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過去10年断トツの大波乱となった今年のロイヤルアスコット開催

  • 2023年06月28日(水) 12時00分

変わらぬ千両役者ぶりを見せたデットーリ騎手


 イギリス競馬の華と称される、王室主催のロイヤルアスコットが、6月20日から24日まで開催された。

 前国王エリザベス2世が昨年9月に崩御され、新国王チャールズ3世の戴冠式が行われたのが、今年5月6日だった。すなわち、国王が化わって初めての王室開催となったわけだ。競馬が大好きで、馬主としても生産者としても競馬に深く関わった前国王に対し、新国王はそれほど競馬に肩入れされていないと言われていただけに、アスコット競馬場へのお出ましがあるのか、あるとして、お姿が見られる日が何日あるのかが、おおいに注目されていた。

 結論から言えば、開催を通じて1日も欠かさず、5日連続での臨場となった。ご承知のように、第1競走の発走を前にして、王族をはじめとした方々が馬車にのって入場する「ロイヤル・プロセッション」が、王室開催では恒例行事になっているのだが、その第1馬車には連日、国王チャールズ3世とカミラ王妃のお姿があったのである。競馬サークルにとって、非常に喜ばしいことと受け止められている。

 しかも、折りにふれて表彰式のプレゼンターをお務めになっただけではなかった。5日の開催を通じて、6頭の国王所有馬が出走した中、開催3日目の6月22日に行われたハンデ戦のキングジョージ5世S(芝11F211y)に出走したデザートヒーロー(牡3、父シーザスターズ)が、オッズ19倍の10番人気という低評価を覆して優勝。チャールズ3世は、馬主としてロイヤルアスコット初勝利を手にしたのである。

 5日間を通じて8つのG1競走が行われたが、今年からレース名が改められたのが、最終日に組まれた古馬による6FのG1戦だった。前国王が、競馬界において長年果された貢献に敬意を表する目的で、2002年から11年までゴールデンジュビリーS、12年から21年までダイヤモンドジュビリーS、22年はプラチナジュビリーSとして施行されたこのレースが、今後はクイーンエリザベス2世ジュビリーステークスとして施行されることになったのだ。

 オーストラリアや香港からの遠征馬があり、ワールドプールの売り上げが歴代最高を記録したそのクイーンエリザベス2世ジュビリーステークスが、大波乱の結末となった。この路線のG1・3勝馬で、2着に敗れたG1キングズスタンドS(芝5F)から中3日で出走してきたハイフィールドプリンセス(牝6、ナイトオブサンダー)、オーストラリアにおけるこの路線のG1・2勝馬で、3着に健闘した昨年に続き2年連続での参戦となったアルトーリアス(牡4、父フライングアーチー)らが人気を集めていたこのレースを制したのは、オッズ81倍の15番人気だったカーデム(セン7、父ダークエンジェル)だった。これは、オッズ41倍で制した1980年のカニーを大幅に上回る、レース史上最大の大穴だった。

 さらに、これを上回る超大穴が飛び出したのが、開催3日目の第1競走に組まれた、2歳馬によるG2ノーフォークS(芝5F)だった。単勝オッズ151倍だったヴァリアントフォース(牡2、父マリブムーン)が優勝。これは、同じく151倍だった、2020年のG2コヴェントリーS(芝6F)勝ち馬ナンドパラドと並ぶ、ロイヤルアスコット史上の最高単勝配当だった。

 6月22日には、最終競走に組まれたハンデ戦のバッキンガムパレスS(芝7F)でも、オッズ51倍の22番人気だったウイッチハンター(セン4、父シユーニ)が優勝。5日間に組まれた35競走の、勝ち馬の平均単勝オッズが17.88倍というのは、過去10年で断トツの数字だったと、英国の競馬日刊紙レーシングポストは報じている。

 今年のロイヤルアスコットにおけるもう1つの大きな話題が、今年一杯での現役引退を表明しているため、これが最後の王室開催となるフランキー・デットーリ騎手(52歳)が、どのような手綱さばきをみせるかだった。

 フランキーは、開催3日目のメイン競走に組まれた、ロイヤルアスコット最古の1戦であるG1ゴールドC(芝19F210y)を、コレッジモナミ(セン4、父フランケル)に騎乗して優勝。千両役者ぶりを見せつけた。

 そしてロイヤルアスコット最終日、デットーリ騎手はキャサリン夫人とともに、ロイヤルプロセッションの第4馬車にのってアスコット競馬場に登場。王室による粋な計らいに、スタンドの観衆はおおいに沸いた。

 ゴールドCを含めて、フランキー・デットーリ騎手は今年のロイヤルアスコットで4勝をマーク。王室開催における通算勝利数を、歴代第2位となる81勝に伸ばしている(第1位はレスター・ピゴットの116勝)。

 開催を通じて好天に恵まれ、乾いた馬場でレースが行われたのが、今年のロイヤルアスコットだった。日本馬に向いた舞台設定だっただけに、日本からの参戦がなかったのが惜しまれる。来年はぜひ、王室開催に挑む日本調教馬が現れて欲しいと思う。

 なおロイヤルアスコットの主要競走は、6月29日(木曜日)夜10時からグリーンチャンネルで放送される「All In Line〜世界の競馬」で紹介されるので、ぜひご覧いただきたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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