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【矢作芳人調教師×須田鷹雄氏】「上位厩舎も下位厩舎も同じ給与」競争原理の働かない旧式の厩舎システムでいいのか──競馬界の課題に斬り込むSP対談(第1回)

  • 2024年02月04日(日) 18時02分
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▲須田鷹雄氏と矢作芳人調教師のスペシャル対談(C)netkeiba


独自の手腕で国内外問わず数多くのビッグレースを勝利するなど日本競馬を牽引する矢作芳人調教師と、東大卒で唯一無二の存在感を放つ競馬評論家の須田鷹雄氏が、競馬界の課題に斬り込むスペシャル対談を実施。

第1回のテーマは、矢作調教師が提言する「厩舎制度の課題」について──。賃金や待遇面の問題から、騎手&調教師免許の現状まで深く意見を交わしました。

本対談は毎週日曜18時に4週にわたって掲載予定です。

(構成=須田鷹雄)

「上を目指そうという人間にとっては有利なシステムではない」


矢作 こんにちは、お手柔らかにお願いします。

須田 今回、矢作先生とお話ししたいなと、私の方からリクエストしたんですけども。なぜかというと私、昔の競馬雑誌を読むのが好きで、昭和40年の優駿とかを読むと「競馬を良くするためにはどうしたらいいのか」ということを、厩舎の人も競馬会の人もマスコミも熱く語っているんですね。でも、最近はそれがなくなっちゃったというか。多分、みんな揉めない術を身につけたと思うんですよ。そういう話をしない方向に、業界がすっかり行っちゃっていると思うので。

 ただ、誰かと誰かの間で話をすることは可能だろう。矢作先生となら競馬を面白く語り合えるというか、まったく意見が一致しなくても、議論を交わし合えるんじゃないかなと。そして、こういうことを他のメンバーでもどんどんやっていけるような業界になってほしいなと。その第一歩としてお越しいただきました。お忙しい中ありがとうございます。

 とは言え今回、競馬に関わる全ての話をというわけにはいきませんので、何かお話ししたいことはありますか? と、事前に矢作先生にトークテーマを伺ったところ、ひとつは厩舎制度のお話をされたいということだったのですけど、具体的にはどういったことをお話しになりたいですか?

矢作 僕個人の立場からの話になってしまいますので、普通の調教師さんの考えとは一致しないというか、一致しない部分のほうが大きいかな。まずは調教師の問題、そして組合の問題。昭和から変わってないですよね。

 これだけ競馬が変わって、時代の流れも変わっているなかで、どの厩舎にいようが全員が同じ給料。組合も、トップ厩舎にいても下位の方の厩舎にいても全員がおなじ給料なわけで。非常に矛盾してきていると思うんだけども。

須田 今はそこに「旧賃金」と「新賃金」2つグループが分かれますからね。

矢作 それもあるけど、そのことで昨年の春にストを打ったわけだけど、結局ストライキとしては機能してない、ということは、やはり組合全体のシステムに陰りが見えるのかなと感じますし、我々調教師会のほうは調教師会のほうで組合化していて。もっと伸ばそう、上を目指そうという人間にとっては、どうしても有利なシステムではないですよね。

須田 昭和の時代から建屋を増築増築して九龍城みたいになって、収拾がつかなくなっているというのが厩舎制度だと思うんですけど、そもそも春闘については語ってくれるなっていうのがJRAや調教師会としてはあるのでは。

矢作 たぶん色々なところからくるでしょうね、僕にも。

須田 僕は厩舎の人間ではないので、第三者的に見ていて思ったのが、最初に関東労の一部がSNSで先手を打って、素人を味方につけたんですよ。業界通を気取りたいタイプの素人さんを。ところがいざストを打ってみたら、スト破りというより「スト破れ」だと思ったんですよね。条件闘争よりも競馬に行きたいって人もいるし。

 当時たまたま全馬労のノンポリ助手と話をしていて、彼も新賃金で進上金を取れない厩舎の子とかは、牧場と比較してもちょっとかわいそうな面があると。だから、旧賃金である自分たちを削ってでも、安い方に付けてやれという気持ちがあると。

 ただ組合として「旧制度賃金の人間を削ってでも」とは言えないじゃないですか。多分、新賃金をもうちょっとよくしてもいいんじゃないのっていうのは、馬主会を含めてそんなに反対しないことだと思うんですよね。

 いまは3兆円いっているからいいけれど、なんでそもそも新旧の賃金制度ができたかっていうと、元は競馬が潰れるぞということで。競馬が潰れるぞって時に、元からいる人間は助かろうっていう設計で。

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(C)netkeiba


矢作 すべてがそうなの。組合的な、従業員的なことで言えば、その新賃金体系。それから調教師的な立場で言うと、馬房削減ですね。200馬房ずつ、結局400馬房削減しているわけで、全てが既得権者は助かるんです。だからいいでしょ? みんな納得ですよね、チャンチャンで。

 で、割を食うのはこれからを背負う若手。従業員にしてもそうだし、これから調教師を目指していこうって人たちにとって門戸が狭くなったわけですよ。

「一回取ってしまえば勝ち」騎手・調教師免許の現状


須田 実はJRAの職員もそうなんですよね。あるタイミングから先の入会組はかわいそうな賃金体系。昔の「旧」の人も昔に比べてだいぶ減っているんだけども、新の人は旧の人とはまた別の賃金体系。

矢作 賃金って、人事院勧告で決まっているんじゃないの?

須田 いや、その時の会議の中身は知らないですが、給与体系は昔の職員と一定のタイミング以降に入った子とでJRAも違うはずです。

 矢作先生は海外の事例もよく知っているから、海外って純粋に競争して一部は脱落してっていう仕組みじゃないですか。対して日本は、一回免許を取ったら基本食えますという制度にしていると。美浦で一度、厩舎が潰れる時期がありましたけど、あの時辞めた人達には申し訳ないですけど、僕はあの方が健全だと思うんですよね。

矢作 まあ当然ですよね。あとでジョッキーの話も出てくるかと思うんですけど、ジョッキーでも同じことが言えて。もちろんジョッキーは調教師よりはかなり厳しいですけど、それにしても人数がある程度絞られているというところで、海外とは全くシステムが違う。この部分で普通の調教師と僕の考えが違うのは、僕にとっては規制緩和しかないんですよ。

須田 具体的にどういうかたちを希望しますか?

矢作 例えば、預託料の枠組みにしても、そういうものがもう少し自由化されれば。あとは、給与体系も。例えば僕だったら、うちの従業員に給料をもっとあげたいです。でも給料をあげるためには預託料をもっと上げないといけないわけ。それでも預けてくれるっていうお客さんがいる以上、それはそれでありだと思うし。

 例えば1か月60万円だとしたら、トップ厩舎に預けても60万、下位の厩舎に預けても60万。馬主さんは

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