同じ
桜花賞トライアルでも、
チューリップ賞と
フィリーズレビューでは趣がかなり違う。
本番と同じ舞台で行われる
チューリップ賞は、
桜花賞を“勝ちたい馬”が出走してくる傾向が強く、今年も阪神JFの覇者
ダノンファンタジーが始動戦に選択して快勝。どうしてもメンバーが強くなるため、フルゲートに満たない頭数でも、
桜花賞の出走権獲得は難しくなる。
一方、フィリーズRは
桜花賞に“出走したい馬”が出てくるレース。大挙して登録してきた2勝馬のほとんどが、出走権の発生する3着以内を全力で取りにくる。距離の違いはわずか200メートル。しかし、この200メートルの違いが大きく、コース形態も外回りの
桜花賞と異なる内回り。本番での好走を意識するのであれば、走らせる理由はほとんどない。
にもかかわらず、すでに
桜花賞への賞金ラインを満たし、本番を想定した形で前哨戦を走れるはずの
アウィルアウェイが、先週の
チューリップ賞を選ばず、阪神芝内回り1400メートルのフィリーズR(10日)を選択してきた理由とは?
そこには4か月ぶりのレースに挑む、苦しい胸の内がある。
「左前の捻挫で阪神JFを回避。帰厩してからの調整は順調とはいえ、1週間でも多く時間が欲しいという気持ちはありますね。それにアク
シデント明けを考えれば、走り慣れた1400メートルのほうがいいのではないか、と。もちろん、この後は
桜花賞に向かう予定なんですが、1400メートルに対する適性の高さはすでに示していますから」(高野調教師)
まずは安全に始動させたい――。そんな陣営の言葉を聞けば、今回はあくまで叩き台。信頼度はそこまで高くないようにも思えてしまうが、持っているポテンシャルは相当高い馬。
桜花賞での勝ち負けではなく、“出走を目標にする馬たち”が集まったレースなら、力でねじ伏せてしまうシーンは十分に考えられる。
実際、トレーナーの発言はネガティブなものも少なくないのだが、そのすべてを「計り知れないポテンシャルで凌駕してくれないか…。やはり期待している部分がかなりある」のひと言で打ち消した。使うレースはフィリーズRでも、この馬は紛れもなく、
桜花賞を“勝ちたい馬”なのだ。
「
ジャスタウェイ産駒ですが、入ってきたときから肉体的に完成していましたし、僕はこの馬に対して“晩成”というイメージを持っていない。では完成し切っている馬なのかとなれば、それも違っていて。例えばレースでは必ず出遅れてしまうし、競馬も上手ではありません。今回は多頭数の内回りという難しい条件を走りますから、仕上がりうんぬんよりも、そちらのほうを気にしているくらいなんです。
だからこそ、この一戦をどのように走ってくれるのか。それによってフルゲートになる
桜花賞での期待も高まると思います。マイル戦ではないレースでも走る意味は少なからずあるんですよ」
アウィルアウェイの半兄はマイル路線で覚醒中の
インディチャンプ。あの馬の父が
ステイゴールドであることを考えれば、この血統は母系の影響が相当強いと考えられる。高野調教師も「
オークスというイメージは持てない。勝ちたい、勝たせたいと考えているのは
桜花賞です」
先週の
チューリップ賞で
桜花賞の前哨戦はすでに終わった――。そんな声をシャットアウトするような、
アウィルアウェイの痛快な走りを期待したい。
(松浪大樹)
東京スポーツ