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大久保洋吉調教師 Part5 縁の血統を手がける理由

  • 2008年01月16日(水) 13時30分
 たしかに、ひと言で“バランス”とは言うものの、それぞれ見る時期によっても印象やポイントが違ったりするというのは、素人にでも、おぼろげながらだが、わかるような気がする。こちらの言葉に「そういうことです」と肯き、「やはりいろいろな要素があるのです」と説明を加えるのであった。

 「例えば、当歳、1歳、2歳、それぞれに違ったりするのです。そのなかで、一般的に言われる基準として、“頭が軽い”というタイプがありますが、たしかにそれもひとつの要素でしょう。また、これも良く言われますが、“皮膚の薄い馬”。これについては触ってみれば良くわかりますけれども、これもひとつの基準です。あとは、肩の傾斜が良い馬の方が、クッション性があるとされ、それ故に故障の確率が少ないと言われたりもしますね。それと、トモで言えば飛節の角度が深い馬は少し弱く、浅めの馬の方が良い成績であることが多いなど、昔から言われている“基準”はいくつもあります。それらの基準は用いる状況によって違ってくるわけで、一概には言えません」


大久保洋吉調教師

 こちらが苦笑いを浮かべると大久保調教師は、「いやぁ、本当に難しいですよ」と繰り返したが、高額馬たちが取引されることで知られるセレクトセールでも、当歳と1歳に別れているし、世界的には“馬は自然のままであるべき”とされるヨーロッパでもトレーニングセールが広がりをみせているように、それだけ“馬をセレクトする機会が増えた”ということなのだろう。

 「それぞれのセールなどにおいては、馬体や血統など、それぞれの馬に対して値段が評価となるのですが、それが適正価格かどうかを考えるときには個人的な好みも基準となるわけですよ。ですから、本当に様々な要素が馬を選ぶということにはあるということなのです」

 “相馬”から話は逸れるが、現場において“この血統はこういうところがある”とか“こういう傾向が強い”という言葉を良く耳にする。生産者であり、馬主であるオーナーブリーダーにおいては、系統というか、兄弟すべてが同じ厩舎に入るということも珍しくはない。それこそ、メジロドーベルの血統はそうだ。

 “兄弟で何か共通した特徴のようなところはあったりするのだろうか”と尋ねると、大久保調教師は「もちろんです」と答えた。

 「特に気性的な部分は色濃く出たりするかもしれませんね。良い意味と言いますか、走るという部分もそうですが、一方でゲート難という特徴があったりする血統もあるのですよ。当たり前のことかもしれませんが、優性劣性ともに遺伝をしますからね」

 実は、02年高松宮記念(GI)を勝ったショウナンカンプの母ショウナングレイス(その父ラッキーソブリン)も、実は大久保厩舎“縁の血統”であった。

 「ショウナングレイスは、血統的な部分もそうですが、“繁殖として”という部分も含めてオーナーに買っていただいた馬です。このように祖母、母、あるいは兄弟を手がけているケースというのは、確かに要領を得ているというか、特徴は把握しやすいと言えます」

 馬を購入する際に選ぶ基準は、「そのときどきにおいて、それぞれの基準がある」ということであり、決してひとつのポイントだけではないということなのだ。

続く

大久保洋吉 (おおくぼ ようきち) 美浦所属
 1944年生まれ、東京都出身。早稲田大学を卒業した後、実父である大久保末吉厩舎の調教助手を経て1976年に調教師免許を取得、開業。79年、メジロファントムで東京新聞杯(GIII)を制し、初重賞制覇、96年にはメジロドーベルで挑んだ当時の阪神3歳牝馬Sを制し初GIを挙げた。昨年はユメノシルシで新潟記念(GIII)を制している。所属騎手は吉田豊、高橋智大。

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