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ペッパーミルと最長間隔GI勝利記録

  • 2023年03月23日(木) 12時00分
 日本時間の3月22日、ワールドベースボールクラシック(WBC)決勝で日本代表の侍ジャパンがアメリカ代表を下して優勝。2009年以来14年ぶり、3度目の世界一の座についた。サヨナラでメキシコに勝った準決勝につづき、決勝では9回を二刀流の大谷翔平選手が締めくくるという、あまりに劇的すぎて、小説や漫画では逆に見られないようなフィナーレとなった。

 その侍ジャパンの一員として大活躍したラーズ・ヌートバー選手にちなんで名付けられた2歳馬が、早くも現れたようだ。

 父アドミラブル、母トーコージュエリー(母の父ジャングルポケット)の牡馬ヌートバーと、父コパノリッキー、母トーワフォーチュン(母の父エンドスウィープ)の牡馬ペッパーミルである。

 2頭とも母馬が今年引退した橋田満元調教師の管理馬だったのはたまたまだろうか。

 ヌートバー選手が流行らせたペッパーミルの動きには、小さなことからコツコツとやっていけばいいことがある、という意味がこめられているという。

 これはもちろん味方の好プレーに対して向けられるものであり、選抜高校野球大会で一部の選手たちがしたように、相手がエラーしたときにすべき性質のものではない。にもかかわらず、そのチームの監督は、一塁塁審から「パフォーマンスはダメです」と注意されたことに対して、「なぜダメなのか理由が聞きたい」と話したという。「理由」はここに記したとおりだ。その後の報道も「パフォーマンス禁止」に主眼を置いたものがほとんどで、「悪者」にされた塁審が気の毒でならない。

 高野連は、高校野球として不要なパフォーマンスやジェスチャーは謹んでほしい、といったコメントを出した。本来は、エラーした相手への敬意を欠く、スポーツマンシップに反することをすべきではない、と付け加えるべきところだろうが、ペッパーミルパフォーマンスをした選手たちが「悪者」にならないよう配慮したのではないか。

 自分たちがどういうつもりでやったか、ということと、相手や世間がどう受け止めるかは、まったく別のことだ。自分たちが楽しむためにやっているだけだから構わないだろう、という理屈が通るなら、例えば、ハロウィンのとき渋谷で仮装して往来を塞ぎ、ゴミを散らかしても、やっている人間たちが楽しんでいるだけだから構わない、ということになる。選手はともかく、いい大人の監督が、そんな当たり前のこともわからないのか。

 せっかくの祝勝気分が萎えてしまうので、この話はこれで終わりにしたい。

 ヌートバーやペッパーミルと同じく、侍ジャパンに関係する(あるいは、関連づけることができる)名前の馬としては、父ダイワメジャー、母イニシャルダブル(母の父ウォーエンブレム)の牝馬ニトウリュウや、父ストロングリターン、母ライサ(母の父トーセンダンス)の牡馬ショウタイムなどがいる。

 そのまんまサムライジャパンという、父ネオユニヴァース、母アシヤマダム(母の父ラシアンルーブル)の牡馬も、10年前までホッカイドウ競馬で走っていた。

 さて、今週末の高松宮記念には、一昨年のスプリンターズステークスの覇者ピクシーナイトが1年4カ月ぶりに出走する。スプリンターズステークスの次走、12月の香港スプリントで、先行馬の落馬に巻き込まれて転倒。左前脚を骨折するなどしてから中467日での実戦となる。

 勝てば、1993年の有馬記念でトウカイテイオーが、前年の有馬記念以来中363日の実戦で勝った「最長間隔GI勝利記録」を大幅に更新する。

 ピクシーナイトは今年1月28日に帰厩。2月26日の阪急杯での復帰を目指していたが、リンパ管炎で後肢の歩様が乱れたため、ぶっつけでここに来ることになった。

 トウカイテイオーが、1年ぶりとなった有馬記念の前に、使おうと思えばジャパンカップなどにも間に合っていた状態だったことに比べると厳しい状況だ。

 1年以上のブランクでGIに臨み、馬券圏内に入った馬はトウカイテイオーだけと、データも難易度の高さを示しているが、30年ぶりの記録更新に期待をかけながら、まずは無事にゴールすることを願いたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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