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【池江泰寿調教師】「大阪杯でも血のドラマを」ヴェルトライゼンデにある“勝算”

  • 2023年03月31日(金) 18時01分
今週のFace

▲昨年スプリンターズSで3年ぶりにGI制覇(撮影:下野雄規)


無敗の三冠馬・コントレイルが制したホープフルSで2着だったヴェルトライゼンデ。早くから素質の片鱗を見せていましたが、4歳春に屈腱炎を発症し、長い間、休養を余儀なくされました。ところが、1年4カ月ぶりにターフに戻ってくると、いきなり復帰戦の鳴尾記念で重賞制覇。さらにジャパンカップも僅差の3着と、その走りはさらに進化しています。今週末、大阪杯でのGI初制覇に向けて父ドリームジャーニーも管理した池江泰寿調教師に伺いました。

(取材・構成:大恵陽子)

「直線で抜け出す時の一瞬の脚」の進化


――屈腱炎からの復帰戦で鳴尾記念をいきなり勝利。改めて力を示しましたが、レースに向けてはどんな雰囲気だったのですか?

池江 ダミアン・レーン騎手が追い切りに乗った時に「1年以上休んでいる馬とは思えないような動きと息遣いだ」とおっしゃっていたので、初戦からいい状態で持っていけました。あとは勝負勘かなと思っていました。

――その通りの走りで見事、復帰戦を重賞初制覇で飾りました。どんな気持ちで見ていましたか?

池江 やっぱり「無事に上がってきてほしい」と思っていました。それは復帰戦だけじゃなくて、その後のレースもずっとそうですね。直線では抜け出す時の一瞬の脚が鋭くなってきたなと感じました。

――さらなる進化を感じたんですね。続くオールカマーこそ7着でしたが、ジャパンカップでは一旦先頭に立っての3着。

池江 直線に向いて前が壁だったんですけど、「開いた!」と思いました。だけど、結果として開くのが早かったです。そのために抜け出すのが早くなって、一瞬ソラを使ってしまった分、負けてしまったとレーン騎手は話していました。1、2着馬が視界に入って再加速はしたようなんですけど、東京だけに長く脚を使えなくて差されました。例年よりもペースが流れなくて、極端な上がり勝負になった点も向きませんでした。できればもう少し流れた方が合うタイプです。


――ソラを使った悔しい経験が、ゴール直前で抜け出して勝った日経新春杯につながったのでしょうか。

池江 デヴィッド・イーガン騎手にもその点は注意を促していましたし、彼も過去のレース映像を見てそういう特性があるんじゃないかと肌で感じていたみたいです。

右回り苦手説へ「オールカマーは超スローの前残り馬場」


――復帰後はずっと坂路で調教されてきました。脚元への負担を考えてでしょうか?

池江 10年、20年前と比べると屈腱炎を再発する馬は減りましたが、それでも再発が一番怖いので、万全を期して負担をかけないように坂路で調整しています。海外遠征を行っていないのもやっぱり脚元のことを考えてです。現状、何か不安があるわけではありませんが、ドバイやサウジ、香港では坂路などがなくて再発のリスクが高くなるので、リスクを下げるために控えています。

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▲大阪杯に向け、厩舎周りでの運動を行ったヴェルトライゼンデ(撮影:大恵陽子)


――同じく復帰後で言うと、4戦中3戦が左回りで全て3着以内なのに対し、右回りはオールカマーで7着でした。右回りは1回しか走っていないですが、左右の回りの得手不得手はどう感じていますか。

池江 オールカマーが大敗しているので、データを元に「右回りが苦手じゃないか」という意見が出てくるのは当然なんですけど、オールカマーをしっかり見返して細かく分析してほしいと思います。超スローで、あの時期の中山はどうしても前が残ってしまいます。牝馬三冠馬のデアリングタクトでさえ脚を使えなかったレースなので、たしかに恥ずかしい着順ではありますが、あの一戦だけで右回りが苦手だと考えてしまうのは早合点だと思います。

――色々な要素が重なっての敗戦であって、左右の回りだけが大きな敗因とは考えづらい、と。

池江 復帰後、左回りでしか勝てなかったこともあって僕もちょっとは気にしていたので、ジャパンCの後にレーン騎手に聞きました。すると、「僕は左回りの鳴尾記念とジャパンCの2回しか乗っていないけども、手前の替え方や乗っている時のバランス考えても、右回りがダメという印象は全くない」と話していました。その言葉で有馬記念もちょっと考えたほどです。あれだけの名手が言うんだから、間違いないのかなと思います。

当日の馬場状態、ペースや展開、枠順、それに運など色々な要素が絡み合って競馬は結果が出ますからね。

普通の生き方をしている人では感じることができない喜びを体感


――だからこそ、勝った時の喜びも大きいんでしょうね。特にサウジアラビアでのシルヴァーソニックでの勝利は嬉しかったのでは、と感じます。

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▲レッドシーターフハンデキャップを制したシルヴァーソニック(C)netkeiba.com


池江 オルフェーヴルの仔で海外重賞を勝てたっていうのも嬉しかったですし、そのお父さんがステイゴールド。管理調教師はうちの父(池江泰郎元調教師)でしたけど、僕が調教をしていて、ドバイまで一緒に行ってドバイシーマクラシックを勝ちました。その孫でまた中東の地に来て重賞レースを勝つというのは、それはもう普通の生き方をしている人では感じることができない喜びを体感させてもらったと思います。こんな幸せな職業はないなと感じました。まさにブラッドスポーツの素晴らしい所以であって、イギリスで何百年も前から受け継がれてきたということがよく分かりましたね。

――ヴェルトライゼンデの父は池江厩舎に初GIをもたらしたドリームジャーニーの産駒。大阪杯でも血のドラマが生まれることを期待します。

池江 最終追い切りでは本来の反応の良さが出て、動きもシャープになってきたなと感じました。GII時代ですがドリームジャーニーも勝っていて、その弟のオルフェーヴルも勝っています。阪神2000mが初めてだと言われますが、「むしろ合うんじゃないかな」と思っています。応援よろしくお願いします。

(文中敬称略)

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ジョッキーや調教師など、毎週“旬”な競馬関係者にインタビュー。netkeiba特派員がジョッキーや調教師、厩舎スタッフなど、いま最も旬な競馬関係者を直撃。ホースマンの勝負師としての信念から、人気ジョッキーのプライベートまで、ここだけで見せてくれる素顔をお届けします!

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