
▲諏訪代表にお話を伺いました(c)netkeiba
特集企画「日高は、新時代へ」。
27歳で一口馬主となり、自らの目で馬を選び、愛馬スワーヴリチャードでジャパンC制覇までたどり着いた諏訪守オーナー。その彼がいま見据えているのは、“日高の再興”という次なる挑戦です。
前編では、日高への想いやこれまでの歩みについて語っていただきました。後編では、現在取り組んでいる牧場のヴィジョン、そして“これからの競馬”に対する展望へと話は及びます。なぜ日高の馬にこだわり続けるのか。その問いの先にある、信念と覚悟に迫ります。
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ヒーリングミュージックで“ヤンチャさ軽減”!? グリーンエナジー(取材・構成=不破由妃子、撮影=netkeiba編集部)
様々な分野の優秀なホースマンたちが合流
──生産に始まり、初期・中期・後期育成、さらには東日本最大規模となる外厩施設の建設を計画するなど、生まれてから競走を終えるまでの馬たちを一括管理しようという壮大なプロジェクトを進めていらっしゃるわけですが、そこに思い至ったのはどんな思いからですか?
諏訪 どれかひとつでも欠けてしまうと、結局その部分は他責になってしまうと思ったからです。僕は、全部自責にしたい。そのためには、一気通貫の体制が絶対に必要だと思ったんですね。馬の資質が大事なのはもちろんですが、やはり血統やビッグデータ、育成や管理に携わるスタッフといったソフト面、施設の規模や充実度といったハード面の両面が整うことがとても重要で。ほかのスポーツもそうですが、競馬界もどんどん進化してきていますからね。
──確かにそうですね。外厩の利用が当たり前になったことで休み明けの概念も変わりましたし、外厩スタッフの能力も問われるようになった。となると、どこの外厩を使うかという選択も、調教師の大事な仕事になっていますね。
諏訪 そうですね。今や、牧場からトレセンに戻って早ければ2週間で競馬を使うということもあります。外厩がないと、トレセンの限られた馬房数では出走回数があげられないのが現実です。
──牧場をご自身でつくられるオーナーは他にもいらっしゃいますが、外厩までとは大変凄いことですね。
諏訪 普通は繁殖をやり始めて、イヤリング(1歳馬)をやって、あとは後期育成でいいところはないかなぁ、外厩はどこに預けようかなぁとなる。近代競馬においてレースの時計は年々速くなり、消耗が激しくなっています。リペアとトレーニングのできる環境を兼ね備えた外厩の必要性は、ますます高くなっています。そのようななか、僕はたまたま友人の馬主から「将来的に外厩施設をつくりたいんだったら、僕は浪江の復興事業に携わったことがあるから、町長を紹介するよ」という流れになりまして。それが7、8年前ですね。
──そんなに前から構想がスタートしていたんですね。
諏訪 最初の牧場(生産・初期育成を担う『Blooming Farm』)を開場したのは4年前の7月ですが、話自体はもっとずっと前から始まっていました。資金の調達も簡単ではありませんし、何より仲間を確保しなければならない。とにかく時間が必要だった。
僕、馬は本当に大好きなんですけど、残念ながら馬アレルギーなんですよ。薬を飲みながら馬を見てまわっているくらいですから、当然、乗ることはできないし、お世話もできない。だから、僕のヴィジョンを共有できる人たちを一生懸命探して、この人だと思える人が見つかったら、一生懸命に話して。僕が大事にしているものは何なのか、なぜこういうハードを作る必要があるのかを伝え続けてきたんです。

▲「何よりも大切な仲間探しに時間をかけました」
──その結果、壮大な構想が形になりつつあるのが今ということですね。
諏訪 はい。本当にありがたいことに、様々な分野の優秀なホースマンたちがこうして集まってくれて。まだ合流できていない人たちもね、僕の話にすごく興味を持ってくれているんですよ。たぶん、「アイツなら本当に、日高の馬たちが活躍する土壌をつくるかもしれない」と思ってくれているんじゃないかな(笑)。
──私自身、今回初めてお話を伺う機会をいただきましたが、すでに諏訪オーナーの情熱に圧倒されています…。
諏訪 アハハハ! むしろ僕には情熱しかないですからね。馬はもちろん大好きですが、それ以上に僕は人が好きなので、仲間が喜ぶ顔が見たいんです。
──諏訪オーナーがおっしゃる仲間とは、どういった方たちですか?
諏訪 牧場の仲間、馬主仲間、日高の牧場の仲間、高校や大学の友人も含めてです。友人たちはみんな一口クラブの会員なのですが、最初にお話した通り、会員なのに馬が買えないという状況があったりして、楽しみづらくなっちゃっているんですよね。はたしてそれでいいのかという思いも、原動力のひとつです。

▲「馬はもちろん大好きです、でもそれ以上に人が好き」(c)netkeiba
本当に見たい景色は…生きている間には見られないかもしれない
──諏訪オーナーが最終的に見たい日高の未来とは、どんな景色ですか?
諏訪 最終的に見たい日高の景色はあるけれど…。たぶん僕が生きている間には容易くは見られないと思う。
──形勢をひっくり返すのは、それだけ難しいことだと。
諏訪 そう思います。いずれにしても競馬界という娯楽業界で考えると、ライバルは競艇や競輪、オートなどだと思うんですよね。そういった公営競技のなかで、魅力的なコンテンツであり続けること。そこを追求していかない限り、いつの日かファンが離れてしまって、終わりを迎えることにもなりかねない。
──業界の未来を危惧しているからこそ、諏訪オーナーの挑戦があるんですね。
諏訪 はい。どんなにAIが進化しても、馬は生き物ですから、人がいないと始まらない。どんな時代になっても、そこは変わらないですよね。つまり、馬に携わりたいと思う人が減ってしまうと、競馬は存続できないわけです。極端に言えば、ほかの公営競技は選手がいれば競走が成り立ちますが、競馬には馬という主役が不可欠ですから。僕はそこがすごく大きいと思っています。
──確かに。生産、育成、管理と、1頭の馬にどれだけの人間が関わっているか。
諏訪 ですよね。とはいえ、中途半端な気持ちでは続かない仕事です。だから、どうしても馬に携わりたいんだくらいの熱意がある人を増やさなければいけない。そのためにはドラマをいっぱい見せて、現実として感動を共有し、それぞれの夢を紡いでいきたいと思う人たちが集まる場所を作りたい。それが今、僕が一番やりたいことですね。

▲「ドラマを見せ、感動を共有し、それぞれの夢を紡ぎたい人を集める」(c)netkeiba
──それが『Blooming Horse Club』であり、一気通貫を目指した施設作りなわけですね。
諏訪 そうですね。僕も一口馬主を経験する中で色々と教えていただき、馬主となりホースマンとしての心得を学び、たくさんの感動をあたえてもらいました。次は、僕みたいな人を育てることができれば、それこそが自分自身の人生に彩りをあたえてくれた馬たち、競馬業界に対するご恩返しだと思っています。
そしてBloomingグループを任せられる人たちが育って、彼らに僕の思いをバトンタッチしていく。業界を盛り上げるという思いを継いでくれる人たちを育てること、それが僕の責務だと思っています。
──先ほど「命を懸けて…」とおっしゃっていましたが、本当に諏訪オーナーの人生を懸けた一大プロジェクトですね。その原動力は、やはり喜ぶ顔が見たいという仲間の存在ですか?
諏訪 はい。間違いなく仲間の存在が原動力です。先ほども言いましたが、僕はとにかく人が好きなんですよ。馬がいることによって、人がたくさん集まってきて、そこに感動の輪ができる。その素晴らしさを教えてくれたのは、スワーヴリチャードです。もちろん馬にも感謝していますが、それ以上に携わってくれた人への感謝がある。競馬って、人間ドラマ以外の何物でもないですから。

▲「競馬は人間ドラマ」
──それは本当にそう思います。先ほど「問題は山積み」とおっしゃっていたように、一筋縄ではいかないプロジェクトかと思いますが、今どんな手応えを感じていらっしゃいますか?
諏訪 決して無謀な挑戦ではなく、構想が叶えば毎年クラシックに挑戦できるという手応えはあります。強く丈夫な馬をつくるために各ステージで日々すべきこと、そこに戦略があるということが大事だと思っています。構想の完成までには2,3年の時間がかかると思いますが、僕はこのプロジェクトに人生を懸けています。
この記事を読んだ方たちのなかには、ただの夢物語に聞こえる方もいるかもしれませんが、決してそうではなく、実際に実現に向けて邁進する日々を送っています。まだまだ理想どおりの環境が整わない中ではありますが、今週の皐月賞に出走する辻牧場の生産馬グリーンエナジーは、大きな器をもって生まれ、『Blooming Farm』の代表である柏木陽子のイヤリングと、『Blooming』のマネージャーである今井翔一の後期育成をもって、現状の環境でできるすべてを注ぎ込み、器を満たして上原厩舎にバトンを渡しました。このレースでの結果が僕たちの現在地。そうした意味も含めてグリーンエナジーには頑張ってほしいと思っています。

▲グリーンエナジーの走りに注目です(撮影:下野雄規)
(文中敬称略、了)