている。顔が特に気持ち良さそうだ。さすがに背中は落ちて骨ばっているが、好物の大豆かすを美味しそうに頬張っていた。ダビテの飾らない余生を糸井さんの動画は垣間見させてくれた。そしてダビテはその馬生を生き切ったのだと思った。

『マイネルダビテの最期の日常2021/01/29』動画はこちら
 ダビテが天に召されておよそ2か月が経過した2021年4月9日、まるでダビテからバトンを渡されたかのように功労馬としてやって来たのがGI馬・サウンドトゥルーだった。糸井さんは到着の日から撮影を開始した(YouTubeチャンネル「馬産地ひだかの馬房から」の中の『日々、サウンドトゥルー』)。

「撮影に行くとすぐに走ってきて、近くに寄ってきてくれます」

 サウンドトゥルーの素顔は、淡々としていた先輩マイネルダビテとは対照的だった。

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岡田スタッドに功労馬としてやってきたサウンドトゥルー(提供:一般社団法人umanowa)


(つづく)

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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