クラシック3冠を制した
アーモンドアイが出なければ、牝馬重賞で今季負けなしの
ディアドラも不在。強者不在の今年の
エリザベス女王杯は、ある意味で多様化した
JRA・GIの形骸化を意味する皮肉な女王決定戦である。しかし、個人的には非常に興味深い戦いとなった。それは
フロンテアクイーンを送り出す佐藤勝美助手の言葉に端を発する。
「古馬になってから重賞7戦のうち5回は馬券に絡んでいる。切れ味に欠ける分だけ、いつも何かに負けてしまうが、この馬は本当に頑張っていると思うよ。報われない善戦ウーマンだけど、傑出馬が不在のGIならチャンスがあっていいんじゃないかという気もする」
デビューから22戦で2着9回。うち5戦が重賞という鬼の“
シルバーコレクター”。それが
フロンテアクイーンの持ち味かもしれないが…。冒頭に記した通り、今年のエリ女はタイトルに恵まれない者への“ご褒美”的な立ち位置。そこに活路を見いだす手は確かにあるかもしれない。
「
安田記念の
モズアスコットがそうだし、重賞初勝利がGIってことも混戦メンバーならあり得るかな。ただ、馬もそうなんだけど…。今回ばかりは人、(蛯名)
マサヨシに勝ってほしいという思いが俺は強いんだよ。競馬を盛り上げてきた功労者がこれまでになく苦境にあえいでいる。今のアイツの中の嫌な流れを、これまで報われなかったこの馬でこそ断ち切ってほしい。個人的にはそんな思いを込めたいね。競馬は上手な馬だし、ペース判断ならトップの騎手。このコンビにやってほしいと思うけどね」
大方の競馬ファンが共感できる人情話だと思う。だが、簡単なことではないとも思う。なぜならこれが今の競馬のトレンド、ではないからだ。同馬を管理する
国枝栄調教師は「(怖いのは)やっぱり
ノームコアかな」と言う。それはそうだろう。
アーモンドアイや、
ディアドラが不在でも勝利の公算が大きい馬――。
秋華賞をパスした臨戦過程にはそんなノーザンファームのしたたかな計算が見え隠れする。加えて鞍上は両馬の主戦でもある
クリストフ・ルメール。一切の情を排除したこの采配を必勝態勢と言わずに何と言おう。
つまり、「情」と「非情」の一大決戦。それが今年のエリ女の本質だ。いずれの側に立って◎を打つべきか…週末までじっくり考えたい一戦である。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ