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オークス

  • 2008年05月26日(月) 13時00分
 だいぶ回復しかけているように見えた馬場だったが、勝ち時計は2分28秒8。レースの前後半1200mずつは「1分14秒3=1分14秒5」。スピード能力だけでなく底力やスタミナを問われた2400m。いかにもオークスらしいレースだった。

 勝ったトールポピーは桜花賞の凡走でだいぶ評価が下がり、中間の気配も悪くはないが全体にもう一歩。フサイチホウオーの全妹。その兄がもたらした春のクラシックのイメージも重なり評価は分かれた。2歳チャンピオンの復活というより、今回はやっと持てる資質をフルに発揮できたのだろう。チャカついていた桜花賞と比べ、今回はなにより当日の落ち着きがあった。レース運びはかなり荒っぽいものになったが、これはトールポピーの能力とは関係のないことで、オークス馬にふさわしい底力を感じさせた。見事に立て直した陣営(山元トレセンを含めて)の総合力の勝利ともいえる。

 2着エフティマイアは、状態の良さは認められても東京の2400mでは…と思えたが好位追走から他の有力馬を振り切って抜け出し、一瞬は勝ったかの内容。桜花賞が決してフロックではないことを改めて示すと同時に、考えられていたよりはるかに総合力があることをみせつけた。体も戻って体重以上に大きく見せる。素直に評価を改めたい。

 1番人気になったリトルアマポーラ、2番人気のレッドアゲートは、少し離れた7着、6着止まり。前者は返し馬でもフワフワしていたあたり渋った馬場をかなり気にしたのだろう。また全体の雰囲気もいかにも未完成を思わせた。これからの馬と思える。後者は素晴らしい状態にみえ、直前になってさらに人気を上げた。気合をつけて好位の外を確保。直線を向いた地点では伸びるかと思えたが、人馬のあふれる闘志が逆に道中の空回り(見えないロス)につながってしまったのだろうか。追ってからが案外だった。巻き返してくれることを信じたい。

 トールポピーの斜行。長い審議の結果について。まさかこのコーナーで軽く触れるだけで逃げるわけにはいかないので、もっとも重要と思える課題にすこし触れたい。

 まず、これはトールポピー、及び池添騎手個人に対しての観点ではないこと、誤解の生じないためにも明らかにしておきたい。幸い、私は利害関係がない。

 改めて強く思ったのは、もう以前から指摘されていることだが、主催者であるJRAの職員による「審判・裁決」は完全に限界に達したというこの一点。これも今回の担当審判・裁決委員に対する不満やあいまいに対してではなく、制度に対してである。

 現在の審判・裁決のかかえる大きな不条理は、今回の斜行で改めてあまりに大きく明確になった。多頭数の激しいレースで、ときに斜行や他馬に対する妨害(故意ではないもの)が生じるのはやむをえない。レースである。そのときに審判は、公正であり、すべての競馬に関わる人びとに公平でなくてはならない。もちろんすべてのファンに対して。

 しかし、審判がJRAの職員では、いかなる人物を配したところで最初からそれは不可能である。主催者であるJRAの優秀な職員であればあるほど、その審判の与える影響やもたらす事態を考慮してしまう立場から離れることはできない。

 また、裁決委員がたまたま優れた人物でなければ、権威ではなく、権力の誇示に陥りがちになることも知れ渡っている。社会の制度や仕組みと同じである。

 で、今回。トールポピー(池添騎手)の大きな斜行は誰の目にも明らかであり、不利を受けた馬が複数いた。審判は本来、自らの役割に自信を持って、尋常ではない斜行に対し、それが他馬に重大な影響を与えるかどうか「判断」すべき立場にある。それが審判に求められるもっとも大切な、かつすべての責務である。ただし、主催者であるJRAに身をおく人物にはそれはできない。もともとの立場が審判でないからだ。

 今回も審議は長引いた。多くの関係者、当事者に事情を確かめた。JRAの職員が審判である限り、ここが間違っている。たとえばA騎手に「大きな不利があったのか?」とたずねることがすでに公正ではない。思い出してみよう。昨秋の天皇賞で公営の五十嵐冬樹騎手が斜行・降着に関係したとき、何人かの関係者が口をきわめて斜行の騎乗をとがめ、中にはののしった騎手もいた。で、今回、トールポピーは天下のノーザンFの生産馬であり、オーナーも分かりやすくいえば社台系。角居厩舎。乗っていたのは仲間である池添騎手。「ひどい、これじゃ競馬にならないよ」とは、だれもいえない。

 審判・裁決が関係者に事情を確認する方法は他国でもとられている。しかし、それは審判が公平であり、なおかつ一応は公正を貫く立場にあるからのことである。

 他馬に対するインターフェアーがあると、それが降着になっても、今回のような「本当はアウトだけど、セーフ」にしたような結果になっても、どのみちみんな後味は良くない。激しいレースでは、このあとも、どんなに注意しても不測の斜行や妨害は起こる。

 日本のレースだからこそ、本当の権威ある公正な審判がほしい。

 今回は1着馬も2着馬も、被害を受けた馬も、みんな良く知っている仲間だった。そして不条理な「被害」を甘んじて受け入れたファンが多かったからいいが、被害を受けた関係者や、2着だった馬の関係者がわたしたちのような子羊ではなく、そういう関係者や、あるいは海外の人物だったら、着順確定に対する「降着制度をゆがめた判定に異議あり」の裁判に持ち込まれ、まちがいなく負けるのはJRAであると思える。裁判で負けたときの責任と、かかえこむ負債は大きい。1回や2回にはとどまらないだろう。その場しのぎの審判・裁決、あいまいな判定はもう通用しない時代だと思われる。JRAのかかえることになった「不信」というマイナスは限りなく大きく、長く続く危険がある。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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