直接的には「若駒の情報」とは重ならないものの、今年から廃止される「降級制度」に伴う面白い話を聞く機会に恵まれた。「降級制度の廃止が決まった2年前から進めてきた」という加藤征調教師の話は、競走馬が現役生活でいかに経済的な活躍=賞金を稼ぐか。まさにキュウ舎戦略そのものについてだ。
降級制度の廃止は、簡単に言えば「1頭の馬当たりの賞金を稼ぎにくい状況」を生む。なぜなら、以前は仮に500万下を勝っても、降級でもう一度500万下に出られるため、もう1勝を挙げる計算ができたが、この図式が成り立たなくなるからだ。これに対して加藤征調教師が取った戦略は「デビューの時期をより早める」ことだった。
新馬戦のスタートが
日本ダービーの翌週に繰り上げられた2012年からサークル内全般に見受けられるようになった傾向でもあるが、そこに「降級制度」を持ち込んだ話は、少なくとも記者にとっては初めてだった。
加藤征キュウ舎の現3歳は夏の北海道(函館、札幌)で6頭、新潟で1頭がデビューしたのをはじめ、9月の中山でも6頭がデビュー。例年と比べても異例の早期デビュー組の多さだった。
「(昨)年内に31頭がゲート試験に合格して、24頭がデビュー(デビュー後、転キュウした3頭を含む)。早めに(美浦)近くの牧場に移動させたりと育成段階から下準備をして、一定の成果(10頭が勝ち上がり)も出せました」と加藤征調教師。
早期デビューの戦略が結果に表れているのと同時に「基本的には初戦から(しっかり)走れるように、キュウ舎に長く置いて調整している。だから能力が、はっきりと出る」ことを強調した。
昨年暮れの28日の新馬戦(中山)を制した白毛の
マイヨブランは当初、年頭のデビュー予定だったが、新馬戦の除外ラッシュを見込んで前倒しで投票。狭き抽選をくぐり抜けてしまった、いわば“想定外”の出走だったが…。それでも勝利できたのは、もともとの調教量にアドバンテージがあったからに他ならない。
ただ早くデビューするだけではなく、早めに十分な準備をすることで、個々の能力の見極めが確かなものになるため、勝機がより鮮明に。勝てる見込みのない馬が無謀な競走生活を続けることによる経済的不利益を避けることにもつながる。要は「見極めの早さ」こそが、今後のキュウ舎経営に求められる大事な要素になっていくのではなかろうか…って、難しい話はここまで。
本来の当連載の役割を全うすべく、ここからは日曜(27日)の
セントポーリア賞(500万下、東京芝1800メートル)の話を。もちろん、前出の戦略のもと育ってきた加藤征キュウ舎の
アドマイヤスコールが最大の注目馬なのは言うまでもない。
札幌デビュー(3着)後の東京で評判馬
ソルドラードを負かして勝ち上がり、東京スポーツ杯2歳Sも8着とはいえ、着差はわずかに「0秒6」。未勝利戦勝ち直後の身で重賞にチャレンジしたことこそ、陣営の期待の表れでもあろう。
「
エレナレジーナ(新馬勝ち後の
ファンタジーSで6着)もそうだけど、勝ち方が良ければ重賞にもチャレンジさせる。
アドマイヤスコールも2戦目の内容が良かったからね。東スポ杯はエンジンがかかる前に進路をカットされたが、スムーズだったら、もっと際どかった。今回は自己条件で仕切り直し。よほど抜けた馬がいなければ大丈夫でしょ」(加藤征師)
まずは10頭いる加藤征キュウ舎の勝ち上がり3歳の中で最初の2勝目を挙げ、その存在感をアピールしてくれることだろう。
(立川敬太)
東京スポーツ