7月8日、アメリカ・ニュージャージー州の、芝のG1ユナイテッドネイションHをメインレースとしたモンマスパーク競馬場の開催で、にわかには信じ難いドタバタ劇が展開された。
ユナイテッドネイションHと言えば、アメリカにおける芝路線の立派な基幹レースである。今年も、04年のBCターフ勝ち馬で、このレースは昨年に続く連覇を目指すベタートークナウをはじめ、前走ベルモントパークのG1マンハッタンH快勝のカシーク、5月にチャーチルダウンズで行われたG1ターフクラシック勝ち馬イングリッシュチャネル、昨年のカナディアン国際勝ち馬で、前走マンハッタンH2着のリラックストジェスチャーなど、豪華なメンバーがここに照準を絞り、決戦の時を待っていた。
ところが、レースを3日後に控えた7月5日(水曜日)に、突然、ユナイテッドネイションHを含むモンマスパークの開催が「施行中止」と宣言されたのである。
急激な天候の変化や、それに伴う馬場状態の悪化、あるいは、伝染病の蔓延などで、競馬開催が突然中止になることはあるが、今回背景にあったのは全く異なる要因だった。なんと、州議会を舞台とした政治のゴタゴタが、競馬をストップしてしまったのである。
州財政の悪化に苦しむニュージャージー州。およそ45億ドルにのぼる赤字を解消しようと、州知事ジョン・コージンが打ち出した策が、州税の値上げであった。それまで6%だった州税を7%に引き上げることで事態を乗り切ろうと、法案を州議会に提出したのだが、州議員たちがこれに反対。州税値上げ法案を承認せず、新たな予算編成案をまとめるべきデッドラインの7月1日を迎えてしまった。それでも州税値上げにこだわるコージン知事は、継続審議として法案とりまとめに動いたが、打開の道はなく、ついに7月5日、必要不可欠と判断されたものを除く州機関の活動を全てストップすると宣言。予算の裏付けがない以上、出ていく出費を尽く抑えようとの意図に立った宣言であったが、この「必要不可欠と判断されたものを除く」州機関に含まれたのが、ニュージャージー州競馬委員会だった。州の競馬を司る統括機関が活動を停止しまったのだから、競馬開催も中止せざるを得ない。翌7月6日(木曜日)から、ニュージャージー州のモンマスでは競馬開催が出来なくなってしまったのである。
実は、ニュージャージー州で突然止まってしまったのは、競馬ばかりではなかった。活動を停止した州機関には、カジノ・コントロール委員会という、州内のカジノ運営を統括する機関も含まれていたから、あの有名なアトランティック・シティーのカジノ群も、軒並み営業を停止せざるをえなくなったのだ。この日を境にしてニュージャージーは、競馬もない、カジノもない、州営業の宝くじの販売もないという、無味乾燥な地帯と化してしまったのである。
連日のように特別予算委員会が招集されていた州政府は、6日(木曜日)遅くになって、条件付きながら州税の増税を認めることで大筋合意。正常化へ向けて動き始めたが、新予算案を承認するための上院・下院双方の議員総会が7日(金曜日)夜6時の開会となったため、7日(金曜日)も引き続き、競馬、カジノともに全面ストップという状況が続いた。
州機関がようやく正常に活動しはじめたのが8日(土曜日)朝からで、G1ユナイテッドネイションHを含む8日(土曜日)のモンマス開催もなんとか予定通り行われ、ファン、関係者ともにホッと胸をなで下ろすことになったが、競馬サークルの人間にとってはなんとも気が揉めた数日間となった。