GIは記録達成も見どころのひとつだろう。今年、
武豊騎手が勝利すれば、
天皇賞・秋は最多勝タイとなる。2001年は
テイエムオペラオーの天皇賞4連勝達成に注目が集まっていたが、それを1馬身差で封じたのはダートからの転戦馬だった。「平成
天皇賞・秋 名勝負列伝」、今回は
アグネスデジタルを振り返る。
■偉業達成を阻んだ、究極の万能ホース
2001年は、
テイエムオペラオーの
天皇賞・秋連覇、そして天皇賞春秋4連勝に、大きな期待がかけられていた。単勝オッズは2.1倍、支持率は4割近かった。2番人気にはその
テイエムオペラオーを
宝塚記念で破った
メイショウドトウ(3.4倍)、3番人気は春に
ドバイシーマクラシックを制した
ステイゴールド(4.5倍)、そして
アグネスデジタルは20.0倍の4番人気。ファンは、
テイエムオペラオーの偉業達成に注目しつつ、3強の構図と見ていたのである。
アグネスデジタルは前年に
マイルCSを勝っていたとはいえ、春の
安田記念は惨敗し、秋は
地方競馬のダート交流重賞を2連勝から中2週でここへ臨んでいたのだから、評価は相応だっただろう。
レース当日は雨が降り、馬場発表は重。馬場を問わない
テイエムオペラオーにとって、さらに勝利の可能性が高まったように思われた。
逃げると予想された
サイレントハンターの出遅れで、
メイショウドトウがハナに立ちレースが進んでいく。道中は、先頭が
メイショウドトウ、
テイエムオペラオーが3番手、その内に
ステイゴールドが並び、
アグネスデジタルは後方4番手に控える。1000m通過は62.2秒というゆったりした流れから、ほぼ一団となって4コーナーを回っていく。直線を向くと、内から
ステイゴールドが
メイショウドトウを捕らえるが、直線半ばで
和田竜二騎手のムチに応えた
テイエムオペラオーが一気に先頭へ躍り出る。そこへ大外から
アグネスデジタルが差を詰めてくるも、
テイエムオペラオーは簡単には抜かせない。
テイエムオペラオーへの声援が場内に響き渡るなか、内の
テイエムオペラオーと外の
アグネスデジタル、離れた2頭の競り合いはゴール前まで続いたが、最後に1馬身差の先頭でゴールしたのは
アグネスデジタルだった。その瞬間、場内の声援はどよめきに変わっていた。
四位洋文騎手は「白井先生の指示もあり、馬場が悪いのでなるべく良いところを走らせた。(1〜3番人気の)3頭は強いと思っていたので、信じられない気持ち」と率直な気持ちを口にしていた。四位騎手は
アグネスデジタル引退の際にも、最も思い出に残っているレースに
天皇賞・秋をあげ「最後の直線ではものすごい伸び脚を見せてくれてとても驚いた」とコメントしている。
テイエムオペラオーの横綱相撲とも思える直線の抜け出しを差し切った末脚は、鞍上の想像をも超えたものだったということなのだろう。
「真の勇者は戦場を選ばない」とは、
JRAが制作する競走馬のポスターで
アグネスデジタルにつけられたキャッチコピーである。どの馬よりも芝ダートの垣根がなかった究極の万能ホース、それが
アグネスデジタルだった。