コメント発信者は我々が思っている以上に、自身の言葉がどんな形になって紙面に掲載されるのかを気にしている。もちろん、オーナーサイドに気を使っているところもあるだろう。しかし、自身の口から出た言葉を訂正しながら、できるだけ真実に近づけようとするコメント発信者の姿を見てみると、聞いた言葉をそのままの姿で使ってあげたい、使うべきではないのか、と思うことがある。
いまから半年前の6月下旬。デビュー戦を控えた
アドマイヤマーズについて大江助手が「“完成度が高い”というコメントでは早熟と受け取られちゃいますよね? でも決して早熟ではないんです。それとは違うんですよ。うーん、なんか適切な表現がないかなあ」と何秒間か考えた後、「平均点が高い――。この表現にしましょう。スタート地点のベースが他の馬よりも高いだけで、完成しきっているわけではないんですから」と強調した瞬間のことを、記者はハッキリと覚えている。もちろん、コメント発信者である大江助手も覚えてくれていた。
「そうそう、そうでした。他の馬より最初のベースが高いと。実際、
アドマイヤマーズは夏の休養で全体的な底上げをしてきた。どこがどう良くなったではなく、すべての点数が上がっているんです。“仕上がり早で完成度が高い”というコメントはやっぱり正解ではなかった。“平均点が高い”というコメントが正解だったんです(笑い)」
スタート地点での評価でも相当なレベルだったはずだ。なにせ「新馬戦に向かう段階で“重賞でもイケる”かな。もちろん、重賞に出れるではなく、勝てるという意味ですよ」と言っていたくらいなのだから…。
重賞を勝つ馬のレベルが80点とするなら、現在は90点? いや、限りなく満点に近いのかもしれない。なぜなら
アドマイヤマーズには弱点らしい弱点がないからだ。
「スローペースでもかからずに走れるし、ペースが流れて心肺機能の高さが必要になるレースにも対応できる。
ディープインパクト産駒のようなギアの入り方こそしませんけどね。正直、スローで速い上がりを必要とした前走(
デイリー杯2歳S)は向かない展開になったとも思ったんです。しかし、それさえも克服してしまった。こうなってしまったら嫌だな――。そんな状況がなくなりつつあるんです」
平均的になんでもこなす人間よりも特筆した才能のほうに周囲の目はいくものだ。しかし
アドマイヤマーズの才能が多岐にわたるとするならば…。
「競馬は上がりタイムを競うのではなく、スタートからゴールまでを最も速く走った馬が勝つ競技」
記者が大事にしているフレーズがこれだ。発信者は“生ける伝説”藤沢和調教師。栗東駐在の記者が師と話した機会は片手程度しかないが、それでもこの言葉を現在も鮮明に覚えている。「ジリ脚」という表現をされていた
タイキブリザードについて藤沢和師が放ったこのフレーズは、高速化の進む現在の競馬において、価値がさらに増しているように感じている。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ