老朽化に鑑み総工費63億円で美浦トレセン“北の杜”地区に建設された新厩舎の評判がいい。
途中震災の影響で工事中断があったが、この5月に完成し、第1期として大和田、粕谷、菊川、木村、小島茂、清水英、高橋祥、高橋文、藤沢和、武藤、和田道、和田雄の12厩舎が移動した。
従来と異なる最大の特徴は馬房の配置だ。これまで馬が横一列に並んでいたものが、通路を挟み向かい合う対面式に。この効果を「引っ越して一晩で馬の顔つきが変わった」と
高橋文雅調教師は説明する。
「顔を出せるようになって馬同士が互いに見られるし、馬房自体も広くなり(3.3×4.0メートル)過ごしやすくなった。だから総じてカイ食いが良くなり、普段寝つきの悪い馬まで寝ていたり…。みんな牧場と勘違いしているんじゃないかと思うくらい
リラックスしているよ(笑い)」
滑り止めと防音のために床にゴム製のマットを敷く一方、天井を高くし空気の流れができるように送風機を設置した馬房内部も高評価を博す。
「先週30度まで気温が上昇した日もミストが不要で、過ごしやすさを肌で感じた。これからの暑さ対策にはもってこいだね。さらにウチは端に位置するから静かさも雲泥の差かな」と居住性の良さを強調するのは
武藤善則調教師だ。
加えて、新厩舎は事務所棟と馬房棟、洗い場がコの字形の配置となり、敷地内の有効活用が可能に。これで新たにトレセンに登場したのが
ウォーキングマシン(
JRAから補助金が出るため500万円で購入可能)。こちらはいわば馬の室内ランニング機だ。時速10キロ近くまでスピード調整が可能で、この中に馬を入れると自動的に運動する仕組み。もし馬がサボって後ろ扉に触れても、弱い電流が流れて動きを促す機能もある。
「引き運動だと同じ時間をかけても人の体力で差が出るけど、マシンなら安定した運動量が計算できる。さらに急に人が休んだ場合も作業に滞りがないし、気が乗らない雨の日なんかは馬にも心地よい調教に変わる」
こう語った武藤師が最後に結んだ言葉は「今春のクラシック(2勝)で美浦にも少し風が吹いてきた感はある。自分たちは新厩舎の効果でこの風を加速したい」。関係者のその決意こそが、新厩舎建設の最大のメリットとなることを当方は期待したい。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ