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五月病と日米ダービー制覇の夢

  • 2023年05月11日(木) 12時00分
 ゴールデンウィークが明けて、今月8日の月曜日から新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類に変わるなど、新しい日常が始まろうとしている。競馬ファンにとっては東京での5週連続GIの真っ只中であり、個人的には「五月病」に注意が必要な時期でもある。

 私が五月病の存在を知ったのは、おそらく「大学受験ラジオ講座」の講師の言葉からだったので、高校3年生のとき、すなわち18歳になった年だったと思う。今調べて、ラジオ講座が1995年4月に終了していることを知った。時代が違うとはいえ、軽くショックを受けてしまい、それこそ五月病が発病しそうだ。

 今も悩まされているその他の持病に花粉症がある。こちらは血液検査を受けて確定したのが2005年の春、41歳になる年だった。その数年前から症状が出ていたので、病歴は20年ほどか。

 五月病は倍の40年ほどだ。朝起きるのがつらく、食欲もあまりなくなり、目標を失ったかのようで、気力が湧かず、投げやりな気持ちになってしまう。20代のころ北関東の宇都宮競馬場に行った帰りに同じ栃木県の益子に寄り、馬券で儲けたお金で益子焼の食器や灰皿などを買ったことがあった。

 窯元の仕事ぶりを近くで見て、やっぱりモノをつくる仕事っていいなあ、と思った。あのとき一念発起して窯元に弟子入りしていたら、違った未来がひらけていたのではないか──などと、本気で考えてしまう。

 陶器づくりを甘く見ているわけではないが、今でも、陶芸作家への憧れは持っている。土選びや窯づくり、造形などには職人としての腕とセンスの差が出て、そのうえで、焼き上がりには見えない部分もあるだけに、運に委ねざるを得ない部分もある。自分でよくできたと思うものと、他者から評価されるものが一致したり、しなかったりといった部分も今の仕事と重なり、やり甲斐があるだろうな、と思ってしまうのである。

 さて、先週、栗東・音無秀孝厩舎のデルマソトガケと大井・藤田輝厩舎のマンダリンヒーローという2頭の日本馬がケンタッキーダービーに参戦した。それぞれ6着、12着という結果だった。

 デルマソトガケは社台ファームの生産馬である。同牧場生産のソールオリエンスが皐月賞を制した直後、代表の吉田照哉氏は「日米ダービー制覇への夢がふくらみますね」と話していた。

 吉田氏のケンタッキーダービー挑戦は、1995年、社台グループだった米国フォンテンブローファーム生産で、社台レースホース所有、栗東・森秀行厩舎のスキーキャプテンに始まる。日本調教馬初の米国ダービー参戦でもあった。武豊騎手を背に臨んだそのレースは14着だった。

 あの年の日本ダービーはどうだったかというと、社台ファーム生産のタヤスツヨシが制し、2着も同牧場生産のジェニュインだった。どちらも旋風を巻き起こしていたサンデーサイレンスの初年度産駒である。前週のオークスを勝ったのも社台ファーム生産で、サンデー産駒のダンスパートナーだった。

 当時はNHKマイルカップもヴィクトリアマイルもなかったが、今年は社台ファーム生産のシャンパンカラーがNHKマイルカップを制し、今週のヴィクトリアマイルでは同牧場生産のスターズオンアースが有力視されている。

 話をソールオリエンスに戻すと、父キタサンブラックは、初年度産駒のイクイノックスが国内外で圧倒的なパフォーマンスを発揮するなど、サンデーのような「旋風」という感じではないが、自身に勝るとも劣らない大物をつづけて出す凄みを見せている。

 社台スタリオンステーション事務局の徳武英介さんは、去年の夏の時点で「キタサンブラックがサンデー系の本流になるかもしれないと思っている」と話していた。また、皐月賞のレース前に会ったとき、どの馬に注目しているのか私が訊くと、「ドゥラメンテの後継種牡馬になってほしいという思いもこめて、タッチウッドです。道悪の秋天馬券もありそうですね」と答えた。

「道悪の秋天馬券」とは、キタサンブラックが勝ってサトノクラウンが2着だった2017年の天皇賞・秋の再現を、それぞれの産駒であるソールオリエンスとタスティエーラが演じることである。タッチウッドは13着に敗れたが、秋天馬券はドンピシャだった。さすがである。

 歴史は繰り返すのだとしたら、社台ファーム生産の、最も勢いのある種牡馬の産駒であるソールオリエンスがダービー馬となるのか。

 それとも、昨年はワン・ツー、一昨年は掲示板を独占したノーザンファームの生産馬が強さを見せるのか。

 卑近な話に戻って恐縮だが、こうしてダービーのことを考えている間は、五月病のことを忘れることができる。私と同じく五月病の自覚症状のある人は、皐月賞の直線のリプレイ映像を見て、ソールオリエンスがダービーの直線を走っている姿を想像してみるといいかもしれない。間違いなく目が覚める。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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