馬へのリスペクトと自分に自信と誇りを持って……

──『太論』でも書きましたが、小牧さんいわく「近い将来、加矢太は障害リーディングを獲れる」と。やはり加矢太さんにとっても、リーディングは大きな目標ですか？

加矢太　いや、正直あまり意識していないです。もっとこうしていたら勝っていたかも…と思うレースはありますが、やっぱり最後は馬ですから。

太　俺は贔屓目抜きに、獲れると思うで。上手やもん。

加矢太　結局、誰に勝つとか負けるかとかではなくて、自分がどこで満足できるか。乗馬をやっているときも、ライバルというライバルはいなかったし。今も敵わない人はたくさんいるけれど、ライバルという意識はまったくなくて、「自分がどうしたらこの人に勝てるか」しか考えてない。なんていうのかな、ライバルって作りたくないんだよね。

──それはなぜですか？

加矢太　ライバルだと思ってしまうと、人間関係のなかでも意識しちゃうし。意識したくないんですよね。意識される側になったこともありますが、うれしくなかったですし。だから、競技生活は長かったですけど、僕のなかではライバルがいた試しがないんです。その人より劣っていると思ったことがないというか、そう思おうとしていただけなのかもしれないけど。


太　変わってるんや。乗馬をやっている人は変わっている人が多いからね。知らんけど(笑)。

加矢太　知らんのかい(笑)。なんだろうな……みんなね、常に自分に自信と誇りを持って馬に乗っているから、誰かより上に行きたいとか、人と比べてどうこうじゃないんだよね。だってさ、馬って正解がないでしょ？

太　それはそうやな。

加矢太　僕が乗ってダメだった馬が、違う人が乗ったことで上手くいくケースもあるし、その逆もある。でも、それってどっちが上手いとかそういうことではなくて、手が合っていた、手が合っていなかったという価値観になると思うんだよね。だからこそ、自分の正解を探していくなかで、自分が誰かに比べて劣っていると思ったことがない。だから、誰かをライバル視したこともないし、これからもしたくないというか。やっぱり、それくらい自信を持って馬に乗らないとって思うからさ。馬は生き物だからね。それくらいリスペクトを持って関係性を築いていきたいから。

太　なるほどね。いいこと言うやん。そういえばこの前、調整ルームの舎監のおっちゃんに、「小牧さんは、いい子育てをしてきたんやろうなぁ」ってむちゃくちゃ言われたわ。「あんなにいい青年はおらんで」って言っとった。

加矢太　もっと言って(笑)。

太　冗談やなくね、誰と会っても「あんなにいい息子さんはおらんで」っていっつも言われんねん。

加矢太　親父の背中を見てきたし、影響も受けてきたけど、子供の頃の思い出はほとんどないし、直接的に育ててもらったという感覚はない(笑)。

太　俺、子育てしとらんもん。威張ることじゃないけど、オムツを替えたことも一回もないわ。なんせ家におらんかったしな。だから今ね、ひかりと加矢太が「いい子やね」って言われるのは、お母さんのおかげや。

ひかり・加矢太　間違いない(笑)！