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「馬たちのセカンドライフ」イベントレポート 引退馬の終の棲家、養老牧場の実情(2)

  • 2018年11月06日(火) 18時00分
第二のストーリー

▲引き続き、10月8日に競馬博物館内で行われたシンポジウムをレポート(提供:認定NPO法人引退馬協会)


ボランティア精神がなければ成り立たないという現状


 引退した競走馬のセカンドライフといういと、一握りが種牡馬、あるいは繁殖牝馬、そして乗馬というのが大きな括りだ。セカンドステージを終えて、サードステージというと養老牧場で余生を過ごすということになる。

「最後まで馬の面倒をみる、最期の時を迎えるまで馬をみていくというのが養老牧場です。だから途中で馬が牧場を出ていくことはない、終の棲家なのです。100頭いれば100通りの亡くなり方がありますので、養老牧場はとても大変な仕事だと思います」(認定NPO法人引退馬協会代表沼田恭子さん)

 歯が悪くなって飼い葉をちゃんと食べられないとか、足腰が弱って起立が難しくなるとか、疝痛が命取りになるなど、年齢を重ねれば健康管理には相当気を遣わなければならない。これは数々の牧場等の取材を通して個人的に感じたことだが、預託料のわりに重労働で気苦労が多いということだ。

 引退馬協会が引退馬連絡会に参加している牧場や団体等にアンケートを取ったところ、馬にお世話になったからその恩返しをしたい、あるいは使命感から養老牧場を始めたという方が何人かいた。しかもほとんどの牧場は預託料がかなり安く抑えられており、そのわりには重労働というのが現実だ。

「ボランティア精神がなければ養老牧場は成り立っていかないというのが、今の日本の現状だと思います。これからはそうではなく運営できるようになってほしい、今のように養老牧場をされている側のお気持ちにすがっている部分がとても強いですね」(沼田さん)

 前回も書かせてもらったが、養老牧場の多くは家族経営、あるいは1人だけで運営しているケースが多い。さらには、引退した競走馬を預託する人は特別なお金持ちではなく、ごく普通の競馬ファンという場合がほとんどだ。預託する側の懐具合を考慮して、養老牧場も預託料を抑え気味にしている傾向がある。引退した競走馬を引き取る側も預かる側も、馬への恩返しや使命感といった心意気で何とかやりくりしているというのが実情なのだ。

 もちろん牧場側も経費を抑えるための創意工夫は必要なのかもしれないが、実際自分で馬を引き取ってみて改めて実感したのは、馬は基本的にお金がかかる生き物だということだ。そして大きな馬の世話は、時には危険を伴うこともあるし、馬の運動、馬房掃除、手入れ、日頃のケアなど本当に手間がかかる仕事だ。

 すべての牧場がそうとは言わないが、預託料を安くすると、収入を得るために預かる頭数を増やしている施設も見受けられる。人手を増やせればいいのだが、人件費がかかると預託料にも経営にも響くために少人数で馬の世話をすることになる。必然的に手が回らなくなり、しわ寄せは馬に行き人も疲弊するという悪循環になりがちだ。

 自分で馬を引き取ったのをきっかけに、パートナーと養老牧場の立ち上げを何度か考えた。馬にしわ寄せがいかないよう少頭数の牧場をと思いいろいろと計算を試みたのだが、預託料をある程度の値段に設定しないと生活は成り立たないし、預託する側の負担が大きくなる。その結果、養老牧場の立ち上げは立ち消え状態となっている。

心意気や善意も大事。だが…


 Happy people make happy horse(ハッピーピープルメイクハッピーホース)という言葉がある。幸せな人が幸せな馬を作る。心意気や気持ち、善意も必要だけれど、それだけでは限界もある。預かる人も預ける人も本当にハッピーな気持ちになってこそ、引退競走馬たちにも本当に素晴らしい余生が待っていると言えるだろう。

 公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナルの引退名馬繋養展示事業の助成金は、10歳以上のJRAの重賞勝ち馬には月額2万円、交流重賞勝ち馬には月額1万円が支給されている。月額2万円では十分とは言えないし、故障で引退して乗馬への道を絶たれている馬もいるわけで、10歳という年齢制限も撤廃してほしいとも思う。ともかく体を張って競馬を支えてくれた名馬たちには、もう少し手厚い待遇をと願うものだ。

 またJRAが行う競走馬のセカンドキャリア支援については以前当コラムでも紹介したが、引退競走馬を繋養する牧場の経営がしっかり成り立つように、JRAなどの大きな組織が何らかの手立てを考えてほしい。そして人間に貢献してきた馬たちが1頭でも多く余生を過ごせるような仕組みができることを個人的には願っている。

 シンポジウムでは引退馬連絡会に参加している牧場にいる有名無名の馬達の中から、重賞を勝った馬たちの写真も紹介された。その中のタイキシャトルとメイショウドトウは引退馬協会のフォスターホースとなっているが、養老牧場ではなく種牡馬として繋養されていたイーストスタッドにそのまま暮らしている。

第二のストーリー

▲▼引退馬連絡会に参加している牧場で暮らす重賞勝ちの引退馬たち(提供:認定NPO法人引退馬協会)


第二のストーリー

「2頭とも去勢されていないんですよね。牡馬を繋養できる牧場が意外に少ないので、しばらくはイーストスタッドさんにお世話になろうと考えています」(沼田さん)

 この2頭のように種牡馬を引退して第二の馬生を送るという馬もいるだろうし、高齢になってから去勢するのはリスクが伴うケースもあるので、牡馬でも預託できるなどいろいろなパターンに対応できる牧場も必要になってくるだろう。

 引退馬を取り巻く状況は良い方向に向かっているとは感じてはいるが、こうして掘り下げてみると課題や改善点はまだ山積していることがわかる。

 次回は引退馬協会の今後の取り組み、及び、他の参加5団体の活動についてレポートする。

(つづく)



認定NPO法人引退馬協会 https://rha.or.jp/index.html

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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