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キングジョージ戦線に異変あり

  • 2006年06月27日(火) 23時51分
 他人の不幸を喜ぶことは誠にもって恥ずべき行為だが、先週末に立て続けに聞こえてきた一連のニュースに、筆者は思わずニヤっとしてしまった。敵陣の身に予期せぬ故障や敗戦が相次ぎ、ハーツクライによるキングジョージ制覇の確率が、ここ一両日のうちにぐっと高まったのである。

 まず、24日(土曜日)。ロイヤルアスコット最終日のG2ハードウィックSに出走を予定していたシャワンダが、厩舎で軽い運動を行った際に歩様が乱れ、右前脚に問題があることが発覚。当日の朝になって出走を取り消したのだ。詳しい状況はまだわかっていないが、シーズン後半の大レースを目標に再調整されることになるとの情報が伝わってきている。

 昨年の愛オークスとヴェルメイユ賞の勝ち馬で、その後ゴドルフィンにトレードされたシャワンダ。牝馬ながらキングジョージの前売りでブックメーカー各社が10倍を切るオッズを掲げていたが、この出走取り消しを受けて各社一斉に前売りリストからその名を外している。

 今季ここまで欧州における3歳勢が、組織創設以来最悪と言ってもよい不調に見舞われ、5月末から1週間ほど所属馬の出走を一切とりやめて原因の究明を行ったゴドルフィン。軍団復活かと思われたが、ロイヤルアスコット2日目のG1プリンスオブウェールズSでドバイWC勝ち馬エレクトロキューショニストが2着となり、またもアクシデントに見舞われたかたちとなった。

 続いて同じ24日(土曜日)。英国ダービー4着馬ハラベックの陣営が、調教の動きが本物ではないとして、予定をしていたアイルランドダービー(7月2日、カラ)を回避することを表明。こちらも秋に目標を切り換えることになった。

 今年4月にニューバリーのメイドンでデビュー勝ちしたレースぶりが非常に良く、一躍ダービーのダークホースに浮上したハラベック。ところが、予定をしていた前哨戦のダンテSはスコープ検査の結果が芳しくなく回避。ダービーはキャリア1戦のままぶっつけ本番となったが、ここでサーパーシーから短頭+頭+短頭という僅差の4着に健闘。最も内容のある競馬をしたのはこの馬と言われたのが、ハラベックだった。素質を買われて、キングジョージでも各社7倍前後のオッズを掲げていたが、こちらも週明けには前売りリストからその名が消滅している。

 そして最大の驚きをもたらしたのが、25日(日曜日)に行われたG1サンクルー大賞だった。圧倒的1番人気に推された昨年の欧州チャンピオン・ハリケーンランが、まさかの敗戦を喫したのである。勝ったプライド(牝6歳)は、アルカセットを破った昨年のフォワ賞を含めて、これが重賞6勝目。それ以外にも、G1英チャンピオンS・2着、G1香港C・2着など、牡馬に混じっても全くひけをとらない競馬を続けている女傑だが、2400mのG1でハリケーンランに土をつけるとは、想定の範囲にない事態だった。

 鞍上のキアラン・ファーロンは「今日は馬がおとなしかった。もし言葉を話せたら、『頭が痛いよ』とか、そんな事を言ったような気がする」とコメント。現在のところ次走は予定通りキングジョージで、ブックメーカー各社も依然としてこの馬を1番人気に推して前売りを続けているが、全く付け入る隙がないかに見えたハリケーンランが、実は磐石の存在ではないことがわかった意義は大きい。

 かくして、日本馬によるキングジョージ制覇という快挙が、「壮大なる夢」から「現実味のある目標」に姿を変えた週末となったのであった。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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