調教師が引退間近となれば、大挙して管理馬を出走させるのがよくあるパターン。“最後なんだから、使えるものはすべて使ってしまえ”という発想だ。
今月いっぱいで定年引退となる沖調教師が
フェブラリーSに
ワンダーリーデルを出走させるのも、そういうニュアンスが強いのかと思っていたが、実際は意味合いが違っていた。
「オーナーのほうから“最後だし、GIに使ってみませんか”というお話があったんです」(沖調教師)
先週、聞いた段階では「同じ日に組まれている京都の
大和Sを考えています」と話していたトレーナー。その理由は「東京に遠征(
根岸S5着)した後に中2週で再度の東京。しかもGIとなると、厳しいものがありますからね」
その根底にあるのは“馬優先主義”だ。
「普通の会社なら、廃業とか倒産になれば社員は皆、自分で次の職を探さないといけないのに…。この世界はありがたいことに、馬も従業員も新しい厩舎が引き受けてくれるわけですからね。なるべくいい状態で馬を渡したいんです」
沖調教師といえば、栗東トレセンで「ザ・いい人」として通っているが、まさにそれを地でいく言葉。そんな「いい人」の最後に
ワンダーリーデルのオーナーが、晴れ舞台(ラストGI)を用意するのも当然といえば当然だ。
前置きが長くなった。沖調教師が話した通り、とくに関西馬にとって、
根岸S→
フェブラリーSという中2週での東京連続遠征は、確かに楽なローテーションではない。近年こそ本番に直結している
根岸Sだが、それまであまりいい結果を出せなかったのは、やはりこのローテが影響していた?
もし、この仮説が正しければ、
根岸S組で狙うべきは力を出し切れずに十分な余力が残っている馬ということになる。
「状態自体は良かったんですけどね。以前、
武蔵野Sで大敗(17年12着)した時と同じ馬房に入ったのが悪かったのかな(笑い)」
冗談交じりに前走の
根岸S8着を振り返るのは
サンライズノヴァの棚江助手。力を出していないのは確かなようで「いつもより早く、レースの翌々日から乗り出しを再開しました」
以前は賞金不足に泣くことが多く、常に勝負駆けだったが、3走前の
武蔵野Sを勝ったことで「ちょっと気持ちの上で余裕が出てしまったのかも」
今度は体も締まってくるとのことで「とにかく、この馬にとって東京しか走る場所はないんで」と棚江助手は“今度こそ”を誓う。
根岸Sであっけなく敗れたことが、本番への体力温存というケガの功名となれば…。馬券を買うつもりの坂路野郎にとって人気ガタ落ちのこの状況は実においしい。
(栗東の坂路野郎・高岡功)
東京スポーツ