今年のGIII
きさらぎ賞(2月3日=京都芝外1800メートル)は「ショボい」という声を聞く。それはメンバー構成ではなく、出走頭数の話。登録段階で11頭、しかも回避馬が出そうな状況では「重賞の体面を保てない」ということらしいが…。
きさらぎ賞は、そもそも少頭数で行われるレース。過去10年の最高頭数は2012年の13頭で、平均すると9・8頭にすぎない。それでも、
きさらぎ賞が「クラシックの登竜門」と呼ばれているのには理由がある。
12年
ワールドエース、14年
トーセンスターダム、16年
サトノダイヤモンドで、
きさらぎ賞を過去に3勝している池江調教師は「クラシックを狙っている馬で、なおかつレース間隔を空けたいタイプにとって、
きさらぎ賞は出走させたくなるレース」だという。それは、なぜか?
「クラシック、特にダービーを考えた場合、この時期の3歳馬には最後に脚を伸ばす競馬を教えたい。それだけを考えるのなら
共同通信杯でもいいんだけど、この時期の3歳戦はスローペースになりやすいでしょ? スローで流れた東京の競馬は、どうしても馬群が固まってしまうから、さばき切れずに脚を余す状況が起きやすいんだよね。一方、
きさらぎ賞は直線で馬群がバラける京都外回りのレース。上がりだけの競馬になっても、能力のある馬なら勝ち切れる可能性が高いんだよ」(池江調教師)
勝ち切れる可能性が高い――。このフレーズこそが重要だ。池江キュウ舎は次週の
共同通信杯に
クラージュゲリエを出走させる予定だが、そこには単なる“使い分け”ではない理由が存在していた。
「
クラージュゲリエは前走の重賞(
京都2歳S)勝ちでクラシックにおける賞金面の問題をクリアした。だから本番前に東京コースを試すことができるわけ。ウチのキュウ舎では毎年のように、
きさらぎ賞に出走させてきた(初挑戦の09年
ダノンカモンから計8頭)。そのほとんどがダービー出走を確定させていない賞金の馬。
先ほどの話も、ここにつながっていてね。経験は積めなくても、長距離輸送などの負担がない京都の
きさらぎ賞で賞金加算を狙う。そこをクリアできれば、ダービーから逆算したローテーションを組めるようにもなる。
ちなみに、
きさらぎ賞を勝ったウチの3頭はすべて
ディープインパクト産駒。軽い京都の芝が合うタイプと分かっていたからこそ、狙っていけたというのもあったよね」
今年の出走予定馬も
ディープインパクト産駒の
ダノンチェイサー。トップトレーナーにわずかな誤算があるとすれば、最後の部分だろうか。
「例年と違って現在の京都は時計がかかるタフな芝。本当は同じ
ディープインパクト産駒の
サトノルークスとで2頭出しの予定だったんだけど、そんな経緯もあって1頭のみの参戦になった」という決断には、
きさらぎ賞を知り尽くしているからこその重みがある。
そんな状況での施行になっても、
きさらぎ賞は、
きさらぎ賞。この一戦からクラシックに向かう馬は確実に現れる。
「もちろん、クラシックに向けての賞金加算は狙っているけど、今回は距離面の課題をクリアする意味合いもある。
ダノンチェイサーの母系は短距離系。過去に2回出走した1800メートルのレース(未勝利戦1着、
きんもくせい特別2着)では上手に走ってくれているけどね。
きさらぎ賞で結果を出してくれれば、2000メートルの
皐月賞だけではなく、その先も見えてくるから」と池江調教師は締めくくった。
例年とは違う状態の芝であっても
ディープインパクト産駒なのか?
それとも別の種牡馬が台頭するのか? 課題を与えながら、結果も求められる一戦という陣営の思惑も含めて考えれば、やはり頭数に関係なく、見どころ豊富。今年も注目すべきレースであることに何ら変わりはない。
(松浪大樹)
東京スポーツ